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『学習する学校』は、どのようにして出版されたのか

学習する組織』には、3冊の「フィールドブック」があります。

フィールドブックとは、『学習する組織』の実践に現場(フィールド)で取り組む人のために書かれた、演習やツール、そしてさまざまな組織やネットワークでの取り組み事例を集めたものです。

先に発売された2冊は日本では廃版となっていますが、残る1冊『学習する学校』は、英治出版から発売されています。教育に関わるすべての人のために書かれた本です。

参照:フィールドブック 学習する組織「5つの能力」フィールドブック 学習する組織「10の変革課題」

学習する学校表紙

手に取ったことがある方はおわかりの通り、その分厚さを知ると手を出すのに躊躇する方もいるようです。

実はこの本は、最初から最後まで1ページずつ読み進めることを想定して書かれた本ではありません。先述の成り立ちを知れば想像できるかもしれませんが、これは、「読む」ためではなく「使う」ための本なのです。

今回は、『学習する学校』の成り立ちと、この本を上手く活用する方法をご紹介します。

必然的に、ビジネス業界向けに出版された『学習する組織』

『学習する学校』の著者であるピーター・センゲ氏たちは、マサチューセッツ工科大学のシステム・ダイナミクスグループが出身です。

1950年代、システム・ダイナミクスの考え方が、企業のマネジメントに応用されるようになります。

(※余談ですが、システム・ダイナミクス・グループの創設者でピーター・センゲたちの指導教官だったMIT名誉教授のジェイ・フォレスターが、ゼネラルエレクトリック社が抱えていた問題をシステム・ダイナミクスを用いて洞察した事例がよく知られています)

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そして、多くの企業やアカデミアが関わり、システム思考を含むさまざまなツールや方法を使って、21世紀の社会にふさわしい「学習する組織」をつくる取り組みが、MITの組織学習センターを拠点として研究されていきます。その取り組みを本にしたのが、1990年に出版された『学習する組織』です。

今も昔も、ピーター・センゲ氏は、こうした組織学習の取り組みを、企業の文脈に限るつもりはありませんでした。

しかし、『学習する組織』で紹介されているのは、企業の事例ばかりです。

そこには理由があり、影響したのは時代背景です。

1970~80年代当時、このような先進的な取り組み、組織運営の根本的な変革に向けて、お金と時間を費やして研究ができた組織は、企業だけでした。国際的なNGOも政府などの公的機関も、そのリソースがなかったのです。

必然的に、『学習する組織』は、企業での取り組み事例を取り上げた書籍となり、書店では経営やマネジメント部門の本として『学習する組織』が並べられることになりました。

多くの教育現場で「学習する組織」ができていた

出版されてから2年ほどが経った頃、ピーター・センゲ氏の元に、学校関係者から問い合わせがありました。

その方は、「もし企業が学習する組織になっていけるのであれば、学びの場である学校だって、学習する組織になれるのではないですか?」と問い、ピーター・センゲ氏は「その通りだ」と気づくのです。

その後、ピーター・センゲ氏は教育分野に関わり始め、連絡のあった学校を訪問したり、教育者たちと会う中で、それまで『学習する組織』で唱え続けていた取り組みが教育現場でたくさんされていた事実に驚きます。

参考:代表的な取り組みは、1987年にアリゾナ州Tucsonでシステム・ダイナミクスが公立校の授業に取り入れられたことです。30年以上に渡ってこの取り組みをリードしてきたウォーターズ財団は、多くのシステム思考教材を、教育者向けに無償で公開しています。
Waters Center for Systems Thinkingの沿革を参照)

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多くの学校では、人の力を活かしてみんなで学び、より良いチームや教室、場所をつくっていました。

そして、それぞれのビジョンが花開いて、安心して自分自身の間違いを振り返ることができ、みんなで大きな問いに答えていました。

888ページにも及ぶ本『学習する学校』は、こうした取り組み事例や、用いられたツールや演習の紹介、関わった教育長や校長、研究者たちのコラムを集めたものです。たくさんの優れた事例が既に教育分野にあったから、これだけの分厚さになったのです。

この本は、ピーター・センゲ氏が一人で書いたわけではありません。実は、67人が寄稿した、170以上の記事で構成されています。

『学習する組織』で培ってきた方法論と教育分野が出会い、様々な理論や事例が積み重なって一つの本になりました。

「読む本」ではなく、「使う本」

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構成を見てみると、『学習する学校』の背景となる教育観や、『学習する組織』の理論について書かれているのは最初の240ページで、それ以降は、その理論を実践してきた教室や学校、コミュニティ、市民団体、NGO、保護者グループの取り組みが紹介されています。

大きく4部構成で、「イントロダクション(理論編)」「教室編」「学校編」「コミュニティ編」に分かれています。

この本は、色んな事例や短い理論、演習をカテゴリ別に分けて集めたフィールドブックなのです。

現場(フィールド)で使うことを前提として、さまざまな現場の声を集めた本なので、読み物として知識をインプットするために用いるよりも、みなさんそれぞれの実践の参考資料として、辞書のようにどこからでも使ってください。

この本の成り立ちと構成が見えたら、ちょっと使えそうな気がしてきませんか?

ぜひ手に取って、目次を眺めて「この部分が面白そうだな」と思ったら、その部分から読んでみてください。

最後までお読みいただきありがとうございます。この記事は、システム思考教育家である福谷彰鴻の講義を基にして作成したものです。


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(文:建石尚子 監修:福谷彰鴻)

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