「心理歴史学」概論:分析家への入口
この「心理歴史学」という学問は架空の“偉大なる心理歴史学者”「ハリ・セルダン」によって生み出され、『銀河帝国の興亡』三部作の作者アイザック・アシモフによって創作された。
2021年8月に、改めて創元SF文庫より出版されたり、また、『銀河帝国の興亡』三部作を原案とする海外ドラマ「ファウンデーション」が、「Apple TV+」より2021年9月に配信開始されるなど、今再び注目されているSF小説。
2500万の惑星を擁する銀河帝国に没落の影が兆していた。
心理歴史学者ハリ・セルダンは3万年に及ぶ暗黒時代の到来を予見、それを阻止することは不可能だが期間を短縮することはできるとし、銀河のすべてを記す『銀河百科事典』の編纂に着手した。
やがて首都を追われた彼は、辺境の星テルミヌスを銀河文明再興の拠点〈ファウンデーション〉とすることを宣した。歴史に名を刻む三部作。
(創元SF文庫『銀河帝国の興亡1 風雲編』あらすじ)
このように、ハリ・セルダンは心理歴史学を用いることによって、全くもって信じがたい事実である「銀河帝国の衰退」を心理歴史学理論に基づく数学を用いて証明した。
では、心理歴史学とは何なのだろうか。以下、ネタバレに注意しながら、第一作目の内容だけで、それを少しずつ拾い出し、もって心理歴史学的な見方を私も含め今後可能ならしめたい。
『銀河百科事典』から分かる心理歴史学
銀河帝国が衰退した結果、三万年の暗黒時代が続いてしまう。しかし、人類の知識を保存することによって、その暗黒時代は一千年に短縮することが可能であるとセルダンは言う。そしてそれが『銀河百科事典』編纂という所業の目的であり出発点となった。
さて、その百科事典の内容は、本作の章が移るごとに、少しだけ掲載されているのだが、心理歴史学についても、若干ながら触れられている。ここでは一部抜粋していくことで、この世界において一般に心理歴史学がどう捉えられていたのかを俯瞰したい。
まずは冒頭の「ハリ・セルダン」から。
彼のもっとも偉大な事業が心理歴史学の分野にある事は語るまでもなく明らかである。
セルダンは曖昧な公理の集合体にすぎなかった当分野を深遠なる統計科学となし・・・
ここで明かされるのは、心理歴史学が、昨今の日本の学問分類でいうところの文系に属するのではないという点である。統計科学という側面をしっかりと備えている心理歴史学が対象とするのは何なのか。
次に「心理歴史学」をみてみる。やや長い引用となるため、重要だと思われる箇所を太字にしておく。
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