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推理ドラマに見るネクタイの主張

 近頃ではGUやユニクロなど比較的身近な服屋において、スーツスタイルに近いジャケット・スラックスが売られている。
 大手スーツ販売店でも、「パジャマスーツ」という名称で洗えたり、着やすかったりするものが手ごろな価格で登場している。
 
 このようにかつての西欧文化におけるスーツの立ち位置とは打って変わって、昨今では洋服の一種として敷衍ふえんされている感がある。
 そんな中でも、特にこだわりのある人であれば、高価なものを買ったりと二分化している訳だが、スーツ自体が高価・安価のいずれであっても、その人となりを示してみせるアイテムがある。それこそがネクタイなのだ。

 ビジネスや特に政治家の世界では、無地のネクタイがフォーマルなものとして多々用いられる。
 この写真は、第14回(2019年)G20首脳会合の出席者を撮影したもの。こうしてみると、無地どころか柄の入ったネクタイも数名いる。
 だが、その事実はとりもなおさず、スーツ着用時のネクタイの印象の強さを物語ってはいないだろうか。

Wikipedia「G20」より

 無地(ソリッド)、水玉(ドット)、レジメンタル(ストライプ)、ペイズリー小紋。ネクタイの柄は大まかにこの五つに分類することができる。
 
 ちなみに、日本国内でもよく見る定番の柄のひとつ、レジメンタルタイ(斜めのストライプ)は、「連隊の」という意味であり、もともとは、着用者がどの軍隊(団体・組織)に属していることを表すためのデザインだった。
 今ではその意味合いも薄れたが、時として公式の場では注意する必要もあるのではなかろうか。

 さて、このように現代社会でも自己主張の手段として、ネクタイほどスーツの中で如実に物語るアイテムは無いと僕は考えているが、それを巧みに扱っているドラマが二つある。
 いずれも推理ドラマであり、両者ともに公務員。だが、はみ出し者という点を念頭に。
 「チーム・バチスタの栄光」より白鳥圭介(俳優・仲村トオル)と、「相棒」より杉下右京(俳優・水谷豊)の二名。

 まずは「チーム・バチスタ」から。白鳥は厚生労働省の役人。
 非常に自信家であると同時に珈琲へのこだわりや肉が好きなどの設定がある。
 彼の付けるネクタイは濃い赤や黒っぽいものが多いなど、非常に強い印象のある色を用いる。思えば、ネクタイの素地自体も厚めのようだ。

 また、病院という白衣が多い世界の中で、黒っぽいスリーピース(ジャケット・ベスト・スラックスの三つ揃え)を着こなす様子は、心理的にも外部の存在であることを即座に認識させられる。
 彼の知識や対人戦略から、ネクタイの色の強さも、あえて選んでいるものと推測される。

 もう一方の杉下右京を振り返ってみよう。

 ここでは赤のネクタイの画像を引用しているが、彼のネクタイの幅は非常に多い。そもそも話数が多いために、ドラマ上、衣装も増えていくのだろうが、ポイントは柄にあると思う。
 杉下右京は黄色・茶色系統のネクタイも少なくない。この赤もそうだが、いずれも何らかの柄が目に入る。
 当然のことながら、柄は目立てば目立つほど、カジュアルなものとなる。杉下右京は陸の孤島と呼ばれる特命係にいる。捜査権の無い部署であり、決まった仕事はない。その特命係にあって、彼はチェスや紅茶、その他イギリスにちなんだアイテムを飾っているなど、言ってしまえば好きに過ごしている。
 役人であれば、ネクタイをつけているのは自然だが、こと刑事ドラマにおいてはネクタイは外している方が多い印象がある。
 特に野暮な人柄であったり、熱血系であれば、ネクタイは滅多に締めていないことと思われる。それがキャラクター造形の定石というものなのだろう。

 杉下右京の当初のキャラクターは、英国紳士風で、慇懃無礼。
 つまり、ネクタイをつけ、サスペンダースタイルで、更にはポケットチーフまでジャケットに毎度入れている(白鳥にもある)ものの、あくまでも自分の趣味としておこなっている。だからこそ、ネクタイも彼なりに「オシャレ」なものを選んでいるというわけだ。

 一見すればかっちりと着こなしている二人だが、ネクタイを見れば、既にその人となりへのヒントが表れている。
 色をコントロールできれば、次は結び方……という風に、今もなおネクタイの持つ力は健在だ。
 これから映像作品を観る際は、ネクタイに注目してみるのも一興であるし、あるいは女性の場合もネクタイがファッション化しつつあり、あるいはフォーマルの場でもリボンタイがあるなど、決して無縁の世界ではないことを改めて念押ししておく。

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