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現代は、どんな過去の思考の覇権争いによって出来ているだろう? そして未来は? そんなこ…

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現代は、どんな過去の思考の覇権争いによって出来ているだろう? そして未来は? そんなことを考えながら、飲み喰いしたり散歩したり、本を読んだり映画を観たり、音楽を聴いたりしています。 julliassuzzy.tokyo@gmail.com

記事一覧

空虚と愛。三島由紀夫が心を許せるのは才能と美貌を併せ持った女たちだけだった。

『彼女たちの三島由紀夫』(中央公論社刊 2020年)は、重要なムックで、三島は岸田今日子、高峰秀子、石井好子、越路吹雪、芳村真理らとくつろいで、おたがいいかにも愉快…

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31分前
3

ゲイなのにどうして女を愛そうとするの? 純情可憐な三島由紀夫。20代前半。

まず最初に、三島が育った環境が毒親オールスターズだったことからはじめましょう。三島由紀夫の祖父の平岡定太郎は貧農から官僚に成り上がったものの、あれこれの不正蓄財…

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23時間前
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え、嘘だろ? おれたちがきのうまで頼りにしてきた真実は虚構にされちゃったのか!?? 狼狽文学の系譜。

現実なんてものはつくづくあっけないもの。きのうまでの真実がある日忽然と虚構にされ、新しい真実が押しつけられる。しかし、人間はそんな激変にそうそう耐えられるもので…

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2日前
35

石田幹雄(p)さんの右手空手チョップ奏法。そして山田丈造(tp)さんのメロディの人間味あふれる懐深い雄大さ。

ぼくにとって石田幹雄さんは、いかにも〈作曲家の演奏〉をするピアニストであり、自作はもちろんのこと、ビリー・ストレイホーン、セロニアス・モンク、エリック・ドルフィ…

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2日前
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最高の自分解説者・三島由紀夫による自伝的小説『仮面の告白』は、しかし、三島と世間との齟齬のはじまりだった。

あなたはこのスキャンダラスな自伝的小説を半信半疑読み終えて、そしておもうでしょう、なるほど、『仮面の告白』というタイトルは、これしかないというほど的確なものであ…

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5日前
23

ディズニーランドの孤独な王子、三島由紀夫。

三島由紀夫をぼくは少し愛している。なぜって、文章を書く人ならば三島のフランス近代文学由来の美しく的確な修辞に魅了されない人は少ないでしょう。ただし、ぼくは三島が…

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7日前
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まるでヴェルヴェット・アンダーグラウンドが、ビーチボーイズのサーフィンUSAを演奏しているみたい♡ The Jesus And Mary Chai…

ナチュラルトーンのヴォーカルに、 オルタナな演奏。発明ですね! ギタリストはフィードバックノイズに虹の輝きの変化を見ていて。 バンド名が「イエスとマリアの鎖」、…

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10日前
19

唯一丸山明宏(現・美輪明宏)だけが、三島を理解していたかもしれない。

まず最初に、三島がいかに世間から理解されなかったかについてお話ししましょう。(三島さんは凄そうだけれど、どういう人だかわからない。天才ってことにしておこう。)っ…

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10日前
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三島由紀夫は、少女の心を持ちながらも、男にあこがれ、男のなかの男になろうとした。

三島に『サド侯爵夫人』(1965年)という戯曲がある。自決に先立つ5年前の作品である。三島は Marquis de Sade の、どこにどのように共感するのか? なぜ三島はこの作品…

jullias suzzy
13日前
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隠喩としての娼婦。マルグリット・デュラス『愛人 ラマン』

「十八歳でわたしは年老いた。だれでもそんなふうなのだろうか、たずねたことは一度もない。人生のもっとも若い時代、もっとも祝福された時代を生きているうちに、そのよう…

jullias suzzy
2週間前
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十字架に架けられるムルソ-、そして裁かれるカミュ 。『異邦人』書評

カミュとデュラスは同世代のフランス領植民地育ちである。カミュはフランス領アルジェリア生まれで 1913年 - 1960年 を生き、デュラスはフランス領インドシナ生まれで 1…

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2週間前
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ソヴィエト連邦崩壊前後のロシア人の精神的大混乱。ヴィクトル・ペレーヴィン著『チャパーエフと空虚』(群像社刊 2007年)書評

いまにしておもえば1985年からはじまったペレストロイカは、ソヴィエト連邦崩壊のプロローグであり、同時にロシアの二十世紀末におけるしっちゃかめっちゃかなどんちゃん騒…

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2週間前
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どうして移民排斥運動の象徴が『いつも愛してる』なの???

近年英国でもドイツでも移民排斥運動The Anti-Immigrant Movement が危険なほど盛り上がっていますね。ここではドイツの話をしましょう。 メルケル首相時代の2015年、ド…

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2週間前
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ガンマばあさんとぼく。

夏の朝の児童公園のベンチにぼくは座っている。ぼくはとっくに若くもない癖にヴィニールレザーのクロッシュ(帽子)をかぶり、耳が隠れる長さの猫っ毛を見せ、ネパールキル…

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2週間前
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デムナ・ヴァザリアはバレンシアガ就任後、数年間だけめちゃめちゃおもしろかった。

共産圏育ちの人にはどくとくのふんいきがある。質素、素朴、質実、そしてそんなかれらにとってのおしゃれは、西側諸国のおしゃれとはどこか違う。たとえば、いまさらながら…

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2週間前
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中国のなかのちいさなコリア、延辺。

メルケル前ドイツ首相の人生にぼくはおもいを馳せていた。そしてぼくはおもいだした、ドイツは1989年ベルリンの壁が壊され、東西ドイツは統一したけれど、他方、北朝鮮と韓…

jullias suzzy
2週間前
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空虚と愛。三島由紀夫が心を許せるのは才能と美貌を併せ持った女たちだけだった。

『彼女たちの三島由紀夫』(中央公論社刊 2020年)は、重要なムックで、三島は岸田今日子、高峰秀子、石井好子、越路吹雪、芳村真理らとくつろいで、おたがいいかにも愉快に会話を楽しんでいる。彼女たちもまた三島を新進気鋭の作家先生扱いなどしなくって、まるで同級生のしたしい男の子みたいに接し、それがまた三島をよろこばせる。 三島は相手が男だと敵愾心をむきだしにする癖に、しかし相手が美しい才女だと、とたんにくつろいで、いかにも純情可憐だ。なるほど、こういうゲイはいるもの。たとえば、ト

ゲイなのにどうして女を愛そうとするの? 純情可憐な三島由紀夫。20代前半。

まず最初に、三島が育った環境が毒親オールスターズだったことからはじめましょう。三島由紀夫の祖父の平岡定太郎は貧農から官僚に成り上がったものの、あれこれの不正蓄財によって失脚させられた人物である。すなわち、三島の一族にとって汚点のような人物である。 三島は。祖母であり平岡定太郎の妻なつ(夏~夏子)の越権によって支配欲の強いなつのもとで育てられた。なつは公威(三島)に女の子の服を着させ、童話を与え、女の子の友達をあてがって育てた。歌舞伎に連れてゆきもした。三島が母・倭文重(しず

え、嘘だろ? おれたちがきのうまで頼りにしてきた真実は虚構にされちゃったのか!?? 狼狽文学の系譜。

現実なんてものはつくづくあっけないもの。きのうまでの真実がある日忽然と虚構にされ、新しい真実が押しつけられる。しかし、人間はそんな激変にそうそう耐えられるものではない。 たとえば、戦前育ちの日本人は「鬼畜米英、神国日本、進め一億火の玉だ!」をスローガンに戦時下の恐怖のなかで防衛戦争を闘った。ところがアメリカに二発も原爆を落とされ、1945年夏、あえなく敗戦した。そのときこれまでの常識も灰になって、GHQによって導入された新しい「常識=民主主義」が大手を振ってまかりとおるよう

石田幹雄(p)さんの右手空手チョップ奏法。そして山田丈造(tp)さんのメロディの人間味あふれる懐深い雄大さ。

ぼくにとって石田幹雄さんは、いかにも〈作曲家の演奏〉をするピアニストであり、自作はもちろんのこと、ビリー・ストレイホーン、セロニアス・モンク、エリック・ドルフィーなどのスタンダードナンバーであっても、石田さんによるそれぞれの楽曲の構造が明快な演奏をなさる。また、石田さんのピアノソロがまたアドリブでありながら即興作曲的で、よくもあんなに息の長いメロディを集中力高く緻密に構成できるもの。 ゆうべぼくはいつもの女友達と石田幹雄さんと山田丈造さんのデュオを(世にもボロいが愛と感謝を

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最高の自分解説者・三島由紀夫による自伝的小説『仮面の告白』は、しかし、三島と世間との齟齬のはじまりだった。

あなたはこのスキャンダラスな自伝的小説を半信半疑読み終えて、そしておもうでしょう、なるほど、『仮面の告白』というタイトルは、これしかないというほど的確なものである。なぜって三島由紀夫はあらかじめ理解している、この小説を読み終わったあなたが抱く、(いったいどこまで真実なんだろう? もしかしたらこの作品はすべて事実で構成された大嘘ではないかしらん???)という疑惑を。だからこそ三島は先手を打って『仮面の告白』(1949年)とつけたのである。 三島以外にこんなにも明解に自分自身を

ディズニーランドの孤独な王子、三島由紀夫。

三島由紀夫をぼくは少し愛している。なぜって、文章を書く人ならば三島のフランス近代文学由来の美しく的確な修辞に魅了されない人は少ないでしょう。ただし、ぼくは三島が長篇で展開するストーリーにはまったくついてゆけない、どうして三島はこんなふうにへんてこりんに考えるかなぁ、と本を投げ捨ててしまう。 したがってぼくはけっして三島の正統的愛読者とはとうてい言えない。ぼくはただおもに自分が好きな三島作品だけをひたすら読み続けているだけだ。ぼくが好きな作品はおおむね短篇で『サーカス』(初稿

まるでヴェルヴェット・アンダーグラウンドが、ビーチボーイズのサーフィンUSAを演奏しているみたい♡ The Jesus And Mary Chain ”Never Understand”

ナチュラルトーンのヴォーカルに、 オルタナな演奏。発明ですね! ギタリストはフィードバックノイズに虹の輝きの変化を見ていて。 バンド名が「イエスとマリアの鎖」、よくもつけたもの、こんなとんでもないバンド名を。英国の田舎者の産地、スコットランドのバンドなんですね。スコットランドならば、どれだけ大きな音でノイズを出しても、文句を言うのは牛くらいでしょうからね。 この曲は1985年のリリースです。わが友、湘南の宇宙さんは言う、「フィードバックギターが全てをかき消すスタイルの開拓

唯一丸山明宏(現・美輪明宏)だけが、三島を理解していたかもしれない。

まず最初に、三島がいかに世間から理解されなかったかについてお話ししましょう。(三島さんは凄そうだけれど、どういう人だかわからない。天才ってことにしておこう。)っていうふうに、三島由紀夫はたくさんの人から(もしかしたら同時代のほぼ全員から)おもわれたことでしょう。なるほど、天才のカテゴリーに入れちゃえば、無駄にわかろうなんていう努力をする必要もない。時間の節約になる。他方、当の三島は(取り巻きこそたくさんいたにせよ)、けっきょく自分が誰からも理解されない孤独にさいなまれる。もち

三島由紀夫は、少女の心を持ちながらも、男にあこがれ、男のなかの男になろうとした。

三島に『サド侯爵夫人』(1965年)という戯曲がある。自決に先立つ5年前の作品である。三島は Marquis de Sade の、どこにどのように共感するのか? なぜ三島はこの作品でサドの妻ルネをかくも崇高な、サドへの共感に貫かれた炎のような女性として描いたのか? そしてこの作品は三島の自決となんらかの関係を持っているのだろうか? この戯曲はマルキ・ド・サド不在の舞台で、妻ルネ、ルネの母モントルイユ夫人を中心に、ルネの妹アンヌ、その他3人の女たちが、サドについての感想ー評価

隠喩としての娼婦。マルグリット・デュラス『愛人 ラマン』

「十八歳でわたしは年老いた。だれでもそんなふうなのだろうか、たずねたことは一度もない。人生のもっとも若い時代、もっとも祝福された時代を生きているうちに、そのように時間の圧力におそわれることがときにあるものだ、そんな話を聞いたおぼえがある。この老化は容赦なかった。老化が顔の線をひとつまたひとつ劫掠してゆき、顔だちのなかの関係を変化させ、眼は大きくなり、まなざしは悲しみをたたえ、口もとはきっぱりと変わりようのないものとなり、額に深い亀裂が刻まれるのを、わたしはみた。顔の老化がこの

十字架に架けられるムルソ-、そして裁かれるカミュ 。『異邦人』書評

カミュとデュラスは同世代のフランス領植民地育ちである。カミュはフランス領アルジェリア生まれで 1913年 - 1960年 を生き、デュラスはフランス領インドシナ生まれで 1914年 - 1996年を生きた。いずれも貧しさのなかから学問を身につけ、作家になった。デュラスの母は娘時代の彼女に、フランス的な果実として林檎を食べさせようとしたけれど、彼女はマンゴーに愛着を持ち、母が肉を食べさせようとしても、むしろニョクマムで味つけられた淡水魚を好み、同様にパンよりは米を好み、メコン河

ソヴィエト連邦崩壊前後のロシア人の精神的大混乱。ヴィクトル・ペレーヴィン著『チャパーエフと空虚』(群像社刊 2007年)書評

いまにしておもえば1985年からはじまったペレストロイカは、ソヴィエト連邦崩壊のプロローグであり、同時にロシアの二十世紀末におけるしっちゃかめっちゃかなどんちゃん騒ぎのはじまりでもあった。かの地の人びとにとってペレストロイカは、言論の自由が許され収容所に送られる恐怖はなくなったものの、しかし、他方で経済効果ははかばかしく上がらず、未来への希望を感じられない沈鬱をもたらした。そんな気が滅入るモスクワの街に、ロックンロールが、パンクが、ヒップホップが流れはじめ、若者たちはスケボー

どうして移民排斥運動の象徴が『いつも愛してる』なの???

近年英国でもドイツでも移民排斥運動The Anti-Immigrant Movement が危険なほど盛り上がっていますね。ここではドイツの話をしましょう。 メルケル首相時代の2015年、ドイツは「対立ではなく協力を!」をスローガンに移民受け入れを無制限におこなった。シリア、アフガニスタン、イラク、ハンガリー、近年はウクライナからの難民がドイツにあふれるようになった。メルケルは高らかに宣言した、「わたしたちは変わるのだ」。メルケルは、ナチスドイツ時代のユダヤ人大虐殺によって

ガンマばあさんとぼく。

夏の朝の児童公園のベンチにぼくは座っている。ぼくはとっくに若くもない癖にヴィニールレザーのクロッシュ(帽子)をかぶり、耳が隠れる長さの猫っ毛を見せ、ネパールキルトのシャツを着て、黒ずんだステンレスのネックレスをふたつつけ、右手首には紡錘形のネパール石をつけたブレスレットを巻いて、ボードレールの『パリの憂鬱』を岩波文庫版で読んでいる。 前方では、ぼくがひそかにガンマばあさんと呼んでいるおばあさんが白Tシャツに黒のジャージーにスニーカーで、ジャングルジムを使って体を伸ばしている

デムナ・ヴァザリアはバレンシアガ就任後、数年間だけめちゃめちゃおもしろかった。

共産圏育ちの人にはどくとくのふんいきがある。質素、素朴、質実、そしてそんなかれらにとってのおしゃれは、西側諸国のおしゃれとはどこか違う。たとえば、いまさらながらぼくは、元ドイツ首相のアンゲラ・メルケルさんに興味を持って、彼女についての本をあれこれ読んでいて。メルケルさんの顔立ちは『ムーミン』のミーをおもわせもすれば、髪型もコドモの頃からいまに至るまで一貫しておかっぱで、彼女の服の着こなしも共産圏っぽい。 バレンシアガのデザイナー、デムナ・ヴァザリア Demna Gvasal

中国のなかのちいさなコリア、延辺。

メルケル前ドイツ首相の人生にぼくはおもいを馳せていた。そしてぼくはおもいだした、ドイツは1989年ベルリンの壁が壊され、東西ドイツは統一したけれど、他方、北朝鮮と韓国は分断されたままであることを。そしてぼくは旧満州、吉林省の延辺のことをおもいだした。 旧満洲(東北三省)のなかのひとつ吉林省、その省都は長春、かつての満洲国時代には新京と呼ばれていた。省全体に、漢人、満洲人、朝鮮族、モンゴル人など多民族が暮らしています。 延吉市には延辺朝鮮族自治区がある。延辺朝鮮族自治区には