【読書ノート】『藪の中』芥川龍之介著 青空文庫
【読書ノート】
『藪の中』
芥川龍之介著 青空文庫
📖「真相は藪の中」の語源となった物語📖
藪の中で起こった殺人事件に関して、尋問を受けた7人の証言を並べた話。それぞれの証言は微妙に食い違い、真相はますます見えなくなっていく。
「藪の中」という言葉の語源になった物語。
📗木樵り(きこり)の証言
第一発見者。藪の中で男が仰向けに倒れており、胸元に傷があった。縄と櫛が落ちていた。
📗旅法師の証言
事件の前日、男は馬に乗った女と一緒にいた。女の顔は見えなかった。男は太刀と弓矢を所持していた。
📗容疑者・多襄丸(タジョウマル)を捕まえた男の証言
橋の上で唸っていたところを捕縛した。多襄丸は太刀と弓矢を持っていた。近くに男の妻のものと思われる馬がいた。
📗殺された男の妻の母親の証言
男は金沢武弘という26歳の若狭の侍。娘(男の妻)の名前は真砂で、19歳。現在行方不明。
📗多襄丸の白状
男は殺したが、娘は殺していない。昨日の昼過ぎに夫婦とすれ違った際に女の顔に惹かれ、彼女を奪うことを決意した。
財宝があると嘘をつき、夫婦を誘導。藪の中にて男を縄で縛り、女を強姦した。女はそのまま立ち去ろうとした自分を止め、「二人の男に恥を見られては生きていけない。夫か、あなたか、どちらか生き残った方についていく」と言った。自分は男の縄をほどき、決闘の末に殺害した。しかしその隙に女は逃げてしまった。
📗真砂の懺悔(ざんげ)
男に強姦された後、夫に駆け寄ろうとしたが男に蹴られ、転んだ。夫の瞳には、蔑みの色が浮かんでいた。あまりのショックで気絶し、目覚めたときには男は消えていた。
私は夫と一緒に死のうと思い、足元に落ちていた小刀で夫を殺害した。そして夫の縄を切り、自分も死のうとしたが、死に切れなかった。
📗霊媒による、男の死霊の証言
盗人は妻を犯した後、彼女を慰めながら「自分の妻になれ」と言った。妻は承諾し、藪の中から2人で出て行った。その際妻は、「夫を殺してくれ」と盗人に言った。
すると盗人は妻を蹴り飛ばし、自分に向かって「あの女を殺すか、助けるか、お前が決めろ」と言う。答えに迷っているうちに妻は逃走し、盗人も縄を切るなり逃げていった。
その後自分は、落ちていた小刀で自害した。意識を失う直前に誰かが忍び足で来て、胸の小刀を抜いて逃げ去った。
📗尾崎コメント
果たして真犯人は誰なのか?
そこは読者のそれぞれの見方によるところもあると思うが、この独特な小説の書き方、手法に注目すると非常に面白い。
証言している場面だけを並べ立て、それぞれ証言している内容が、少しずつ食い違わせているところが面白く、現代のドラマなどでも用いられている手法である。
きっと当時ではかなり珍しい形式で面白く感じさせると共に、真相を突き止めたい読者に何度も読ませるという、噛めば噛むほどのスルメのような作品だったのではないだろうか。
やはりこうした面からも、芥川龍之介は天才であり文才に優れた現代で言えばインフルエンサーだったと言われる所以だろう。
人によって見方が変わるように、真実というのは、実は存在しないものなのかも知れない。
事実を見ている人の『フィルター』がかかるからである。
その人のフィルターがかかることにより、事実を捻じ曲げてしまっていると考えると、それは事実ではなくなるのでは無いだろうか。
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