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シド・バレットの共感覚について。「たぶんぼくらは、中間的な昏さ、ちょっと午後のまんなか的で、おそらくその瞬間めちゃくちゃ強風で氷っぽい。」

タイトルに引用したのは1970年、シド・バレットがインタヴューに答えたときのもの。なお、この言葉はかれが共感覚の持ち主だったことの証明として有名になった。ただし、インタヴュー全体がどんなものだったか、ぼくは知らない。



なお、共感覚 Synesthethia は厳密な脳科学的定義がなされていない。その理由は、共感覚には(傾向ごとに共通性も見られるものの、ただし)さまざまな傾向があるゆえ、定義(一般化)しにくいのだろう。たとえばそれぞれの文字にそれぞれの色を感じる。なにかを食べるとその味に形を感じる。音に色が見える。いかにも神秘的におもえるけれど、しかし、もしもこの傾向が強ければ日常生活に支障をきたしかねないだろうと心配してしまう。なお、共感覚の持ち主はそれなりにいて。作曲家のスクリャービン、あるいはスティーヴィー・ワンダー、ビヨンセ、はたまた小説家のナボコフ、そして詩人アルチュール・ランボー・・・。



ランボーは”Voyelles(母音)”という詩を書いた。


A noir, E blanc, I rouge, U vert, O bleu : voyelles,
Je dirai quelque jour vos naissances latentes :


「Aは黒く、Eは白い、Iは赤く、Uは緑、Oは青い。母音、私はいつの日かあなたの潜在的な誕生を教えてあげよう。」



シド・バレットは当時美青年で、優雅な微笑が似合った。生きるのがたのしくてたまらないといったふうで、まわりの人たちをしあわせにもした。ただし、かれは寡黙で、インタヴュアーを困らせた。



しかし、かれはLSDに惑溺し、やがて人格を崩壊させてしまってからは、明るさも消えた。



シド・バレットの言葉。「たぶんぼくらは、中間的な昏さ、ちょっと午後のまんなか的で、おそらくその瞬間めちゃくちゃ強風で氷っぽい。」けっして奇をてらいたいとか、芸術家っぽい発言で煙に巻いてやろうなんていう俗っぽさはなさそうで、これがかれの素だっただろうとぼくはおもう。



シド・バレットは画家で、詩人で、音楽家である。もしもそこだけ言うならばジョン・レノン、ジョニ・ミッチェル、忌野清志郎さんもまた同じである。(そう言えば、清志郎さんもシャイで寡黙な人だった。)ただし、かれらに共感覚があったという話は聞かない。おそらくシド・バレットの場合は、共感覚がかれの創造性の根本にあって、そこから絵も詩も音楽も生まれているでしょう。才能というものはつくづくその人の身体条件と密接に結びついているものだ。


これは”Octopus(タコ)”という歌。シドは歌う、「うねりのなかへトリップしよう。アップダウンしながら進んでゆこう。トリップしよう、夢のドラゴンへ。きみの翼を隠すんだ、幽霊の塔のなかに。(・・・)きみは言葉を持ってない。どうか、ここにいさせて欲しい。目を閉じて。タコにライドしようぜ。」



おもえばタコは沿岸部にひっそり暮らし、岩の穴や石の下に巣をつくって、おもに夜、活動する。タコは胴の中の水を漏斗から吐き出して、素早く水中を移動する。 敵が来襲するとタコは、墨を吐き出し、煙幕にして身を護る。ここにシド・バレットの危なっかしい処世術を感じるのは、ぼくだけだろうか?



後註:なお、このエッセイを書いた後、コメント欄でMALさんから、遊園地にオクトパスライドという装置があることを教えていただきました。なるほど! ぼくはオクトパスライドという言葉も、遊園地のそれも知りませんでした。それでもぼくの解釈は、(シドは動物好きでかれの詩にはネズミ、白鳥、象、カメなどいろんな動物が登場するゆえ)、かれはオクトパスライドからこの詩を着想し、その詩の水面下にリアルタコのイメージをも潜ませたのではないかしらん??? やや無理筋???


Syd
Barrett (1946年1月6日 – 2006年7月7日没 享年60歳。)苗字が「銃弾」であるところの詩人、歌手、音楽家、そして画家。かれは初期ピンク・フロイドのバンドリーダーとして1967年から1969年までの2年足らず活動し、(ものすごい熱量を内蔵した)ファースト・アルバム”The Piper at the Gates of Dawn ”を残した。しかし、かれはLSD乱用によって奇行がめだつようになって、バンドメンバーはかれとともにバンド活動を続けることをあきらめ、結局かれは自分が作ったバンドから追い出された。その後かれは2枚のソロ・アルバムを発表し、事実上音楽界から引退し、ロンドンから立ち去り、故郷に帰って、引きこもって絵を描きつづけ、ガーデニングにいそしんだ。




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