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書記の読書記録#141「恍惚の人」

有吉佐和子「恍惚の人」のレビュー


「戦後文学の現在形」紹介本


レビュー

1972年に新潮社から「純文学書き下ろし特別作品」として出版され,1973年には森繁久彌主演で映画化された作品。

とあるが,とてもそんな枠には収まらないような気性の荒い,純文学から離れた作風だと思う。当時の文壇がどう評価したかが気になるところだが,難儀であったことは想像にかたくない。しかし人々の共感を得るには十分すぎるもので,やがてベストセラーとなったようだ。

問題意識を投げかけるという点では確かに成功している。戦後と高齢社会の狭間の風景が読み取れる。

しかし痴呆(認知症)を文学に落とし込んだにしては,それに対する書き込みが安易である印象を受ける。老いて幸せかをという問いには実は答えられていない。むしろ重点的に書かれているのは周辺の人々の反応であり(最も秀逸なのは孫の敏の少数のセリフ),肝心の当人に対しては「恍惚の人」と一括りにして誤魔化しているともとれる。

「華岡青洲の妻」と似たような,女性の使命感,がはっきり見られる作品である。美徳ととる読者も少なくないだろうが,まさにその風潮が社会の病巣なのであり,現代社会では批判的な捉えるべきものだろう。


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