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若い男性に変化あり? 旅先で実感する、男女の感覚の変化

『築地本願寺新報』で連載中のエッセイストの酒井順子さんの「あっち、こっち、どっち?」。毎号、酒井さんが二つの異なる言葉を取り上げて紹介していきます。今回のテーマは「男」と「女」です(本記事は2022年10月に築地本願寺新報に掲載されたものを再掲載しています)。

  気がつけば目立つようになってきたのが、乳幼児を連れたお父さんが、スーパーで買い物をする姿です。ある日曜日の夕方、近所のスーパーでは、何人ものお父さんが、小さい子と一緒に肉や野菜を選んでいましたっけ。

 我が家の近くには保育園があるのですが、子どもの送迎に来るお父さんの割合も、激増しています。今時の若い父親たちは、子育てに参加することが当たり前なのです。

 子育てのみならず、コロナ時代となって以降、男性が家事をする時間がぐっと増えたのだそう。日本は、男性の家事時間が極端に少ない国ですが、ステイホームになって家事量が増える中、「さすがに女性だけに家事を押し付けられない」となったのでしょう。

 それでもまだ、家事負担は女性に多くのしかかっているのも、事実です。しかし家事や子育てを担う大変さや責任、そして喜びといったものを男女が分かち合うことができるようになったのは、すてきなことではないかと私は思うのでした。

 家事や育児のみならず、男女のあり方は今、激変を続けています。まずLGBTQなどの存在がクローズアップされることにより、性別は男と女だけに分けられるものなのか……? と、根本部分から揺らいでいる。男は男らしく、女は女らしく、といった規範を誰かに勝手に当てはめることも、今や御法度なのです。

 そんな中で私が男女の感覚の変化を実感するのは、旅先においてなのでした。ここ数年、旅先で目立つのは、若い男性だけのグループ旅行。男同士で旅をする人々が、明らかに増えているのです。

 先日もとある温泉地に行くと、こちらに三人組、あちらに五人組、後ろには八人組……と、若い男性だけのグループがあちこちに。彼等を見て、「かつては、同性同士の旅行といったら女がするもので、男子は恋人と行くか、一人旅をするか、旅をしないかの三択だったのに」と思ったのです。

 対して今の若者は、恋愛離れの影響なのか、男同士でもとても楽しそう。ナンパなどする気配も微塵もなく、むしろ異性の視線が無いところで、のびのびとしています。

 その様子を見て私は、「男性たちもやっと、この楽しさに気づいたのね」と思ったことでした。同性同士での旅でしか味わえない楽しさは、確実にあるのであって、彼等もようやく自由になって、女性並みに旅を楽しむことができるようになったのかも。

 男性同士の旅は今のところ、若い世代に目立ちます。が、この先はきっと、中高年にもその流れは広がることでしょう。子育てを終えた妻たちが皆で温泉に行くのと同じように、子育てを終えた夫たちも、皆で温泉に行くようになるのかも。

 かつて男同士で温泉と言ったら、芸者さんを呼んで大騒ぎといった団体旅行でしたが、それは昔の話。これからの男性は、男同士で温泉に行ったなら、のんびりと日頃の家事や仕事の疲れを癒したいでしょうし、
「自分で料理を作らなくていいって、最高!」
 と、上げ膳据え膳を堪能するに違いない。

 「男は男らしく、女は女らしく」と育った方々にとって、男女の差の減少は、嘆かわしいことかもしれません。しかし男女差の減少によって、私たちは互いのことがもっと理解できるようになるのかも。家事負担が均等となった世ではきっと、夫婦の旅もまた、ずっと楽しくなるような気がしてなりません。
 
 
酒井 順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト。1966 年東京生まれ。大学卒業後、広告会社勤務を経てエッセイ執筆に専念。2003 年に刊行した『負け犬の遠吠え』がべストセラーとなり、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。近著に『女人京都』(小学館)など。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

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