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「フランス近代という病」は、精神分析される必要がある。

Oh, mon Dieu ! フランスはパリ五輪開催式において、なぜあんな挑発的で露悪的な演出をおこなったのか?



民主主義の母国と言われもするフランスだけれど、しかしフランス革命って王様、王妃、果ては貴族たちみな殺しの暴力革命ですよ。たとえば「美食の父」として有名なブリヤ=サヴァランは当時34歳の代議士で、こりゃおれも殺されると、あわててヴァイオリン持ってアメリカへ逃げています。ただの代議士でこれですよ。




フランスはこの黒歴史を無理やり肯定しなくちゃいけませんから、開き直って、去る7月27日のオリンピック開催式、4時間にわたる屋外ライヴ・ショウで、挑発芸術表現を展開しておられます。マリー・アントワネットが生首持って革命歌 Ça iraを歌い、ヘビメタバンド、ゴジラの演奏に繋げる挑発的で露悪的な演出をしてしまうのでしょう。いいえ、そこだけ切り取るのは公平ではなく、セレモニーでは、エディット・ピアフの”L'hymne à l'amour 愛の讃歌”をセリーヌ・ディオンが歌い、共和国防衛隊の真ん中でアフロポップシンガーのアヤ・ナカムラが歌い、レディー・ガガがジジ・ジャンメールの”Mon truc en plumes”を歌い、そしてオペラ歌手アクセル・サン・シレルが『ラ・マルセイエーズ』を歌いもした。.なるほど、そこにはLGBTQのみならず、女性にもスポットライトを当て、多様性への頌歌でもあったという見方もあるでしょうが。




とりわけスキャンダラスだったのは、レオナルドの『最後の晩餐』、イエスが12人の使徒と食事をする絵画のパロディとして、イエスの12人の使徒さながらに12人のドラッグクイーンが並んだ場面です。キリスト役と目されているのはレズビアンDJのバーバラ・ブッチさん。さらにはでっかい皿にクロッシェをかぶされ、そのクロッシェが外されると、料理の皿の中心に全身青塗りのほぼ裸の男が微笑んでいる。かれはディオニソスの役柄で、演じたのはフィリップ・カトリーヌさん。そこにはキリスト教の禁欲倫理に対する反逆のメッセージがあり、各種「逸脱した(と見なされて来た)」リビドーの讃歌を謳いあげます。





演出はLa Piccola Familiaのダイレクター、トマ・ジョリー Thomas Jolly(b.1982-) 、かれ自身もゲイであることをカミング・アウトしておられます。かれを任命したのは、パリ五輪のTony Estanguet会長で、かれは元カヌー選手で3回オリンピックチャンピオンになっています。なお、フランス金融庁は会長がオリンピック関連で不正な利益を得ていないか、調査を開始しています。




もともとマクロン大統領は2024年をフランスにとって誇りの年にしたいと語っていたもの。またマクロン大統領は、おそらくは性的マイノリティの支持をとりつけたいためでしょう、LGBTQの人権擁護に積極的で、先日も34歳のゲイを文部大臣にしています。(ただし、マクロンのこの戦略は諸刃の剣で、かれは極右勢力が性的マイノリティを憎悪の対象にすることに貢献もしています。いずれにせよ)もちろん大統領はこのオープニング・セレモニーに賞賛を捧げた、トーマス・ジョリーとアーティストたちに”このユニークで魔法のような瞬間”に感謝する。ブリュノ・ルメール経済大臣もよろこびを隠さない、「世界でもっとも美しいスポーツ大会が、世界でもっとも美しい国で、歴史上もっとも美しいセレモニーだ!」 フランス女男平等・差別対策担当大臣のオーロール・ベルジェ(b.1986-)も熱狂した、「われわれの歴史、われわれの闘争、われわれのエネルギー、われわれの創造性、われわれの多様性、われわれの言葉、われわれの芸術家、われわれのアスリート、われわれの、世界への開放性!」



しかし、讃辞ばかりなはずがない。まずヴァチカンが声明を出した、「全世界が共通の価値観を持って集まる権威あるイヴェントにおいて、多くの人々の宗教的信念を嘲笑するような暗示があってはならない。今回のオープニング・セレモニーにおける、多くのキリスト教徒や他の宗教の信者に対する侮辱をわたしは非難する。」もちろんフランス司教協議会(CEF)も、ジョリーの演出に抗議した。フランスの極右勢力もジョリーを批判した。右派の『ル・フィガロ』も不必要に挑発的だったと見なした。トルコのエルドアン大統領も非難した。アメリカのトランプさんもマッチョでしかも福音派が支持母体のひとつですから、非難の声明を出しておられます。スポンサーのひとつのプロバイダー企業は、このセレモニーを批判し、スポンサーを降りた。もはや世界中から大ブーイングの嵐は止まらない。なお、興味深いことに極右のMarine Le Penは賢明にもこの開催式へのコメントを避け、きわめて穏健な挨拶を送った、「すべてのアスリートに幸運を祈る。フランス国旗を掲げる準備ができた。」



Thomas Jolly は記者会見で弁明した、「フランスには、創造の自由、芸術の自由があります。フランスという自由な国に住んでいることは幸運です。わたしたちは共和国フランス人であり、わたしたちが望む人を愛する権利があり、崇拝者にならない権利があり、フランスには多くの権利がある。これがわたしが伝えたかったことです。わたしジョリーはいかなる宗教団体に対しても軽視を示す意図はなかった。わたしのアイディアはむしろ、オリンポスの神々と結びついた大きな異教の祭りを作ることでした。オリンポス。オリンピズム。」



なるほどそこには王様、王妃、たくさんの貴族たちをギロチンにかけて殺し、宗教の時代を過去のものにしたフランス近代へのプライドがあるでしょう。また、個人の自由と尊厳を重んじればおのずとLGBTQの擁護と賞讃にもつながるでしょう。しかし、宗教が過去の遺物であるというのは近代主義者の勝手な言い分である。また、LGBTQの人権は擁護されるべきとはいえ、しかしオリンピック開催式にそれを持ち込むのは、道理に反しています。にもかかわらず、こういうオープニングセレモニーがまかりとおってしまうのがフランスという国の恐ろしさ。一言で言えば、「フランス近代という病」は、精神分析される必要がある。しかも、いまやそれは多様性~LGBTQ擁護賞揚の旗を掲げたグローバリズムと結びついているのだ。



ジャック・アタリは老獪に用心深く言葉を選んだ、「歴史がこの開会式を判断する。10年後には、これらの違反が自然で当たり前のことになっているか、あるいは、2024年が退廃の瞬間であったことの尺度として感じられるようになるかの、どちらかだ。」なお、ジャック・アタリはフランソワ・ミッテランの元顧問で、エマニュエル・マクロンの元支持者です。




結局、IOC(国際オリンピック委員会International Olympic Committee)はあまりのブーイングの嵐に恐れをなして、公式に謝罪した。前代未聞の事態である。しかも、IOCはオープニング・セレモニーの画像も削除しまくっています。IOCは火消しにおおわらわです。



すなわち、フランス国家のエリート主義、エリートたちが特権とともに好き放題おこなう政治と文化、パリへの権力集中、平等の旗を掲げた不平等社会、左翼思想と挑発芸術&LGBTQは、いまやSNSとポピュリズムの時代に集中砲火を浴びています。余談ながら、今回のオリンピックは大腸菌うようよのセーヌでトライアスロンの選手たちをむりやり泳がせ、大問題になっています。









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