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【1話:スターバックス@恵比寿の恋】

1話 : タカイさんとフワさん    0.5話は→こちら

「今日は冷えますね」その彼が黒い川の手袋を徐に外しながら言う。

「はい、もう足先さんか氷のようです笑」

「何、飲まれます?」

「この寒さだし、思いっきり体が温まりそうなものと思って、キャラメルスチーマーが呑みたいと思ってこのお店入ること決めたんです」

「キャラメルスチーマー?」

「子供っぽいですよね笑」

「いや、知らないメニューだなと思って。よし私もそれにしてみますね」

会計の順番が彼に回って来た。

「キャラメルスチーマー2つ、グランデで」

「えっ!あっ、そんな私自分で買いますよ!」

「良いですよ。スタバで1杯ぐらい。これも何かの縁です」

優しすぎると言えば良いだろうか、凛とした空気感とその甘すぎないクールな笑顔で「何かの縁」なんて言われたら何も言えなくなってしまった。彼の笑顔はまるで人をとろけさせるかのような笑顔だった。

「先、好きなところ座っててください。受け取っていきますので」

「あ、はい。ありがとうございます」

スターバックス恵比寿ファーストスクエア店はmax2人がけがちょうど良い小ぶりの正六角形のハイテーブルとハイスツールが配置されている作りの店内だ。小さなアイランドがいくつも点在しているような作り。

私は彼と座る妙な高揚感と緊張感を必死に抑えつつ、席選びに悩んだ。

店内にはまだ私と彼しかいないこと、彼との会話を店員さんに聞かれたら(いや、彼らは忙しいからそんな聞き耳なんて立てる暇ないことはわかっているが)と言う心配から、カウンターから一番遠い、窓側にぴったりとつける形で設置されている席を選んだ。

「はい、どうぞ。テイクアウトじゃないから、コップにしてもらったけど」

「あ、はい、ありがとうございます。なんだかすみません、入口教えてもらったお礼に私が本当は御馳走するべきなのに」

「何そのお礼(笑) 入口教えたお礼なんて初めて聞いたよ(笑)」

彼が目尻を下げながらクスクスと笑う。私は顔を真っ赤に(多分なっているはず)しながら、笑った。

「よくこの店には来られるんですか?」彼が言う。

「あ、実は初めてで。オフィスは近いんですけど、なぜか今まで入ったことはなくて」

「へぇ。やっぱり縁ですね。あなたが初めて入った日に私が居合わせたとは」

彼が「縁」と言う言葉を使うたびに、私は思わず「特別な縁」を期待する考えを頭のすみに押しやることに精一杯だった。

「でも早いですね、この時間にいつも出勤を?」

「いえ、今日は偶然で。アメリカとこの後電話会議があるんですけど、共有する資料が一部まだできていなかったのでそれを会社で仕上げようかと」

「あ、もしかしてテイクアウトのつもりだった?」

「いえ!ここで作業しようと思って立ち寄ったので大丈夫です」

「じゃぁ、私と無駄話してる場合じゃないね、お仕事しないと」

「無駄話だなんてそんな!あなた…あ、なんとお呼びしたら?」

「あぁ、お互い名前言ってなかったですね」

彼が少し考える仕草をして

「どうです、呼び名を本名じゃなくて何か2人で考えたニックネームで呼び合うのは?」


意外な提案に拍子抜けした。ニックネーム!?

「あっ、構いませんけど」

「じゃぁわかりやすく、私は見ての通り背が高いのでタカイさん、普通に発音すると人の名前に聞こえるから、イントネーションは”背が高い”と言うときのイントネーションで。笑。で、あなたのは何がいいかな」

「タカイさんだから、対照的にヒクイさんはどうですか?」

(なんのひねりもセンスもない返ししちゃったなぁ)

「ヒクイはなんだか響きが美しくない気がしますね。そうだな、ふんわりした雰囲気をしてらっしゃるので、「フワ」さんでどうでしょう?」

「はい、良いです!嬉しいです、ふんわりした雰囲気だなんて」

「よかった」

「じゃぁ、フワさんは資料作りに専念したほうがいいよね、私はこっちのテーブルに移動するね」

そう言ってタカイさんは席を移動した。

湯気の向こうのタカイさんの背中はカッチリと程よい厚さの背中だった。

私はゆっくりとmacを広げた。




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