見出し画像

五重塔はなんのためにあるの?【多田修の落語寺・鷺取り】

落語は仏教の説法から始まりました。だから落語には、仏教に縁の深い話がいろいろあります。このコラムでは、そんな落語と仏教の関係を紹介していきます。今回の演題は「鷺取り」です。

 ある男が、鷺を捕まえて金儲けしようと考えました。明け方、まだ眠っている鷺を次々に捕まえて、逃げないように自分の体にくくりつけます。すると、眠っていた鷺がいっせいに目を覚まし、飛び上がりました。男も一緒に空を飛ばされているので、思わぬ展開にあわてています。

 すると、目の前にお寺の五重塔があります。男は塔のてっぺんにしがみつきます。鷺は飛び去っていき、塔に残ったのは1人だけ。今度は、どうやって下に降りたらいいかわかりません。

 町では、塔の上に男がいると話題になり、野次馬がやって来ます。そこへ寺の僧侶が4人、大きな布団を持って、ここに飛び降りるよう伝えます。男は布団目がけて飛び降ります。その結果は?

 五重塔などの塔が建っているお寺があります。お寺の塔は何のためにあるのでしょうか? 

 一言で言えば、お釈迦さまのお墓です。およそ2500年前、お釈迦さまが亡くなると荼毘(火葬)に付され、仏舎利(お釈迦さまの遺骨)を納める塔が造られました。その後、仏教が広まると仏舎利は各地に分配され、それを収める塔が建てられました。お寺の塔には仏舎利が収められていますから、お墓のようなものです。もっとも、1人の遺骨ではすべての塔に足りないので、代わりに宝石を収めている場合があります。

 落語の中では野次馬が多い中、僧侶は人助けしようとしていました。思いがけないことが起こったとき、その人の普段の心がけが現れるものです。

 「鷺取り」を楽しみたい人へ、おすすめの一枚
東京の落語家さんも演じますが、CD化されているのはほとんどが上方(京・大阪)のです。桂枝雀師匠のCD「枝雀の十八番 第七集鷺とり/口入屋」(EMI Music Japan)をご紹介します。主人公がナンセンスなことに真剣に取り組む様子が笑いを誘います。

多田修(ただ・おさむ)
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、龍谷大学大学院博士課程仏教学専攻単位取得。現在、浄土真宗本願寺派真光寺住職、東京仏教学院講師。大学時代に落語研究会に所属。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。