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実は上野千鶴子さんはファザコンのフェミニストなんですよ、みなさん。

上野千鶴子さん(b.1948-)は、日本におけるフェミニズムの教祖であり、家族社会学、ジェンダー論の学者であり活動家、東京大学名誉教授です。『おひとりさまの老後』(2007年刊)シリーズの大ベストセラー作家としても有名です。彼女の思想は、恋愛はすばらしい、不倫のどこが悪い、しかし〈結婚による幸福への期待は妄想である。女性は結婚してしまうと不自由になる。結婚は人生の墓場だ。したがってひとりで生きることこそが理想的である〉というご主旨である。フェミニストの公式見解と言えましょう。



ところが、そんな上野さんご自身は(ちょうど彼女のおとうさんが奥様に先立たれて元気をなくし、独身になって9年後にお亡くなりになられた、その時期に前後する)25年まえから、八ヶ岳の麓に暮す23歳年上の男性・色川大吉氏(1925-2021。フィールドワークをなさる立派な日本史家)と週末ごとのおつきあいがあって。彼女の恋愛はやがて色川さんへの介護をともなったものになってゆきます。そして遂に上野さんは色川氏の死の15時間まえに、入籍した!!! つまり彼女は15時間の花嫁になった。実はそこには彼女の結婚に対する長きにわたっての抵抗があった上での最終的な世俗的妥協ではあるでしょう。



しかし、世間はそんなことを斟酌しません。それって遺産相続目的??? とおもわれることは仕方のないこと。もちろんそんなことは世間のほとんどの人が知らなかったこと。しかし、これについてリークしたのが週刊文春2023年2月22日発売である。いやはや。世間はみんなびっくり仰天。な、な、なんと『おひとりさまの老後』執筆時にご本人はおふたりさまでラヴラヴだったのか!?? お相手のご苗字が「色の川」であるところがまたまるで小説のようです。



もちろん上野千鶴子信者たちは激怒する。騙された! 詐欺師! ビジネス左翼! 銭ゲバ! 団塊の赤い貴族は老害! いかトー(いかにも東大)! あんたの本読んで信じて不幸になった女たちに謝罪して、千羽鶴でも折りやがれ! 世間ではブーイングの嵐が吹き荒れています。また、百田尚樹さんや飯山あかりさんなど心情あふれる保守系論客は、フェミニズムが社会分断工作の一環であり偽善であることを見抜いておられるゆえ、この件にうれしがっちゃって、YOUTUBE動画で気炎をあげておられます。



もっとも、ぼくはちっとも驚かない。著者が本に書くことと著者の実人生に齟齬が生まれることなどむかしもいまもざらにあること。(上野さんの一件はちょっとタチが悪いとはおもうけれど。)かのベストセラー本のなかで彼女は女性にアドヴァイスする。女性の方が平均寿命が長いゆえ、結婚していようがしていまいが、人生の終わりにおひとりさまになる確率は高い。したがって元気なうちに老いの現実を知り、老後にそなえておきましょうというわけ。介護の受け方、死の受け入れ方など具体的なアドヴァイスをしておられます。あきらかに上野さんは自分自身のためのみならず、読者のために本を書いておられて、読者への愛情が深い。なお、彼女はおとうさんの介護と、その後の色川さんとの恋愛のなかでやがて自分が色川さんを介護することになるだろうなという昏い予感を介して、この主題にゆきつかれたでしょう。かの本は社会学者の上野さんゆえリサーチもゆきとどき、上野さんはお茶の子さいさいであっというまにこの本をお書きになれたことでしょう。それで80万部、シリーズ累計128万部の大ベストセラーですから、ウハウハですわ。(おっと、つい百田さんの口調が乗り移ってしまった!)



なお、上野さんはおおガネ持ちで、武蔵野のタワマンの上層階に暮らし、BMB Z4をぶっ飛ばし、色川さんとのおつきあいをきっかけに八ヶ岳の麓の別荘を共同で持ち、色川さんの没後は遺産も相続し、別荘もまた彼女単独のものとなった。にもかかわらず、彼女は(言わなきゃいいのに)「みんな平等に貧乏になろう」なんて新聞で主張しちゃって、顰蹙を買う。しょせん赤い貴族なんてそんなもの。また、彼女のおカネの使い方はあまりにも俗っぽい。つくづく彼女は世俗の価値観を内面化しておられます。(だから彼女は売れっ子の論客を張ることができるのでしょうが。)もっとも、彼女にとっては「あたしはフェミニズムの旗手なんだから、まずあたし自身がかっこよく生きなくちゃ」という責任感のゆえでもあるでしょう。彼女の赤毛のショートヘアが凛々しい。熱心なエステ通いも察せられます。若さもまたあるていどおカネで買える時代です。



他方、『おひとりさまの老後』はともあれ、フェミニズムの騎手・上野千鶴子に騙される読者も悪い。左翼思想由来の頭でっかちな人生処方箋などあてにするものではありません。左翼知性を支えに上手に人生を生きるなんて芸当は、世渡り上手の学者か人権派の弁護士、はたまた労働運動のエリートだけですよ。



上野さんについて注目すべきポイントは他にある。おそらく上野千鶴子さんは、父親に屈折した愛憎(相反感情)をお持ちです。彼女がどこかで書いておられたことには、コドモ時代のお正月に、父親(富山の内科開業医)がコドモたちに将来の夢を訊ねた。父親は、男のきょだいたちの夢にはまじめに反応したが、しかし彼女にはこう言った、「チズコは女の子だから好きなように生きなさい。」彼女は父親から溺愛されて育ち、彼女もまた父親が大好きだったからこそ、くやしかった。たいへん傷ついた。この決定的瞬間が、その後ひとりの闘うフェミニストを生んだ、とぼくはにらんでいます。



次に、むかしから上野さんはモテモテでした。しかも上野さんは年上の男性が好き好き大好き♡ 若かった頃の彼女は当時、飛ぶ鳥を落とす大人気の経済人類学の学者だった栗本慎一郎さん(b.1941-)と愛人関係にあったという噂があった。(真偽は不明ながら。)また、1982年彼女は34歳で著作『セクシーギャルの大研究』を上梓。(彼女の『スカートの下の劇場』と並んでとってもたのしい本です。)本のカヴァーには、栗本慎一郎さんと山口昌男さんがそれぞれ彼女に推薦文を捧げ、おふたりとも口を揃えて「処女でもないのに処女作書いて」と、いかにも著者とのしたしい関係をうかがわせる、失礼な紹介文を捧げておられたもの。のどかな昭和末期ならではのことである。(余談ながらいまでは「処女作」という言葉も死語でしょう。また昭和のオヤジたちには処女信仰が蔓延していたもの。)なお、上野千鶴子さんにとってこの本は出世作であり、いまにしておもえばセクシー・ギャルとはご自分のことでもあったことでしょう。なお、この本に彼女のおとうさんは激怒し、おかあさんもまた憤慨したことが伝えられています。本は話題になったものの、しかし親族関係は地獄になった、これもまた世間にざらにあること。



また、当時30代だった上野千鶴子さんは凄腕のオヤジキラーでもあって、鶴見俊輔、森毅、吉本隆明をはじめ名だたる年長男性知識人を相手に、いともたやすく好感を勝ち取ったもの。はやいはなしが上野さんはむかしから年長男性が大好きなのだ。人はこれをファザコンと言う。しかし、〈ファザコンのフェミニスト〉というのは矛盾概念である。彼女はこの矛盾を抱えながら生きてこられたでしょう。



また、彼女は日本文学関係者に衝撃を与えた『男流文学論』(1992年)を他のふたりのフェミニストと共著でお出しになって、並みいる男性作家たちをバッサバッサとなで斬りにしたもの。もっとも気の毒だったのは昭和の文豪吉行淳之介さんで、あの本を境に吉行淳之介評価は一気に下落した、まるで1997年のタイバーツのように。ここにもまた上野千鶴子さんのいかにもファザコンフェミニストらしい男性への愛憎(相反感情)がかいま見えます。



人は誰しも、なんらかの矛盾を抱えて生きているもの。いま上野千鶴子さんに石を投げたくなる女性たちの気持ちは大いにわかるけれど、しかし、上野さんとて(ぼくらと同じような)ひとりの人間だったということですよ。ぼくはただ興味深くおもう、〈ファザコンのフェミニスト〉という彼女の生き方について。いま彼女もまたおひとりさまになったわけですが、しかし必ずやまた上野さんは素敵な彼氏を見つけられることでしょう。とはいえ、いまや彼女も75歳。彼女のファザコンファンタズムを満足させてくれる高齢男性は減る一方です。今後の彼女の恋愛から目が離せません。まったくもって俗っぽい、そして(ご本人にとっては)大きなお世話な好奇心ですけれど。




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