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vol.175「学ぶならはじめから上質を。『あなたは何者か』という重厚な問い。」

矢野香さん新著『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』、拝読しました。

「本当の自分」と「役割の自分」を切り離し、「役割の自分(リーダーとしての自分)のセルフ・パペット」の一挙手一投足を【意図的に】操るための心理学的手法を徹底解説した一冊です(Introduction より抜粋要約)。「一挙手一投足を意図的に」という一語に矢野さんの意思が込められている。口から出る言葉、身ぶり、動き、一つひとつ、意図・計画をもって行いなさい、が「矢野香式」。
セミナーでは必ずこの言葉からスタートしていたし、本著でも四回登場します。表現をお借りするなら、「繰り返されるメインメッセージ」です。

※実は、私、本書の中に登場しています。「矢野香式」の印象マネジメント手法の実践体験談をお伝えしたところ エピソードとして採用されたものです。読まれる方は ぜひ探してみてください。

◆準備しない名スピーチはない。緊張しないプロもいない。

「W.チャーチルは議会の何日も前から想定される野次への切り返しや受け流しなどの練習をしていたといわれている。実は吃音(発話障害)を持っていたともされるが、人前ではまったくその片鱗を見せなかった」。
チャーチルは、関連書籍を何冊か読んで、映画を観て、「偉大な天才というよりは緻密な(神経質)な努力家」「自分がどう見られるかを常に気にした人」という印象を持っていました。矢野さんも「善人かどうか」を問題にしていない。努力家であった、と指摘しています。
練習してないジョブスも、歴代の宰相も、多忙な中で入念な準備をし、格好つけず原稿にメモを書き込んで、スピーチ本番に臨んだ、というエピソードが紹介されていて、納得させられます。

「プロも緊張はする。アマチュアの違いは、緊張するかしないかではなく、立て直せるかどうか」。
緊張しなくなったらステージを降りるときである。分野を超えて、尊敬する師たちが共通して口にすることです。「緊張はして当然で、その前提でどう任務を完了するか鍛えるのがプロフェッショナルだ」ということだ。私も緊張するほうで、黙り込むよりは舞い上がって喋ってしまうほうだから、対策はいくらあっても多すぎることはない。

※5月末に受講したセミナー、壁紙をチャーチルにして参加していました。

◆上質な教えから実践可能なパーツを練習するから上達する。逆はない。

矢野さんの書籍の大きな特長が、「成功者の実体験+科学的な根拠の集積」という点です。実体験に基づくビジネス書はもちろん多いし、参考文献も載っている。矢野さんの、研究者(長崎大学准教授)としての視点が、良い意味で冷徹な、学問的なテイストを生んでいると感じます。
これまで様々な本を読みセミナーを受けて確信しているのは「学ぶなら最初からトッププロにつくほうがいい」です。上質な教えを起点に、レベル調節して、自分で実践できるパーツに分解して、練習開始する。理解度が深まるにつれてレベルを、上げるというよりは「元に戻していく」。これが上達の早道です。
その逆=「まずは身近なセミプロについて、習得したら次に行く」方式で、高いレベルに到達することはありません。

「親指の爪で人差し指を強く噛む(痛点刺激する)」
「関係ないポスターやカレンダーを取り外しておく」
「録音録画の見直しは1週間ていど寝かせてから」
「最初の歩き方だけを歩幅歩数を測って練習する」。
こんな細かくて具体的なことは他所では教えてもらえない。
高価な学術書でなく、廉価なビジネス書で教われる"効率の良さ"を、味わって頂きたいと思います。

※個人的に好きなくだり『あるクライアントは3分スピーチで「えー」「えっと」と言う言いよどみを41回 口にしていました。4・5秒に一回「えー」と言っていた計算になります』。容赦なく計測し、容赦なく伝える「矢野香」の姿が映像で浮かびます。矢野さん 真骨頂のひとつです。


これまでに参加したセミナーのメモ「矢野香ファイル」から。

◆「あなたは何者か」という問い。

本書の1章に『人前で話すことが決まったら最初に考える「3つの問い」』とあります。
問いとは すなわち
①目的は何か
②メインメッセージは何か
③あなたは誰か

です。(※個人的にはここだけで書籍代が回収できると思う)
うち「あなたは誰か」とは、「社会で求められる階層説」(P53図)の、どの階層の人ですか?という確認です。
本書は、第3階層=リーダー層に特化して、「周囲を巻き込みながら聞き手を動かし、影響力を持つことを目的」とした「話す力」、「話し手の代替がきかない人になる」ことを教えていきます。

優秀なコンサルタントは「聞き手は誰か」と問います。「目の前の聞き手は誰か、具体的に描きましょう」という、きわめて正しいアドバイスです。
超一流のコンサルタントは、まず「あなたは誰か」と問います。矢野さんに限らず、スピーチ分野に限らず、そうです。「あなたは何者か/あらゆる他者とどう違うのか」が自分で分かってないと、「何をメッセージ発信するか」が定まらない。分析したらすぐ解って100%定まりきる、ということじゃなくて、自問することが出発点。

「あなたは誰か」という問いからはじまり、「スピーチを終えたら終わり、じゃない」で締めくくるのが、単なるハウツー本と大きく一線を画す、『プロフェッショナルの仕事』だと思える。
同時に、矢野さんご自身が、「第3階層=リーダーの印象『重厚感』を仕掛け」てもいらっしゃるのだろうと想像しました。

参考:付せん箇所から、特に絞って抜粋>
●失敗するのはリハーサルしていないから
●事前に一度も練習していない人がとても多い
●目安は13文字(漢字かな交じり文)一息の長さ
●役割にそって自分の言動をコントロールする(印象操作)
●世界で活躍するアスリートは心理学的手法を利用して戦略を立てていた
●「笑顔の人」として聴講席に座っておいてもらう
●スピーチトレーニングでは最初の歩き方だけを練習することもある(歩幅、歩数)
●思っているより長く沈黙せよ(3分の1と3倍の法則)
●「皆さん」ではなく「あなた」
●緊張するかしないかではなく、立て直せるかどうか
●トラブルは「実況中継」し、「謝らない」
●笑顔でいなければならないという思い込み
●目線をそらしたほうが良いとき 原稿を見たほうが良いとき
●寝かせた録音・録画を確認する 直後では言い訳を思いつく
●話し方がうまい人=他者評価と自己評価が一致している人
●「無意識・有能」を目指すため、まずは「意識・無能」からはじめる
(付せん箇所 一覧は文末)

「誰それさんだからできるんですよ」「自分には才能がないから」と、私たちはとかく、『努力しない理由』を並べ立てる。また、「結果を出してる人は才能だけで成功してる」と暗に言いたがる。
それを見てプロたちは「いや こっちが努力せず才能だけでやってる前提にするなよ(何倍も努力しとるわ)」と内心で呆れているのだ。

それを矢野さんは「もっと上達できるのに、途中で諦めたり、ある程度で満足したりするのは、もったいない。だから何度でも「もう一回」「もう一回」と繰り返し練習」させる(「おわりに」より)。
とてつもなく親切な、本当のプロフェッショナルだとわかります。「厳しく何度でも指摘する」のはエネルギーが要るのです。出来ている部分をほめて、修了証でも渡したほうが楽なのです。
それを納得の行く限界まで教えて、鍛錬して、世に送り出すのは、矢野さんが超一流のサービス提供者だからです。

冒頭で触れたようにエピソードを採用頂いたのですが、その御礼にと本書を献本頂いてしまいました。教え子としては「師匠に不定期の活動報告をした」つもりのことで、非常に恐縮です。
矢野先生、ありがとうございます。



繰り返しになりますが、学ぶならはじめから上質なものを選ぶ。中でもおすすめは「わかるように説明してくれる親切なプロ」「常軌を逸した細やかなプロ」です。上質な教え、精密な教えを、実践できるパーツに分解してもらい、あとは自分で練習する。上達するに一番の早道、唯一の王道だと思います。

「別にトップリーダーじゃないし」という【あなた】にこそ、おすすめの一冊です。

最後までお読みくださりありがとうございます。


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----(付せん箇所 ここから)----

『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』より付せん箇所。
<>◆は勝手にタイトル付けました。

<練習なくして上達なし>
◆高名な演説の裏には準備あり
W.チャーチル(言葉で国民を鼓舞)は吃音だったと言われている
「拍手」「水を飲む」「顔上げ、拍手促す、収まるのをまち」(歴代首相のスピーチ練習)
5分間のデモプレゼン チームは数百時間の準備 ジョブズ自身も丸2日間のリハーサル

◆大多数は「我流すらやらない」
ただただ場数を踏むのは「自己流」でしかありません
トップリーダーは半年以上前から準備をする
●失敗するのはリハーサルしていないから
単純に「準備不足」だから
●事前に一度も練習していない人がとても多い

◆苦手か得意かは関係ない
苦手意識があろうが、緊張するタイプだろうが、口下手だろうが、関係ありません。大切なことは、自分に合った話し方や訓練方法を見つけること

<人前で話すということ>
①目的は何か②メインメッセージは何か③あなたは誰か
◆話すからには「目的」がある
「伝わる人」の定義は、相手の立場にたって相手が知りたい情報を伝え、具体的行動を促すことができる人

①情報提供(理解させる)②説得(賛同を得る)③行動変容(行動を促す)
話が終わった時点で聞き手にどうなっていて欲しいのか

◆メインメッセージはなにか
メインメッセージは何度も何度も繰り返す
●目安は13文字(漢字かな交じり文)一息の長さ
「タイトル」と「メインメッセージ」を混同しないこと

◆あなたは誰かという問い
「何を言ったか」より「どのように言ったか」より、大事なのは「誰が言ったか」
リーダーとしての自分」というセルフ・パペット
●役割にそって自分の言動をコントロールすること「印象操作」
実像と役割のギャップ=「役割距離」
現在の自分ではなく、未来の自分を先取りして設定する
「堂々としているのに話しかけやすいリーダー」が誕生

<話し方は準備が9割>
◆心理学を押さえよう
●世界で活躍するアスリードは心理学的手法を利用して戦略を立てていた

本人がやる5つのこと:イメージ・リハーサル法 アファメーション、皮肉過程理論 自己決定理論 パワーポーズ

想定されるネガティブな場面を脳内リハーサルしておけば「想定外」ではなくなる
肯定的自己宣言文「私は」「与えたい印象」「肩書・名前」 鏡の前に立つときはいつもアファメーション
緊張は良いものと捉え直す「リフレーミング」 対応策を決めておく
「自己決定感」「有能的統合」
「苦手なままではまずい。なめられる」→「また頼まれました。楽しみです」

<環境づくり>
◆相手の「環境」
温かい飲み物を渡される→その相手を「あたたかい」と評価しやすい
●重いものを持つと話の内容をより重要だと感じやすくなる
うまくいってないことの報告は柔らかい椅子に座ってもらう
話す前に一度相手の一に座ってみる
社会距離:120~360cm
聴覚ノイズを削除する(隣の部屋、スマホ)
視覚ノイズを削除する(ブランドロゴ、ポスター、カレンダー)

◆サポートメンバー
●「笑顔の人」として座っておいてもらう
話の途中であってもアンケート用紙を配りはじめてもらう、会場のドアを開けてもらう
「話すのがうまいな」と定評のある人から声をかけてもらう

<最初ですべてがきまる>
初頭効果=最初の情報が全体の印象に大きな影響力をもつ
「対人認知の6段階」(シュナイダー)

◆リーダーは印象で決まる
第一印象は第3階層(リーダー)の印象「重厚感」を仕掛ける
●スピーチトレーニングでは最初の歩き方だけを練習することもある(歩幅、歩数)
歩くのが床の場合、カツカツと靴音を響かせながら歩く(自信と品性の印象)→良い足音がする靴を持参し履き替える
話しながら部屋の中を歩き回る→全体を支配しているという印象
堂々とした目力は「watch」「疑問を持って人前に出る」
ジェスチャーは胴体より外側

◆「沈黙」の計り知れない価値
トップリーダーはわざと沈黙する
●思っているより長く沈黙せよ(3分の1と3倍の法則)

◆呼びかけの重要性
もれなくダブりなく「後日動画でご覧になる方もいます」
●「皆さん」ではなく「あなた」
早い段階で聞き手と自分の似ている点を伝える
予言する「前フリ」

◆やってはいけない話しグセ
「自己接触」腕組み、髪の毛に触る、ポケットに手をおく→最初から何か持っておく
言いよどみ「あー」「えー」→一文話し終える度に口を閉じる

<緊張は、するのが当たりまえ>
◆プロとアマチュアの違い
まったく緊張しなくなったら要注意
緊張するかしないかではなく、立て直せるかどうか

◆対策:動作と言葉
「痛点刺激」緊張を痛みで上書きして消す方法
マイクを持ちかえる 水を飲む→「間(ま)」も取れる
利き足を前に出す 重心移動
おすすめの問いかけ「ここまで、よろしいでしょうか」
忘れたら「メインメッセージを入れる」 繰り返していい
トラブルは「実況中継」する
●「謝らない」
自己開示「実は緊張しています」「しかしお話したい」

<引き込まれる話し方は何をしているか>
うまい話し方には変化がある(ジェットコースター型)
速さ 声 表情 目線 ジェスチャー
「ポイントは(間)変化(ゆっくり)(間)です」
「緊張と緩和」が聞き手を惹きつける秘密
基本姿勢:リラックスして余裕があるように見える

◆思い込み
●笑顔でいなければならないという思い込み
●目線をそらしたほうが良いとき 原稿を見たほうが良いとき
目的はメインメッセージを相手の印象に残すこと

<話し終えてゴールではない>
スピーチトレーニングは「学習」行動 終わりは次の始まり
「親近効果」最後に挽回はできる
ひとつだけ行うとしたら「目的を達成しているか確認する」
●寝かせた録音・録画を確認する 直後では言い訳を思いつく
他人の目「こんな癖がある」「なんでこんな言い方をしたの?」
話し方のうまさを数値化する(ルーブリック)
●話し方がうまい人=他者評価と自己評価が一致している人
AIは「素起こし」=「えー」「あー」も文字起こしする
投稿すべきは「秘密の開示」 第三者が行うと強力

<スパルタ・スピーチコンサルタント>
もっと上達できるのにやらないのはもったいない
●「無意識・有能」を目指すため、まずは「意識・無能」からはじめる

----(付せん箇所 ここまで)----

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