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海の底で男が出会ったものは……アカデミー賞短編アニメ賞受賞作 『つみきのいえ』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

第83回 映画「つみきのいえ」
スティーブン・スピルバーグ監督
2004年アメリカ作品

 
  わずか12分の作品です。2009年度・米アカデミー賞の短編アニメ賞ほか、国内外の映画祭・映画賞で20冠を獲得。Amazonprimeで観られます。

 物語が始まるのは高齢男性の部屋。壁には一面に、男性の家族写真が飾られています。しかし現在の男性はひとり暮らし。ひとり分の食事を用意し、1杯のワインを楽しみます。部屋の窓から見えるのは広い海面。男性の家は海の中に建っているのです。

 何らかの理由で、男性が住んでいる町は水没してしまったのです。男性の子ども家族を含め、町のほとんどの人が移転してしまいました。しかし男性はその町に住み続けています。少しずつ上昇する海面に対応し、家を積木のように増設しながら。淡々と。

 ある日、男性は愛用のパイプを海に落としてしまいます。それを拾うため、ダイビングスーツを着込んで海中へ潜る男性。建物の階下へ進むその目に映るのは、そこで男性がかつて過ごした生活の日々でした。妻の死、孫の誕生、娘が配偶者を連れてきた日、娘の成長、娘の誕生、妻との結婚。海底までたどり着き、わが家を見上げる男性。その建物は男性の人生そのものでした。

 この作品では、追憶する男性を、過去に生きる人物とは描いていません。積まれてきた豊かな過去の上にある今を、日々受け止めていることが伝わります。意味など問う必要もなく、その人生を肯定しています。

 海から戻った男性は、やはりひとりで食卓につきます。しかしその日はワイングラスは2つ。何でもない、ただ積み上げてきただけの人生に乾杯。
 
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。
 
本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。

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