本と 香と 陽だまり
外の空気は冷えていたけれど、カーテン越しの陽射しはあたたかで、猫は丸く寝ていた。
手元に届いた、刷りたての本。
新しい紙の匂いのするページに思わず鼻を近づける。本を買ったときの私の癖で、新品を味わう。新刷のシャキッとした佇まいは、緊張感を持ち、そぉっと開く。
チンチキ チンチキとストーブの上のヤカンが鳴って、陽炎の影が模様を作る冬の昼間。
白檀の香りはどこか懐かしく、上品で優しくて、なぜかとても安心する。小さな頃の、覚えなのか幻なのか、ほの明るくて安らかな記憶。女性らしい優しい香りに、現世なのかそれ以前なのか、刷り込まれた何かが心を落ち着かせていく。
平日の昼間、こうして一人、家で静かにすごすのは、束の間でも有意義なひとときだ。
ゆっくり、ゆっくり頁をめくる。
紙の手触り、文字の大きさ、綴られる言葉。
紙の本で読んでいくのが似合う文章というものが、やはり確かにあると思う、それだ。
贅沢でささやかなひととき。
やがて日常に戻る時間がきて、そっと机上にもどして、また後に。手元にある、形がある、というのは、たのもしい。
穏やかな木目に、ドクドクと流れる水流は、人を傷つけないよう何らかを介したもの。
その瘤や、その曲がりを経て。
澄みきったものよりも、
滲んで染み出たものは、
何よりも変え難い。