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成くん。

ナリくんに電話した。

「こんにちは、お久しぶり。」

不要不急が叫ばれはじめてから、自粛ムードが世の中を覆って、めっきりすっかり遠のいていた成くんのお店。
地元に根付いた割烹料理屋で、父も、町の行事や集まりがあれば、成くんところで飲んで帰るのが定番だった。私たちも大人になって、そのうちに、幼なじみの女子4人で集まって飲むのは成くんところが定番になっていたのに。最後に成くんところで飲んだのはもう三年前だろうか。

「姪っ子とお昼ご飯食べに行っていい?
    唐揚げ定食が食べたくなって。」

「おぅ。ええぞ、唐揚げ定食な。」

そう言って、仕事を手伝いにきてくれていた大学生の姪っ子をお昼ご飯へ連れて行った。
昔からある料理屋だから、もちろん建物も古びていて、オシャレなカフェ巡りをしている姪っ子の顔が、若干不安げに曇る。
昔から顔に出る、わかりやすい子だ。

「じぃちゃんもよく来てたお店だよ」

こんにちはー、と入っていくと、全然かわっていなくて、タイムスリップでもしたかのようにあのままなそのままな店内。色あせたキリンビールのポスター、生簀みたいな大きな水槽、井桁絣のうすい座布団の小上がり。

「いらっしゃい」

成くんのお母さんの“トキねぇ” が、ゆっくりと、とってもゆっくりとお茶を出してくれる。変わらないと思っていたけれど、トキ姉はやっぱりずいぶん歳をとっていて、少し切なくなる。そんなに来てなかったんだな…。

奥の厨房からひょこっと成くんが顔を出して
「おぅ、久しぶり」とだけ言って、またひっこんでしまう。

店のテレビはNHKがついていて、トキ姉はそれから、置物のようにテレビを見ていた。


彼氏との京都旅行から帰ってきたばかりの姪っ子の話を聞きながら、スマホ画面には、ズラリと並んだ伏見稲荷の鳥居をバックに、着物を着てニコニコ微笑む二人が写っていて。

そうかそうか、ちょっと前までは二次元の住人で、その推し活の様子に(痛バいたば組むとか)、ちょっと、だいぶ心配したりしていたけれど、
「○○くん、優しくてさぁ。」
と、幸せそうな姪っ子。惚気けたくてしかたない様子で、聞いていてこそばゆいけれど、おばちゃんは嬉しい。嬉しいよ。

「はーい、お待たせー」
そうこうしていると、唐揚げ定食が出来上がってきた。

                                  しっかり下味の揚げたて唐揚げ。

姪っ子は、ほっそほっそい体型なのに、高校時代のお弁当に毎日唐揚げを持っていっていたくらい、唐揚げ大好き星人だ。ラーメン屋へ行っても、唐揚げとライスというKYな注文をするブレない女だ。ほっそほっそいのに。
はてさて成くんの唐揚げは、この唐揚げ星人のお気に召すだろうか…。

「うんまっ!」

よかった、召したご様子。成くんありがとう。唐揚げありがとう。

「おまえの娘じゃないら?」
と姪っ子を見ながら成くんが聞く。
「うん、姪っ子。真ん中のお姉ちゃんの娘。うちの長女と同い年、20歳だよ」

「え゛。おまえ、娘、もうそんな大きなったかー。歳とったなー。笑」

「うるさいよ。笑」

遠慮のない会話、散々ここでみんなで酔っ払って成くんにたくさん話を聞いてもらったり、カラオケに連れていってもらったり、家まで送ってもらったりしてきたから。

「なかなか飲みに来れんくって」

「おまえら酔っ払うとタチ悪いでなー  笑」

「来んと寂しいくせにっ  笑」

時が経っても、こうやって変わらずに無遠慮に軽口をたたける成くん。

「あ、おまえ刺身食べれたっけ?」

「うん、食べれるよ?」

すると、奥から小皿にのせたプリプリのお刺身が出てきた。

「ブリ。今朝8キロのでっかいブリが入って、今おろしとったとこよ。」

「わぁ、ありがとう、美味しそう!」

おろしたてでコリコリ新鮮なブリ。海無し県のこんな山奥だから、新鮮なお刺身の食べられるお店は少ない。軽口ばかりたたくけれど、成くんの仕事はやっぱりかっこいい。

「ねね、柊ちゃん。あの人、柊ちゃんの同級生なの?」

と、コソッと姪っ子が聞くから「ブホッ」とお茶を吹きそうになる。

「え、やめてよ。成くんもう還暦すぎだよ」

昔はいろいろあったみたいだけれど、今は独身の成くんは、確かに外見は若く見えるし、ノリも若いけれど。けれど、よ。同級生はさすがにないわ…。お髭見てみ、白いよ?

「いや、すごい仲良いから。」

歳の離れた人と、こうやって冗談を言い合いながら気心知れて話す様子はきっと、姪っ子の目には新鮮にうつったのだろう。まだまだ、夜遊びも知らない、門限も破ったことのない良い子・・・だもの。

もりもりと唐揚げを食べて、ごはんを頬張って、変わらずに美味しい成くんの定食を食べながら、私が20歳だったころは…なんて思い出して、幼なじみたちの顔を思い浮かべる。

「ミサは週一くらいで来るぞ?
   マーは三ヶ月に1回くらいか…、子供連れて来るわ。もう三年生だとよ。」

幼なじみのミサの家はここから歩いて三分、マーも出戻り実家暮らしだから近くにいる。ナツは子だくさんでまだ小さな子がいて忙しそうだ。
三年も会っていない間、子どもたちは大きくなるのに、私の中のみんなは変わらない。
とたんにみんなに会いたくなった。
また飲みに来よう。

「またみんなで飲みにくるね、成くん」

お腹いっぱいになった帰り際にそう言うと、

「おまえらタチ悪いでなぁー 笑笑」
と言いながらも、
「おぅ、また来いな」
と、成くんは片手をあげて笑っていた。


90になるトキ姉にお勘定をしてもらい、
「ごちそうさまー」
と暖簾をくぐって表に出ると、

「唐揚げ、マジ美味しかったー!」

と姪っ子が満足そうにお腹をさすっていた。

今度は長女も連れてこよう。
一緒に、酔っ払って、また成くんをいじめてやろう、と私もポンポコリンのお腹をさすりながらそう思っていた。

「まったくおまえらはタチ悪いなー   笑笑」

成くんの笑顔が目に浮かぶ。











                       𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒 𓈒◌𓐍𓈒◌𓂃

成くんのお店は、こちらのお話の舞台でもあります⤵⤵⤵  タチ悪い呼ばわりされる所以。


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