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【感想】村上春樹『羊をめぐる冒険』

羊をめぐる冒険は、羊3部作の最終作です。

この物語には主人公の妻と、耳の形が素敵なガールフレンド、そして『鼠』が出てきます。

主人公の『僕』が妻と別れてガールフレンドと過ごしているときに、ガールフレンドが突飛なことをいいます。

『あと10分ばかりで大事な電話がかかってくるわよ』

かかってきた電話は、羊に関するものです。
そこから主人公の『僕』とガールフレンドでその特別な羊を北海道へ探しに行くことになります。

村上春樹の作品では活字からビジュアルに訴えかけてくる描写が多いのですが、この電話の会話はまるで声が聞こえてくる様な繊細な描写でとても印象的でした。

この主人公の『僕』は、羊という偶像をガールフレンドと探す過程で、実際は自分探しをしているのではないかと思います。

もっと深く掘り下げると、自分探しというよりは人間の汚い部分や醜さを認めながら自分の弱さや脆さを受け止めて、自分を肯定して生きていく。。。

そう言ったことがテーマだと思います。

人間は一人ぼっちであることや、それなのに一人では何もできない生き物だということを感じ、受け止めて、肯定的に生きていく。

『羊をめぐる冒険』では、そういう非常に感覚的で繊細なところを主人公の『僕』の想いを通じて読める本だと思います。


もう一つこの物語で感じるのは、無意識の世界です。


主人公の『僕』はもちろん現在の『僕』であり意識のある『僕』なのですが、『鼠』という存在は僕の一部であり無意識の『僕』なのだと思います。そして『羊男』もまた『僕』の一部なのでしょう。

誰しも自分の心の中で自分と会話することがあります。

そういうプロセスを村上春樹は偶像化した『鼠』と『羊男』という存在として登場させているのではないでしょうか。

決して多重人格の様なものではなく、あくまでも無意識の意識化を測っているという解釈です。

羊をめぐる冒険からは『虚無感』や『喪失感』を強く感じますが、それ以上に無意識の世界の偶像化という切り口を切り拓いた作品だと感じました。


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