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はくぶつかんのよる

図書館の閲覧席で静かに物語の世界に浸っていたカメの隣に、ウサギがふわりと座った。彼女は、興味津々にカメに問いかけた。
「ねえ、博物館ってどんなところなの?」

「それなら、分類番号069の書架に博物館の本が並んでるよ」と、カメは物語に夢中になったまま、上の空で答えた。

ウサギが本を探しに立ち上がろうとすると、カメは本に目を落としたまま、彼女の腕をそっと掴んだ。「ちょっと待って」と言うと、手探りで一冊の本を取り出した。

ウサギはその本を受け取り、カメの隣にもう一度座り直した。そっとページをめくると、人のいなくなった夜の博物館の物語が静かに始まった。

彼女は時に小さく笑い、時に息を飲みながら、最後まで一気に読み続けた。そしてゆっくりと本を閉じると、目を輝かせて言った。
「博物館って、こういうところだったのね」

「夜中の誰もいない静かな館内で、目覚めた黄色い蝶が飛んできて、『さあ、早く起きて』と辺りに呼びかけると、動物たちが一斉に動き出すの。まるで動物園みたいに」
ウサギは興奮覚めやらぬ様子で話し始めた。

「でもね、それだけじゃ終わらないのよ」とウサギは微笑みながら続けた。「ここからが本当にすごいところなんだから。生き物たちだけじゃなくて、埴輪やお面、仏像までがふわりと空中を漂い始めるのよ」彼女の声には、楽しさと驚きが溶け合っていた。
「博物館って、なんて夢があるのかしら」

「博物館に置かれているものたちは、開館中はずっとじっとしているから、夜くらいは羽を伸ばしたいんだろうね。それに熱帯夜で寝苦しいのかもしれないね」と、カメは静かに彼女に視線を向けながら言った。

「そういうことなら、博物館に行くなら断然夜ね。昼間はちょっと退屈そうだもの。じゃあ、夜で決まりね」と、ウサギは困り顔のカメの腕を揺さぶりながら微笑んだ。

カメはそっとウサギの腕から抜け出し、「よ、良い子は夜は眠ろうね」と言うと、読んでいた物語の中へと戻って行った。

※はくぶつかんのよる
イザベル・シムレール 文・絵
石津ちひろ・訳/岩波書店

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