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7.ブランドコンセプトを作るヒント

ブランドコンセプトというのは、あなたのブランドがお客様に提供する(約束する)価値のこと。あなたのブランドに出会うとお客様はどう変化や成長するでしょうか。その変化こそ価値なのです。逆に言えばお客様に何を期待されるようになりたいか、ということです。

※このNOTEは2010年の著書「好きを仕事にする自分ブランドのつくりかた」の一部を再編集して紹介しています。コンセプトについては近著「自分を動かすスイッチの入れ方」により詳しく説明しています。

テーマ10:ブランドコンセプトとは

◆どのようなイメージを持って欲しいかという設計図

企業がブランドを立ち上げるときは、まずコンセプトをまとめるのが一般的。コンセプトは、お客様にどのようなイメージを持って欲しいのかという設計図にあたり、それをもとに品揃え計画やデザイン案、プロモーション案を構築します。
ブランドは自分だけでは作れません。商品企画、デザイナー、営業、広報、販売などの関わる人すべてが力を合わせ、お客様に好きになってもらう活動をするための共通の道しるべとなるのがコンセプトなのです。
商品や売り方がそのブランドらしいのかどうか判断に困ったとき、コンセプトを振り返ります。やりたいことがはっきりするので、販売先や、縫製工場や外注先も見つけやすくなるでしょう。

もしもコンセプトを立てずに、ブランド作りを進めようとしたら……?
そのブランドで何を訴求したいのか、焦点がぼやけてしまい、メッセージがわかりにくくなるでしょう。アイテムはばらばらになり、商品全体の統一感も取れなければ、コーディネートもしにくくなります。事前に営業するための資料がないので、サンプルが全部できてみないと売り込みを始めることもできません。

◆コンセプトを作るとやることがはっきりする

ブランドコンセプト作りは、デザイナーが自分のビジネス活動全体に対して「お客様からどのようなブランドと思われたいのか」というイメージを固めること。自分のブランドらしさは何かを決めることでもあります。

コンセプトを見れば売れるかどうかのある程度の想定も可能です。売れそうなブランドやIT・コンテンツなどの成長分野の創業者は、まず事業コンセプトをしっかり煮詰めています。具体的には、そのブランドや商品を作ったデザイナーの想い、商品の背景となる世界観、開発理由、商品をどのような人に使ってもらいたいのかというターゲットなどで表されます。

コンセプトが秀逸であれば、やるべきこと・やらないことがはっきりするので、10の努力が10の売り上げとなって反映されるでしょう。しかし、コンセプトがあいまいなまま、思いつきで行動していては、同じように努力をしても1の売り上げでさえ難しいかもしれません。
本当にビジネスで成功したいと思うなら、まずはしっかりとしたコンセプトの構築が必要です。

コンセプトはビジネスプランもはっきりさせてくれます。
例えば、タオルの製造業者。できあがったタオルを見て、どうやってタオルを売ろうかと考えていても答えは出ません。
では、「ホテル生活に憧れる人が欲しがるタオルを提供する」というコンセプトをベースにして考えるとどうでしょう? 柔らかい肌触りやリラックスできる生活、憧れのホテルライフなどを求めるお客さまを集めることへとつながります。
そこから、どんな商品にして、どのようなデザイン・モチーフ・素材でどの雑誌媒体に広告を出し、どこの展示会で見込み客を集めればいいかというビジネスプランが組み立てられるでしょう。
ビジネスプランがはっきりすれば、効率よくビジネスを進めることができるのです。

◆デザイナーの想いが伝わるコンセプトの例

コンセプトを考えるお手本になるデザイナーやブランドをいくつか紹介しましょう。

ひとりは、yumiko iihoshi porcelainのイイホシユミコさん。彼女が作る食器は、「手づくりとプロダクトの境界にある商品」。毎日の生活で使い続けるために、手作りのモノは作り手の手跡が残らないように、プロダクトのものは味気ないモノにならないように作られたもの。そんなyumiko iihoshi porcelainのbon voyageという

シリーズのコンセプトは旅行に持って行く器。旅先の食材を自分の好きな器に盛りつけて楽しむ、持参した一輪挿しにその土地の花を飾る。そして家に帰れば、器を見て旅行を思い出すというシーンを提案しています。生活を楽しむために器を作るというこだわりが感じられますよね。

「今、ここから始まる伝統」というコンセプトのHIROCOLEDGEは、円と直線だけを用いて未来につながる現代の和柄を表現し、高く評価されています。

Aseedoncloudは、デザビレで一時期を過ごした玉井健太郎くんが立ち上げたレトロ感溢れる作業着風ウエアのブランドです。シーズン毎に架空の職業をイメージし、その世界観を表現しています。2010-2011 Autumn/Winterは「服育士」がテーマでした。服の種を撒く人、服に水をかけて育てる人、服を収穫する人、仕上げをする人など架空の仕事をイメージして、それぞれの仕事にふさわしい「種を入れるポケットが膨らんでいる」「ポケットの中が手袋になっている」など機能のディテールを盛り込んでいます。
しっかりしたコンセプトから派生した個性的なアイテム、展示会でのオブジェ、レトロ感のあるDMなど、背景にあるストーリーにも魅力を感じました。

テーマ11:ブランドコンセプトの作り方

◆ブランドらしさを深く掘り下げて考える

デザイナーの多くはブランド立ち上げ時期に、まず気に入ったデザインや思いつきのデザインで数点から十数点の商品を作ります。頭のなかのストックから今まで作りたかったデザインを出してきてカタチにするわけですが、それらのデザインには脈絡がないことも多いのです。ブランド全体をどのようにイメージして欲しいのかというのではなく、商品それぞれのおもしろさに意識が向いているので、当然ブランドとしての統一感はなくなります。
また、同じようなデザインを続けていると飽きてきて、全く違ったデザインをしたくなることも。客観的に見ているとブランドの方向性がわからなくなってしまいます。これでは、商品点数は増えてきているのに何がブランドの特長なのかわからないなんてことに。

原因は、商品作りのもとになるブランドの世界観の創りこみやブランドらしさの根源は何かを深く掘り下げないままに、好き嫌いや思いつきで商品数を増やしていくからです。
コンセプトを決めることに対しては、顧客を限定することへの恐れや今の方向性で良いのかどうか、もっといい方向があるのではないかという不安も出てくるでしょう。また、自分のデザイン力、センスに対する自信喪失なども起こりうること。それらが混ざり合うと、どんどん方向性を迷わせます。その結果、何のブランドなのかわからないということに。

ブランドのコンセプト、自分の特長、個性、こだわりなどブランドの核を作る部分は、のちほど「コンセプト作りは「強み」「好き」「ニーズ」「差別化」で」で述べるの4つのポイントからとにかく一度は悩みぬいてください。
お客様にどのように喜びを提供したいのか、自分のブランドのコンセプトを深く深く考え抜くことで、自分のなかに定着し、芯が一本通ってきます。芯が通っていれば、ビジネスで思い通りにならないことが起こっても、ブランドコンセプトは揺らぎません。

デザイナーは言葉で考えるのが苦手です。苦手でも言葉にしておくことで、人から人に伝わる威力が高まり、記憶にも残ります。そこからさらにイメージが膨らみ、価値も上がっていくでしょう。言葉を考えるのが苦手なら、イラストや写真を使うなどして、どうやれば伝わるのか考えるのもデザイナーの役割です。

◆ブランドの背景となる世界観やストーリーを加える

世界観やストーリーを構築しているブランドもあれば、商品だけでアピールするブランドもあります。どちらにしろファッション関連商品は見た目勝負ですから、デザインは優れていなくてはなりません。そのうえで、背景にストーリーがあったほうが有利だと考えます。
例えば、絵本を描いたり、ポートフォリオを作るようにブランドの世界を物語にしてみるのです。さらに、ストーリーに関連するモチーフが加わっていくと、もっと世界観がはっきりしてきます。
そうするとブランドは単品の集合体ではなく、その背後にある世界観という情報全体も価値に含まれてくるのです。ブランド構築というのは情報量と質の戦いでもありますから、効率的に情報を増やせることはかなり有利。
モチーフやアイテムを関連づけるストーリーを構築することで、毎シーズン商品が増えれば増えるほど、ブランドイメージが鮮明になります。イメージする世界があって、そこから毎シーズン作品や商品として世に出していくと、もっと次が見たくなったり、ブランドを知りたくなったりするものです。そんな仕掛けをしましょう。イメージに深みが表現できるようにストーリーを組み立てるのです。

単品デザイン先行型のブランドだと、この世界観の作りこみがなかったり弱かったりして、商品単品だけの好き嫌いで判断されてしまうので、継続した取り引きにつながりにくくなり、シーズン毎に売れたり売れなかったり一喜一憂するはめに。商品単品ではなく、ブランドを好きになってもらうためにも世界観やストーリーは大切です。

◆コンセプト作りは「強み」「好き」「ニーズ」「差別化」で

コンセプトを検討するときに必要なのは、「強み」「好き」「ニーズ」「差別化」です。これらの要素を用いて、お客様に喜んでもらえるブランドを設計していきます。この4つをはっきりさせれば、自分の実力を活かし、事業を伸ばしやすくなるでしょう。
全部をバランスよく持っている必要はありませんが、それぞれについて検討するというプロセスは必要です。検討した結果、どこかに集中するのであれば、うまくいかないときにも対策を立てることができます。

p74コンセプト

「強み」…… 自分が得意なジャンルや技術、ほかには負けないこと。
性格やキャリア、ネットワークなどさまざまなことが強みになります。
「好き」…… 自分で関心を持ち続けて、深く掘り下げられること。好きだからこそこだわりが持てます。
嫌いなことは、仕事としても続けられません。
「ニーズ」… バイヤーやお客様が求めていること。
好きだという人がいたり、みんなの関心や興味が集まることです。
「差別化」… 既存のブランドとは違い、ほかよりも目立つこと

私がコンセプトについて相談を受ける場合は、まず強みが何かを探ることにしています。これは、得意なことや強いことをベースにしたほうが、効果が早く出るため。
もし、強みが見いだせない場合は、時間をかけて強みを作らなければなりません。強みを作るためには訓練が必要になります。ラクして身につく強みは、強みとは言えません。

クリエイターは「好き」から生まれる個性を極めることが大切です。大手ブランドは多くの顧客に合わせなければならないので、「好き」よりも「ニーズ」を重視します。個性が強い商品を作りにくい状態なのですから、クリエイターは「好き」で差別化を図るのです。
しかし、クリエイターは好きだけで判断しがちで、ニーズを意識しませんから、たとえおもしろいと評価されても売れないこともあります。
強みを考えずに好きなことだけしていても、先行している他社と比べて商品やサービスの完成度が高くなりにくく、事業の継続は難しいでしょう。

売れている商品をコピーする企業はニーズだけで差別化を忘れています。そのため、低価格競争に陥り、体力をすり減らすことに。

強みだけの仕事では、好きがなくてつらくなったり、市場ニーズとずれてきたり。転職したい人の大半は、自分の仕事に飽きて、強みを活かさず弱い分野にチャレンジしたがる傾向があります。


テーマ12:ターゲットを決める

◆好きになって欲しいお客様像がターゲット

「なぜターゲット設定が必要なの?」とか「ターゲットは決めていません」という言葉を聞くことがあります。
なぜターゲット設定が必要なのか。
その理由のひとつは、ブランド構築との関係にあります。

ブランド全体の価値は、少しだけ知っている人から熱狂的ファンまで、それぞれの段階にいるお客様が持っているイメージの総和だと説明しました。
これらのお客様がブランドイメージとして連想する中身は、ブランドのロゴマークや名前、商品、広告やイメージモデル、それを持つ顧客像などです。このうち、最後の「そのブランドを所持する人のイメージ」は特に重要。なぜなら、ブランドは商品だけではなく、そのブランドを所持する人のイメージをも購入することですから。

ターゲットの設定は、自分のブランドを好きになってくれて、所持してくれる人のイメージをどのように考えるかという指針です。
「○○が好きな人で、△△が似合って、××に住んでいて、□□を愛読している」などと決めていくことで、自分のブランドのファンがどのような人かイメージがはっきりするでしょう。

ターゲットのイメージがはっきりすれば、誰に向けて情報発信すれば良いのか絞り込むことができます。どの雑誌に広告を出せば良いのか、どの展示会に出ればよいのか、どの店に売り込むのかもはっきりとしてくるはずです。
またデザインや広告、ディスプレイから接客まで統一感を持たせて相乗効果を出すことも可能に。自分のブランドに共感する人をどう集め、さらにどうやってお客様を熱狂させてファンにしていくか、考えやすくなります。

成長するブランドは、熱狂的に支持してくれる人が多いブランド。だからこそ、ブランドを作るには、ターゲット設定が大切なのです。

コラム:アーティストもビジネス

よく「デザイナーはビジネスが目的で、アーティストは芸術が目的であ り営利を目的としていない」という捉えられ方をします。はたしてそうで しょうか。芸術作品を作るアーティストの本来の目的も人を喜ばせて対価 を得ることですから、ビジネスなのでは?
今でも芸術の価値は作品の価格で評価されます。ということは、売れる ことが芸術の評価であり、それを得るためにアーティストは切磋琢磨して いるはずです。つまり、アーティストであっても、きちんとビジネスとし て自分自身をブランド化する戦略を考えなければならないのではないでし ょうか。しかし、自称アーティストという人のなかには、「売れなくてもい い」と公言してはばからない人もいます。売れないのは、作品が誰にも求 められていないということ。
芸術が作品を通じて人々に感動や満足を与えたり、所有欲を満たしたりす るものであるなら、「売れなくてもいい」は、他の人を喜ばせなくてもよい
=自己満足のための制作です。
自己満足だけでビジネスにならなければ生活もできません。
芸術作品の購入者というのは、上流階級だったり、企業だったり、お金 に余裕があるところ。そういうところに売れるものを作ったり、作品を求 められるように自分の作品をブランド化するには、かなりのマーケティン グ力を必要とするでしょう。作品を作るだけではなく、脳みそを搾り出し て知恵を絞り、足を棒にするほど走りまわって売り込むという、地獄のよ うな苦労を強いられるかもしれません。
自称アーティストは、これら売るための苦労から目を逸らしているので はないでしょうか。そして、好きなことだけしたり、面白いことをするの がアーティストだと考えているのかもしれません。でも、それはアーティ ストではなく、アマチュアの趣味の領域から脱していないのではないでし ょうか。


コンセプトの作り方については、2019年発行「自分を動かすスイッチの入れ方」のほうが詳しく書いています。








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