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盲目的に「大学に行く」のは危険?目を背けず、現状を見てみましょう

とりあえず、大卒になったほうが就職に有利だから大学にはいっとけ。という人がどのくらいいるだろう。筆者は、これにはあまり賛同しかねる。
子供たちには高校生の早い段階から、キャリアの選択を熟考してほしいと思う。一方で、企業も子供がキャリアパスを考えやすいよう、終身雇用・ジョブローテーションや正社員・非正規社員の格差を解消してほしいとも思う。

ランキングの高い大学は、就職率が高いのか?

大学によって「就職率」に濃淡はある。2022年の統計だが、大学院進学者を除く「就職を希望した学生」の就職率は、82.3%から97.7%までバラバラである。ちなみに、国立大学だから高い就職率を維持しているとは限らない。
2022年実就職率ランキング | 大学通信オンライン (univ-online.com)

大学に行っても6割しか正社員になれない?

さて、大学卒業後に就職できたとして、雇用体系の問題がある。
2015年時点での大卒者の正規雇用採用割合は79.4%。つまり、20%程度は非正規雇用等希望の職につけないのである。(研修医等除いている)
高卒者・高専卒者のが57.1~60.2%なので、大学を卒業したほうが20%程度正社員になれる可能性が高い計算になるので、まだ、「大卒のほうがいい!」とも言える。

高卒正社員と大卒非正規はどちらが年収が高い?

高専や高校を卒業して正社員に慣れる確率が60%。その場合、給与は大卒非正規社員よりも高い。例えば、40-44歳を見たときに、高卒男性の平均年収は479.5万円。大卒・大学院卒の非正規雇用者は356.4万円。

いやらしいフレーミングの仕方をすると、大学まで行って学費を払い、20%の確率で350万円の年収になるリスクと、60%の確率でそれよりも100万円以上高い年収を貰える可能性と、どちらを取るか、という問題とも言える。
さて、学費と生活費を奨学金に頼って、500万円借りると、利子を含めて520万円を20年かけて返す計算になる。350万円の手取りは270万円程度で、そこから26万円の奨学金が差し引かれる。高専卒の40-44差異が年収294万円、手取り230万円程度、と比べると、10万円/年くらい高いかな、という程度になる。高卒・高専卒で正社員の職につけるなら、ついてしまう、というのも一つの考え方だとは思う。

 正社員と契約・派遣社員で年収はどう分布している?

パッと見て気づくのが、契約社員・派遣社員の年収は振れ幅が小さい一方、正社員は人によって年収の格差が大きいことがわかる。最頻値で見れば、「契約社員は200万代、正社員は400万円」だから正社員が稼げる。といえるが、「契約・派遣社員の90%近くが年収400万円未満。正社員のうち50%も同じ年収帯に分布する」とも言える。契約社員・派遣社員とあまり差異がない年収に落ち着くのである。

「正社員と非正社員の就業実態, 意識に関する調査」 (2007 年 11 月)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/07/pdf/054-069.pdf

偏差値が高い大学に行くと、年収が上がる?それとも元々「できる」人なの?

大学に行くこと、正社員になること、が必ずしも安定したパスではない。では、できるだけランキングが高い大学・偏差値が高い大学に行くのが正解なのか?
この疑問を考えるとき、学歴と年収を考えるときに頭をよぎるのは、「それ、もともと頭いいから稼いでるんでしょ?」ということ。
プリンストン大学のマッチング法による研究は、これに答えてくれる。高校の成績から、エッセイの評価等、同じような条件で抽出された学生(つまり”頭のよさ”が同じ)のうち、ランキングが低い学校に行く選択をした人と高いランキングに行く選択をした人とを比較している。その結果は、ランキングの高さは年収に影響しない、というもの。”できる人”はどこに行っても稼げるということ。

日本の労働市場でもあてはまる?

とはいえ、この研究はアメリカでの研究。欧米では、7割の転職者が転職によって給与が上がっている。同じ職種ならば、今の職場でのプロモーションだけでなく、他社のポジションも含めてポジションアップが見込める。職務内容は標準化されているし、人が変わっても何をする必要があるのか明確なので、こうした結果になると思われる。もちろん、雇用の安定性が低いことやサイロ思考(職務外のことはやらない)が高まり安いというダウンサイドはあるだろう。
日本の転職市場は、転職によって年収が上がった割合は4割強。まだまだ、メンバーシップ雇用が中心を占め、職務範囲も曖昧な企業が多く、働き方も「うちのやり方」があって標準化されていない(と思う)。業界共通の「職種」が無い、かつ、ジョブローテーションで全員管理職候補を謳うため、日本の労働市場では、「転職に耐えうるスキル」はみがけない。また、非正規社員が正社員への転職を目指しても、25~34歳だと34.9%、次いで15~24歳が27.6%と、それほど高くない。
「どんな大学に行っても、ポテンシャルが同じで、職種が同じなら、将来の年収は変わらない」は、日本の労働市場でも同じ、と言うには少しエビデンス不足だろう。

企業に望むこと

ジョブローテーションは本気で「管理職候補」、として採用する人員だけに絞るのが良いと思う。部署間のコミュニケーションや、同期がいることでの仕事のススメやすさ等等メリットはたくさんあるからだ。一方、転職市場の硬直性は、給与の上昇を阻んでいるし、給与の柔軟性が無いから、需要のある職種(データサイエンティストとか)への人員の給与も引き上げられない。大学生も、「新卒」リセットされるので、大学で学んだことはいかせないことが多いし、インターンもない(遊びみたいな1日~1週間のイベント)はあるが、仕事のイメージは到底持てないし、インターンの経験をアピールして入社もできない。何故か、理学部で、居酒屋のアルバイトの経験を語っても大手金融機関に内定がでる(責めてるわけではなく。ご活躍している人もいるので)のは不思議でしょうがない。居酒屋のアルバイトをして、飲食系やホテル産業に行くなら納得である。商学部や経済学部ならそれも納得である。

「自分にあった仕事」を見つけるのはとてもむずかしい労働市場だし、そのためのパスは?と聞かれても誰も答えられない仕事がたくさんある。

われわれ大人は、子供にどうキャリアを語れば良いのだろうか。


(参考)
令和5年3月大学等卒業者の就職状況(4月1日現在)を公表します|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
2022年 大学ごとの主な就職先 | 大学通信オンライン (univ-online.com)
偏差値の高い大学に行っても将来の収入が上がらないって本当? | 「原因と結果」の経済学 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
Dale, S. B., & Krueger, A. B. (2002). Estimating the Payoff to Attending a More Selective College: An Application of Selection on Observables and Unobservables. Quarterly Journal of Economics, 117(4), 1491-1527; Dale, S. B., & Krueger, A. B. (2014). Estimating the effects of college characteristics over the career using administrative earnings data. Journal of Human Resources, 49(2), 323-358.

学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か |ニッセイ基礎研究所 (nli-research.co.jp)

平成26年版 労働経済の分析 -人材力の最大発揮に向けて-|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

転職で給与が上がらない日本…労働市場の問題点。アメリカでは「7割以上」給与UP | Business Insider Japan

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