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ゆりかごに聞く「読書感想文」

新聞社で働く柳宝子は、虐待を理由に、娘を元夫に奪われていた。ある日、21年前に死んだはずの父親が変死体で発見され……。遺留品には猟奇的殺人事件の大量の記事の切り抜きと娘に宛てた一通の手紙。「これからも見守っている」。宝子は父の秘密を、追うことになるが、やがてそれは家族の知られざる過去につながる。一方、事件を追う刑事の黄川田は、自分の娘が妻の不貞の子ではないかと疑っていた。

まさきとしか さんの作品です。

母親になること、をすんなり受け入れられるかどうか。妊娠がわかったとき、嬉しい、これは喜ぶべきことで、そう思えないことは、母性の欠如であり、人間性を疑われるようなこと、だろうか。

我が子をいつでも、どんなときも、可愛い、愛おしいと思えるのが、正解の母親だろうか。

だとしたら、私は。

読みながら、不安になる。私には三人の娘ががいる。私は母親で、我が子を愛おしいと思っている。が、最初からそう思えていただろうか。

妊娠、出産は母体を大きく変える。
あれほどスタイルを気にし、ファッションも自由に楽しんでいたのに、どんどんお腹は大きくなり、胸も張り、吐き気や頭痛や怠さが続く。
食べるもの、行動のいちいちに制限がかかる。元気な赤ちゃんを産むための生活。

そして、無事に産まれた赤ちゃんの顔。
ずっと羊水にいたふやけた真っ赤な顔。
お腹が空いたと泣き、眠いと泣き、抱かれたくて泣き、あとは寝てばかりいる。

私が初めて母親になった頃、我が子を可愛いと思う余裕がなかった。その小さなはかない命を守る重圧で、ひどく心細く、何かと勝手がわからず戸惑うばかりだった。周りの母親たちは、とても余裕そうで、ちゃんと「お母さん」に見えていたけれど、私は。私は、ちゃんと母親になれているのだろうか…と。

ただ、この子を守らないと。

私の母は、共働きでたっぷり一緒にいた記憶はあまりなく、小さな頃は寂しいと思う記憶の方が強く残っている。自営業で余裕がなく、昭和の夫よろしく家事や育児に関わる父でもなく、唐突にわけもなくヒステリックになっていた母の姿も浮かぶ。それでも、母もまた、必死で私たちの命をまもっていた。

若い頃、自分の性格や、愛着の傾向に、生い立ちを省みたことがある。人との距離感がうまく取れないだとか、セクシュアリティだとかに何かしら影響があるのか。幼少期の甘えたい時期に、きちんと甘えられたかどうか。
十分ではなかったにせよ、ただとにかく、「いらない子」だと育った憶えはない。

もしも今、
「私はこの子を愛せるだろうか」
と赤ちゃんを抱く誰かに問いかけられたとしたら

子どもが産まれたら、勝手に親になるわけじゃない、子どもと一緒に生きるうちに、親になっていくんだと。愛情はゆっくりと育っていくものだと。まずはその、はかない命を必死でまもっていかないと、と答えたい。

ゆりかごは答える。
生きていていい、と。



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