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4日後の満月|詩歌







住所のない液状のこころ
適所に置いて固めていく
きっとサナギも苦しいのだ











夢に君が会いにきた
胸に残るあの感じ
それは小鳥の羽根音が
心臓たたく痛さにも似る










自宅の磁力に吸着される朝
自宅の磁力に吸われていく夕方の車










チューハイロング缶4本と
ベンチでオセロをする人たちに朝










生まれた場所にも土にも還れない無機物






月と星






23時に影を落として
「ふりむいて」と4日後の満月










「月が綺麗ですね」といざ言えないから
あの明星を指さし「金星だ」と君にほほえむ










しめった葉っぱの夜のにおい
半分月がななめにかがやく
竹林がそれをかくして
大きなひしゃくが私をすくう
ぎょしゃに、こいぬに、
こぐまに、はねて
そこで笑顔が消えたとき
私はまたアスファルトを歩く











いつまでも鮮度を保つ
言わないと誓った君への気持ちを
南に長く吹く生ぬるい風に乗せる










風が吹く
はた、はた、と未来へ進むカレンダー











頭の中で綴る憎しみのラブレター










1人で見上げなければいけなくなった花火はこんなにも










あなたも同じくらい傷付いて
私は明るくいられるから










きみと来たおんなじ場所を歩いて反芻
きみの言葉の裏側をGoogleで調べてまた反芻










恋愛運が好調な占いの今週が終わる










好きな人がいると言われたあの駅がまだ痛い










やっぱり君がいいなと
心がそう答えている











大きめの傘を買う
背負ったバッグが濡れないように
進めた脚が濡れないように
できれば空の色の傘

誰かを助けてあげれるように
あなたを入れてあげれるように
君が 濡れて泣かないように
たまには姿をかくせるように

この地球の重力で
モノがこの地に落ちてくように
宇宙の必然のように 降りかかる
理不尽から あなたを救えるように

この世で一番不幸だと
あなたが感じてしまわぬように
私は大きめの傘を買う










待っているときと
使われているときで
傘は 180度違う











生きることが許されない
悪の自分に
透きとおった青は刺してくるから
雲がいてくれてよかった






職場にて






蛍光灯が細かく点滅する
君がすすり泣くリズムと同じ










逆さにある書類を逆さのまま読もう
それが君なのだから










まだ泣いてはいけない
夜が来るまでは






紙とペン






紙の裏が透けてみえる
たくさん何かが書いてある
気になる
でも
表面にたくさん書くと
そんなことはもう忘れる

紙の裏から透けている
逆になってる薄い字を
解読しようと夢中になって
「ああでもない」「こうでもない」と
考えて
いつのまにやら時だけ経って
表面はいまでも真白
裏の文字だけ見つめてる










私の大事な黄色いペン
ドイツ生まれのこのペンは
書いた文字と図形と言葉を
果たして覚えているのだろうか

覚えているのなら そうだ
私の大事な黄色いペンには
きれいな言葉ときれいな文字と
みずみずしい絵をいつまでも
ずっと書かせていてあげたい
優しいままでまっすぐな
このいのちをまっとうさせたい

でも どうしても
私の心を紙に暴くと
悲しく 辛く 汚い言葉
誰にも言えない秘密の言葉
そればっかりを書かせてしまう

私の大事な黄色いペンは
それを書き留め傷ついて
心を閉ざしているのかも
悲しい顔しているのかも
私の中のすべてを知って
私を嫌いになるのかも

だから私の黄色いペンは
何も覚えていなくていい






文学






私の文学はバーミヤンから生まれる
JR東日本の下りの電車の中から生まれる

朝の人に追い抜かれ
アーケードの天井を
見上げ歩いたときに生まれる

海の向こうの鼻歌が
鼓膜に届いたときに生まれる

仕事の電話を待つとき生まれる
リングノートのリングの跡が小指についたときに生まれる

あなたの背中を見ているときの
熱い心の中から生まれる

体の中の黒い渦巻 体の中の白い場所
同時に在るからこそ生まれる

夜の駅を降りてから
空の暗さに顔を向け
家路につこうと靴底が
ペタペタ鳴らすときに生まれる

真正面から風をうけ
地球に抱かれたときに生まれる

そうして
押し出されるよう呟いた
その言葉の中から紡がれる






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