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人間回帰 | SAJ2021を終え、今この社会に思うこと。

もう2週間前になりますが、2021年1月30日(土)にSAJ2021 -スポーツアナリティクスジャパン- を開催しました。2014年に一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(JSAA)を立ち上げ、同年12月に初めて開催したスポーツアナリティクスジャパン(SAJ)も今回で7回目となりました。

僕自身が毎回こだわりを持って取り組んでいるテーマ設定と今回の"人間回帰"に込めた想い、そして今この社会に思うことを綴りたいと思います。

SAJにおけるコミュニケーションデザイン

JSAAの企画・PR担当として、SAJでは毎回クリエイティブディレクションを担っていますが、2016年以降のSAJでは「尖る」ことをひとつのアイデンティティとして、毎年テーマ設定にはこだわりを持って臨んでいます。そして設定したテーマ(タグライン)とKeynote Speakerのメッセージとのリンクを意識し、イベントの骨格を設計しています。コミュニケーションをデザインしていく上で、この骨格づくり、すなわちコンテクスト(文脈)づくりは非常に重要だと考えています。

■ SAJ2016以降のテーマとKeynote Speaker

SAJ2016 "BEYOND 2020"
 - Keynote Speaker:鈴木大地スポーツ庁長官(当時)
SAJ2017 "THE GAME CHANGER"
 - Keynote Speaker:Joe Inzerillo氏(BAMTECH Media / 現Disney Streaming Service - CTO)
SAJ2019 "Innovation in Action"
 - Keynote Speaker:川淵三郎氏(日本サッカー協会 相談役)
SAJ2020 "HACK THE DECADE"
 - Keynote Speaker:北島康介氏(Tokyo Frog Kings - GM)
SAJ2021 "人間回帰"
 - Keynote Speaker:Trevor Bauer氏(MLB 2020年サイ・ヤング賞投手)

SAJ2021の"人間回帰"に込めた想い

そんな中、今回SAJ2021では"人間回帰"というテーマを設定しました。このタグライン自体には若干の「分かりづらさ」も否めず、実行委員会内でも賛否両論ありました。でも、今、このコロナ禍におけるコミュニケーションの在り方、そしてテクノロジーの発展が進む時代における人間の意思の重要性というテーマ自体は満場一致だったこと、そして多少の違和感はインパクトにも繋がると考え、強行突破で押し通しました。

【人間回帰】思い描いていたそれぞれの2020年。そのどれもが外れた。
日本スポーツ界にとって大きな一年になると希望を持って臨んだ2020年が、こんな世界になるとは、誰が想像していただろうか。
コロナ禍により「ニューノーマル」が生まれ、人々の生活は激変した。これまでSAJで論じて来た未来は、向こうから加速してやって来る。
社会インフラとしてのデジタルが市民権を獲得し、オンラインでのコミュニケーションが増えた一方、生身の人間同士が同じ時間と空間を共有することの価値を人々は再認識しているのではないだろうか。
こうしたデジタルを扱うのもまた人間。そして、人間の意思こそが、この逆境から未来を照らす光となる。
SAJ2021は原点回帰。DXが前倒しでやって来る今だからこそ、そこに意思を介在させる「人間」の尊さを考えよう。

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そして今回、Keynote Speakerには現役MLB選手で昨年のサイ・ヤング賞投手、先週LA Dodgersと年俸約42億円という史上最高額契約を結んだTrevor Bauer投手を迎えることが出来ました。彼が生み出したPitch Designというコンセプトを語ってもらう中で、「データや科学が得意とする領域」と「人間そのものの身体活動とその芸術性」について、この境界線を問うことで"人間回帰"を昇華させることに試みました。ナビゲーターの丹羽政善氏の巧みなインタビュー術とバウアー投手の言葉ひとつひとつの刺激と残像感で、"人間回帰"のメッセージをうまく腹落ちさせ、参加者の脳裏に刷り込めた手応えもありました。一重にスピーカーお二人の力ですが、仕込んだこちらとしても手前味噌ながら素晴らしいKeynoteだったと感じています。

また、オープニングでJSAA代表理事の渡辺啓太氏が語った「過度なデータドリブンに対する警鐘」は、「人間の尊さ」に加え、今回のテーマにおいてまたひとつ重要なポイントでもありました。

"人間回帰"と今この社会に思うこと

さて、今回この"人間回帰"というテーマに込めた想いは上記の通りなのですが、SAJ2021以降の2週間に起きた一連の出来事を通して、色々と思うこともあります。分断が進んでいるのは決してアメリカだけではなく、世界中どの社会でも起きているように感じます。更にテクノロジーがこれをまた加速しているようにも感じています。もちろん日本も例外ではありません。

共生社会の実現を目指していく上で、国際社会において日本が遅れを取っているのは紛れもない事実だと思います。様々な場面において、無意識のバイアスを持っている人がほとんどだと思いますし、自分自身に問いかけてみると恥ずかしながら100%自信を持ってバイアスがないとは言い切れません。本当の「多様性」を考えるとき、属性による分類や偏見を持たず、フラットな目線で相手を見ること、異なる意見を尊重することが不可欠だと考えています。千葉市・熊谷俊人市長によるFacebookへの投稿では、この点が非常にわかりやすくまとまっているので是非ご一読いただきたい内容です。

【オリパラと多様性の関係などについて】 私はオリンピック・パラリンピックは単なる一過性のイベントではなく、日本社会をどのようにアップデートするかが鍵だと考えてきました。 単に海外から多くの人が訪れてスポーツで多くの人が感動する、その経済的...

Posted by 熊谷 俊人 on Thursday, February 11, 2021
人は異分子に対して、違和感を感じ、その違和感を自分の中で解消するために、「こういう属性の人だから」と一括りにして自分の埒外に置くことで心の平安を保とうとします。
特に日本は忖度という言葉に代表されるように同質化することをよしとしてきましたので、多様性の尊重は私たち一人ひとりが常に意識して今までの習慣や常識に囚われないようにする必要があります。(熊谷俊人市長FBより)

過度なデータドリブンが進めば、人間は属性によって分類されていきます。分解していけば、それぞれ一人一人が全く異なる個人であるにも関わらず、です。データによる分類は有用性がある一方で、人間一人一人の存在を一般化し、ひとつの塊と捉えていく、ある種恐ろしいものでもあるように感じます。

「東京2020大会を通して日本社会をアップデートする」。そういう意味でも、今この社会に"人間回帰"はとても重要な気がするのです。コロナ禍で世の中が疑心暗鬼になっているからこそ、人間to人間のコミュニケーションは大切だし、データで得られる属性だけでなく、一人一人の人間にフォーカスを当て直すことも大切です。ときには声を上げ議論をし、ときには沈黙する者の意図も考えながら、お互いの違いを認め合うという意識が必要なのではないかと感じています。

僕自身コミュニケーションに携わる人間として、人々の共感を生み、共生社会を実現していくために微力ながら貢献していきたいと思っています。

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2020年8月25日には「スポーツ」という共通言語で、障がいの有無、性別、人種、文化の壁を越え、あらゆる個性を認め合う、真のインクルーシブな社会の実現に向けた一歩を踏み出すきっかけをつくる、というコンセプトで「HiVE | CRE8Rs」というイベントを実施しました。今だからこそ、改めて。アーカイブも視聴出来ますのでご興味ある方は是非ご覧下さい。

また「CREATING SPORT VALUE」にも不定期で関連した投稿をしています。共生社会の実現については下記投稿で考察していますので、ご興味ある方は是非そちらもご覧いただけたら嬉しいです。




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