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本日、統合失調症の私はパートで勤めて十年目の職場から正規職員の辞令を受け取りました

今回は統合失調症を患っている私の現在の職業について語りたいと思います。
私は三十四歳の五月一日から、四十三歳の六月末の現在まで、特別養護老人ホームで介護の仕事にパート職員として従事してきました。そして、本日、明日付で正規職員の辞令を受け取りました。
 
特別養護老人ホームに就職したきっかけは、障害者採用の合同面接会に臨んだことでした。私は介護の仕事に絶対に就いてやろうと、ホームヘルパー二級の資格を自腹を切って取得していました。なぜ、介護の職かと言いますと、小学生時代の同級生で介護の仕事に就きそこで知り合った女性と結婚した人がいることを聞き、「じゃあ俺も」と思ったことがスタートです。正直、やましいです。それと理由はもうひとつあって、私は以前、植木の仕事をしていました。その自動車での出勤中にリハビリテーション病院の前を通りました。理学療法士たちが、お年寄りに付き添ってゆっくりと歩道を歩いているのを見ました。植木というハードな肉体労働をしていた私は、「いいなぁ。楽そうな仕事だなぁ」と思っていました。やましいです。
植木の仕事を辞職したあとパートの職を転々とした私はハローワークに通いました。するとパソコンの一番初めの画面に「介護職の職場体験をしませんか」という広告がありました。私はすぐに飛びつきました。職場体験の場所は、まさにあのリハビリテーション病院でした。三日間の体験で私は介護の楽しさを知りました。介護の仕事には「見守り」というのがあります。職場体験で「少し見守りをしていてください」ということがありました。私は「何をすればいいのですか?」と訊きました。すると介護職員は「お年寄りとお喋りしていてください」と言いました。私はお手玉などしておばあさんたちとお喋りしました。「こりゃ楽しいわ、楽だ」と思いました。しかし、そのあと、オムツ交換の見学をしました。介護職員が、寝ているおじいさんのオムツを開くと便が出ていました。私は「うわっ、汚ねえ、え?これを交換するの?マジで?」と思いました。介護職員は何の抵抗もなくオムツを交換しました。「俺に出来るだろうか?あんな汚い仕事が」と思いましたが、私も労働の経験者です。仕事にはどんなものでも嫌な面はあります。私は覚悟を決め、上に述べたようにホームヘルパー二級の資格を取りました。資格を取るための実習で私はグループホームに行きました。そこで、おばあさんの陰部洗浄を初体験しました。薄いゴム手袋で、おばあさんの股間に手を入れ、ボトルからお湯をかけて洗うのです。そのおばあさんは太っていて下腹が垂れるほど膨らんでいたので柔らかく、立ったまま前から股間に手を入れた私には手探りでは柔らかい下腹のどこからが陰部なのかわかりませんでした。恥ずかしながら女性の陰部を触ったのはそれが生まれて初めてでした。もちろんエロい気持ちなどなく、そのあまりやりたくない仕事もやろうと決意しました。
 
現在の特別養護老人ホームにはパートとして就職しました。正規職員ではなくパートであるのは夜勤ができないからです。
私は二十一歳で精神科の初診を受けて以来、毎晩きちんと寝ることを守り通してきました。統合失調症を良くさせるためです。もし、無理して夜勤などやったら長年の努力が水の泡です。そこはどうしても譲れませんでした。そこで、私はパートという身分で就職しました。私の病気を知っている人は、事務員など管理的な立場にある人だけで、現場の介護職員は知らないという環境ができました。別に秘密にしようとしたわけではなかったのですが、「みんなに病気のことを知らせてもいいですか?」と面接で訊かれ、「どちらでもいいです」と私が答えたため、そういう環境が出来上がりました。
 
パートは正規職員と待遇が全然違いました。まず、ボーナスが出るか出ないか。私は初めはボーナスが出なかったと記憶しています。ボーナスが出るようになるまで、七年か八年くらいかかったと思います。しかもその額が、三万円です。正規職員は四か月分貰っていて、つまり何十万円も貰っているのです。非正規と正規では全然違うことを私は肌で感じてきました。私は九年と二か月この職場で働いてきましたが、その間どれだけの新人正規職員が就職し辞めて行ったことでしょう?その人たちは、二年程度しか働かないのに私より多く貰っていたのです。私より仕事が出来る人もいましたが、モノになると辞めて行く、そんな感じでした。私よりあきらかに仕事が出来ない正規職員もいました。でも、私より多く貰っていたのです。正規職員だからです。夜勤をやっているから?しかし、夜勤には夜勤手当がつきます。では、なぜ私より多く貰うのか?それは私がパートという契約で彼ら彼女らは正規職員として契約しているからです。あ、ちなみに私の毎月の勤務日数は正規職員と同じで、一日八時間労働していました。仕事内容が同じなのになぜ給料が違うのか?・・・契約だからです。仕事の質で収入が決まるのではなく、契約で決まるのです。それとも私が障害者だから低収入だったのでしょうか?仕事の質ではなく健常者か障害者かで収入が決まるのでしょうか?ああ、こう書いていると私はまるで今の職場に不満があるように思えるかもしれません。しかし、私は今の職場が好きなのです。しかし、労働環境という日本社会一般の問題を私の職場に当てはめて語っているのです。非正規雇用は政治の選挙の争点にもなるくらいです。私はパートの時給を上げろ、と言っているのではありません。もちろんそれも大切ですが、非正規にも正規職員と同じ率のボーナスを出せ、と言いたいのです(そもそもボーナスってなんだ?)。いや、そればかりではありません、正規非正規の区別をなくせ、と言いたいのです。私が介護職という離職率の高い業界に属しているから余計にそう思うのですが、人間はいつ仕事を辞めるかわかりません。それなのに契約で正規非正規と二分してしまう就業形態がおかしいと思うのです。私の年下の知人の知人に、震災前に東京電力に正規職員で入ったエリートがいます。彼は、震災で福島原発の事故があると、苦しくなった東京電力を依頼退職し他の大企業に転職しました。これが正規職員でしょうか?東京電力には震災前から震災後も働き続けている非正規職員はいないのでしょうか?私は知りません。しかし、いるとしたら、そういう非正規職員こそが、本当に社会から恩恵を受けるべきだと思います。労働の価値は契約では決まらないと思います。仕事の質で決まると思います。仕事への姿勢で決まると思います。
 
私は明日から正規職員です(夜勤をやらないという条件も付いてです)。給料が上がります。十年目にしてようやくです。しかし、非正規で九年と二か月、いや、二十代の頃からずっとパートで頑張ってきた二十年にも及ぶ下積み時代を忘れずに生きて行きたいと思います。

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