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書記の読書記録まとめ

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今までに読んだ本についてのレビュー。 ブクログ:https://booklog.jp/users/9512a62a15b04973
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2021年4月の記事一覧

書記の読書記録#152「エウリピデス悲劇全集〈1〉」

訳:丹下和彦「エウリピデス悲劇全集〈1〉」のレビュー レビューエウリピデス(Εὐριπίδης ,紀元前480年頃 - 紀元前406年頃)は,古代アテナイのギリシア悲劇における三大悲劇詩人の1人である。 「メデイア」は,ギリシア神話に登場するコルキス王女メディアの晩年におこったとされるコリントスでの逸話を元にしている。内容としては,夫イアソンの不貞に怒り,復讐を果たして去っていくということであるが,その手段として子供殺しを選ぶ点が特徴的だろう。 イアソンの弁明は,当時か

書記の読書記録#151「実践東洋医学 第1巻 診断篇」

三浦 於菟「実践東洋医学 第1巻 診断篇」のレビューと読書記録 レビュー一般書も数多く手がけている日本東洋医学会専門医による,東洋医学の標準的なテキスト全3巻。 見た目で厳つく見えるかもしれないが,内容は易しい方である。東洋医学を勉強したいが,どの教科書で勉強すべきかわからない場合は,本シリーズをまとめ買いするのがいいと思う。 第1巻は,総論と診断方法,主要症状の診断として全身症状,疼痛症状,月経症状を扱っている。 読書記録# 1p3〜126 ・歴史的特徴,考え方・儒

書記の読書記録#150「花芯」

瀬戸内晴美「花芯」のレビュー 「戦後文学の現在形」収録作品。 レビュー表題作『花芯』は1958年の作品,1957年に「女子大生・曲愛玲」で新潮同人雑誌賞を受賞した後の第1作で,ポルノ小説であるとの批判にさらされ,批評家より「子宮作家」とレッテルを貼られ,しばらく干されていたのだという。 直接的な性愛描写を,隠すことを美徳としてきた(一部の)世間に対する,堂々たる反抗と読んだ。家庭というのは女性にとっては大きな制約なのであって,作者の裏表のない讃歌によって,子宮は自由へと

書記の読書記録#149「化学反応論―分子の変化と機能」

安池智一「化学反応論―分子の変化と機能」のレビューと読書記録 レビュー放送大学のテキストで,内容としては化学熱力学や速度論,電気化学などの物理化学がメイン。有機化学や無機化学についても概略が示されている。化学反応について一通り俯瞰できる良書。 読書記録# 1p3〜93 ・火の利用,土器の作成,金属の錬成・四元素説,錬金術,仮説演繹法・反応熱・反応エンタルピー,ヘスの法則・熱平衡・化学ポテンシャル・ルシャトリエの原理・アレニウスの式・遷移状態,活性化エネルギー・自由エネルギ

書記の読書記録#148「ギリシア悲劇―人間の深奥を見る」

丹下 和彦「ギリシア悲劇―人間の深奥を見る」のレビューと読書記録 レビュー取り上げられる作品 ・アイスキュロス:「ペルシア人」,「オレステイア」三部作 ・ソポクレス:「アンティゴネ」,「オイディプス王」 ・エウリピデス:「メデイア」,「ヘレネ」,「キュクロプス」,「オレステス」,「バッコスの信女」 知を愛し探求しようとする者が必ず通る道といっても過言ではない,ギリシア悲劇。本書はそのいくつかを解説するもので,劇からみる人間性について考えさせられる。 読書記録# 1

書記の読書記録#147「光学」(ニュートン)

ニュートン「光学」のレビューと読書記録 レビューアイザック・ニュートンの主著のひとつで,光学研究の著作。1704年刊。 主な論証は「プリズムを用いた太陽の白色光の複合性」についてで,光学というよりかは色彩理論の先駆けとして重要である。後世への影響は大きく,中でもゲーテの色彩論との違いは現代でも意味を持っている。当時の実験科学についても窺い知ることができる。 解説よりメモ: ・デカルト,ボイル,フックなどの影響・プリズムを用いた太陽の白色光の複合性確立・光の変改説に対抗す

書記の読書記録#146「有機分子の分子間力: Ab initio 分子軌道法による分子間相互作用エネルギーの解析」

都築 誠二「有機分子の分子間力: Ab initio 分子軌道法による分子間相互作用エネルギーの解析」のレビューと読書記録 レビューAb initio 分子軌道法を用いた分子間力,分子間相互作用エネルギーの計算方法に関する教科書。分子間力の作用機序から説明を始めるので,実験で必要になった人にもとっつきやすいと思う。基底関数系や電子相関の補正による影響についての説明は役に立つ。 読書記録# 1p1〜57 ・分子間力:静電力(双極子,四重極子),誘起力,分散力,交換反発力,電

書記の読書記録#145「今日から使えるフーリエ変換 普及版」

三谷政昭「今日から使えるフーリエ変換 普及版」のレビューと読書記録 レビュー第4章か第5章かを境に全く違う本になっていて,無理矢理くっつけた感がすごい。目標の統一感がまるでないので入門書としては不適だと思う。読む気を無くして飛ばしてしまったが,後半の具体例は一応参考程度にメモをしておいた。 読書記録p3〜330 ・フーリエ変換と逆フーリエ変換・信号処理,信号の波形・アナログとデジタル・デジタルフーリエ変換を簡素化・周波数スペクトル・必要な数学:複素数,極座標,三角関数,交

書記の読書記録#144「新版 有機反応のしくみと考え方」

東郷秀雄「新版 有機反応のしくみと考え方」のレビューと読書記録 レビュー有機化学の反応を考えるのに必要な知識がまとまった本で,レベル感としてはボルハルト・ショアーと同じくらいだと思う,その副読本として用いると良いだろう。本書では,特に立体化学についての言及が多い。 読書記録# 1p1〜128 ・原子軌道,電子配置(Pauliの排他則,Hund則)・オクテット則・混成軌道・回転エネルギー,1,3-ジアキシアル相互作用・電子の偏り:誘起効果,共鳴効果,超共役効果・Markov

書記の読書記録#143「はじめての数論 原著第3版 発見と証明の大航海‐ピタゴラスの定理から楕円曲線まで」

Joseph H. Silverman(訳:鈴木治郎)「はじめての数論 原著第3版 発見と証明の大航海‐ピタゴラスの定理から楕円曲線まで」のレビューと読書記録 レビューー主な話題 ・ピタゴラス数 ・合同式 ・素数の判定法 ・平方剰余 ・ペル方程式 ・楕円曲線 本書で要求される事前知識は高校数学までで,ピタゴラス数に始まり暗号理論の背景である楕円曲線まで一気に解説される。本格的に数論を学ぶための準備として使えると思う。 読書記録# 1p1〜52 ・既約ピタゴラス数の定理,

書記の読書記録#142「エラスムス=トマス・モア往復書簡」

訳:沓掛良彦・高田康成「エラスムス=トマス・モア往復書簡」のレビューと読書記録 レビューエラスムスは「痴愚神礼讃」,トマス・モアは「ユートピア」の筆者,北方ルネサンスの二大巨頭として有名である。往復書簡では,著作では見られないような,生活事情やしょうもない愚痴が書かれており,著作を知る上での参考にもなる。 読書記録# 1p15〜52 ・エラスムスとチューダー朝を代表する人文主義者との出会い・「痴愚神礼讃」の成立の動機・ギリシア文学に対する嗜好・外交官として活躍するモア・「

書記の読書記録#141「恍惚の人」

有吉佐和子「恍惚の人」のレビュー 「戦後文学の現在形」紹介本 レビュー 1972年に新潮社から「純文学書き下ろし特別作品」として出版され,1973年には森繁久彌主演で映画化された作品。 とあるが,とてもそんな枠には収まらないような気性の荒い,純文学から離れた作風だと思う。当時の文壇がどう評価したかが気になるところだが,難儀であったことは想像にかたくない。しかし人々の共感を得るには十分すぎるもので,やがてベストセラーとなったようだ。 問題意識を投げかけるという点では確か

書記の読書記録#140「ローマ帝国衰亡史 9」

E.ギボン(訳:中野好之)「ローマ帝国衰亡史 9」のレビューと読書記録 レビュー聖地イスラエルのイスラム教からの奪還を目標にした,十字軍の時代。西欧諸国の進撃が止まらない。 読書記録# 1p11〜119 ・ギリシア人,サラセン人,フランク人・イタリアのギリシア植民地・ナポリとシチリアのノルマン人・ロベールによるイタリア征服・コムネヌス朝・ドゥラッツォの戦闘・ハインリヒ3世とアレクシウス帝の同盟・ロジェールのアフリカ征服・マヌエル帝・ハインリヒ6世のシチリア王国征服・マフム

書記の読書記録#139「痴愚神礼讃 - ラテン語原典訳」

エラスムス(訳:沓掛良彦)「痴愚神礼讃 - ラテン語原典訳」のレビュー レビューこの逆説に満ちた口の悪さがクセになる,この手の作品に対してはどうしても高評価を与えたくなる。口の悪さは痴愚女神のキャラクター付けに寄与しているのだが,相手がキリスト教となると作者の素が漏れている印象を受ける。最後までキャラクターを崩さないで欲しいところだったがしょうがない。内容としてはキリスト教(あるいは教徒)の境界線に鋭く触れており,神学を考える上で重要性が高い。 言葉による変革を望んだ結果