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LSD摂取による感覚変容とはどういうものか? シド・バレットに導かれて。

人はまず五感で世界を感じ、次にその情報が脳に入って、それをもとに、舌や指や身振りを使って表現する。はやいはなしがおしゃべりしたり、絵を描いたり、音楽を演奏したりする。もしも脳になにか異変が起これば、知覚も変容し、おのずと表現もまた変化する。たとえばはげしい酔っ払いはおしゃべりのろれつがまわらなくなって、話がぐるぐるまわりになって、挙句の果てにまっすぐ歩けなくなったりするもの。なぜ、こんなことが起こるのか? その理由はアルコールが脳関門を通過して、脳機能の一部を麻痺させることによっています。ましてやLSDなんておっかないものを摂取すれば、どんなとんでもないことになるや知れたものではありません。


しかし、60年代後半の欧米社会はまさに気が狂っていて、若者たちはマリファナやLSDを摂取して、みんなしてラリパッパになって、LOVE&PEACEのユートピアを夢見た。LSD経験は〈インスタント禅〉と呼ばれ、まるでハンバーガーでも食べるかのように、あっというまに30年修行した行者の感覚を得ることができる。しかし、いいことばかりがあるわけもなく、人によっては、また場合によっては地獄をのたうちまわるはめに陥る。さらにはLSDに依存性が生れてしまえば、各種代謝経路はぶっ壊れ、しかも(LSDの品質、また摂取量によって一概には言えないものの、ともすれば)廃人同様になり果てる。


あの時代にはいかにもLSD経験を感じさせる楽曲は多い。とくに『リヴォルヴァー』以降の後期ザ・ビートルズや、初期ピンク・フロイド、はたまたザ・ローリングストーンズ、キャプテン・ビーフハート、プロコルハルム、クイック・シルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、ビーチボーイズ・・・挙げてゆけばきりがない。



音楽を聴いただけで、あきらかになにかが起こっていることがありありとわかる。たとえば、LSDの影響下に作られた音楽には、ギターソロをテープに録音し、それを逆回転させたものを使ったものがまま見受けられる。




また、あの時代のロックにあっては、ミュージック・コンクレートの手法を用いたものも散見される。





なぜ、かれらは当時こういう技法を愛しただろう? ぼくはこう推理する。哲学者のカントは指摘した、〈人は観念を使って世界を認識する。したがって物自体をダイレクトに認識することはできない。〉しかし、LSDを摂取した人は、摂取後経時変化とともに、観念が蒸発し、この世界(物自体の世界)をダイレクトに認識し、しかもその世界はやがてカラフルな色彩を帯び、さらには世界は液状化し、溶けはじめるのではないかしら。このように推理すると、テープの逆回転やミュージックコンクレート、はたまたあの時代のアルバムジャケットに満ちあふれるペイズリー柄や、カラフルな色使いの理由がわかる。かれらは自分に起こった感覚変容をそのままダイレクトに表現しているのだ。



ひじょうに興味深いことながら、しかし、こんな恐ろしい経験もなかなかない。じっさいLSD摂取15分後から、9時間後までの感覚変容を、接種者による11枚の自画像で、示した実験がある。英文は気にせず、下へ下へスクロールしながら、彼女の感覚変容、地獄めぐりの旅をご覧ください。



なお、1960年代のサイケデリックカルチュアの隆盛には、当時アメリカで高まっていたヴェトナム反戦運動を若者たちをラリパッパにすることで骨抜きにするためだったという説がある。真偽は不明ながら、いつの時代もディープステイトはろくなことをしないものである。なお、シド・バレット在籍時のピンク・フロイド・アメリカツアーにおいて、シド・バレットはまったくやる気がなかった。もしかしたらシドのその態度は、ディープステートがかれにドラッグキャンペーンの旗振り役を要請したものの、しかしシドがそれを拒否したからではないかしらん??? 



いずれにせよ、臆病者で賢明なぼくは煙草(フィリップ・モーリズ14、各種ブラック・デヴィル、そしてガラム)とチリ産の安い赤ワインとコーヒー、そして瞑想でちいさなトリップを繰り返す。ときにシド・バレットのことをおもいながら。





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