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レトリック・カノン①:発想

はじめに

2019年4月、経済産業省が公開した資料(IT人材需給に関する調査)によれば、2030年に約59万人のデジタル人材不足になるという。

上記からポイントだけ抜粋すると、2018年を目処にデジタル人材の供給は年々下がる一方で、その反面、IT・DX関連市場は拡大していく見通しとなっている。

2030年のデジタル人材不足(中位シナリオの場合)

以前、どこかのnoteで書いたが、ここでいうデジタル人材は、ただデザインをしたり、仕様通りのプログラムを書いたりする人のことではない。

DX人材5類型(経済産業省)

上の表にあるように、求められる人材に共通するのは、自分で問いを設定し、解決策を導くスキルだ。振り返れば、こうしたスキルを学ぶ機会はほとんどない。むしろ、これとは反対の、

・誰かに与えられた問題を
・いかに効率的に
・ミスなく正答するか

こんな教育を受けて大のおとなになっていく。
問題意識の持ち方、物事の多面的な捉え方、そして、与えられた条件下でどのように解決へと導くか?

これらはすべて、思考の話だ。
このような正解がないテーマを扱う場合、レトリック・カノンは役に立つ。

レトリック・カノンの第1段階は、発想(もしくは発明、Invention)と呼ばれる。

それは、”自分がある主張を持って、何を達成するのが目的なのかを構想すること”に他ならない。

つまり、話すべきアイデアを見つけ出すプロセスであり、発想から生まれたものが、以降、自分が論じる骨格・土台となって展開されていく。

このnoteでは、レトリック・カノンの発想について、大切なポイントを可視化し、できるだけ身近なものと感じられるように務める。


①トピックを選定する

トピックを選定するときに思い出してほしい図式

まず最初にトピック(Topic)を選定する。
(トピックは、これから自分が話す話題のこと)

トピックを決めるとき、大切なことを1枚の絵にまとめてみた。
上の図を眺めながら、以降の話を読みすすめてほしい。

トピックの選定はとても大切だ。しかし、大抵の場合、次の3つのうちいずれかが練られていないため、受け手に刺さる内容とはならない。

ユーザー(受け手)が惹かれるテーマか?

これから話題にする内容が、受け手のニーズにあったものか。
それは、興味の惹かれる内容なのか?

受け手が欲していること、知りたいと思っていることなど、そもそも関心を持っているものでないと、トピックの設定としては間違っている。

自分の熱意は十分か?

次に、その話題について、自分自身を振り返る。
それは、他の誰も真似できないぐらいの熱量を持って語れるかどうか。

このトピックを土台として、構成、表現、場面設定と次々進行していく前に、必ず振り返ること。自分が誰よりも熱く語れるものでないと、人の心を動かすことは不可能だ。

この情熱というものについて、僕は次のIDEOの解釈がしっくりと馴染む。

インスピレーションを得られずに困っている人へ。
人をひきつけるのは、意欲かきたてられるような技術的な仕事かもしれない。
あるいは、社会に建設的な衝撃を与える何かかもしれない。
しかし、自分のプロジェクトやチームの社会への貢献がマスコミに称賛される必要はない。競争相手を感服させたり、仕事に誇りを感じてパーティで話題にしたりすることができれば、それはホットなものなのだ。
クリエイティブなチームにやる気を起こさせるものはなんだろうか?
情熱は大きな役割をはたす

THE ART OF INNOVATION「発想する会社」(トム・ケリー&ジョナサン・リットマン)

背景となる事実/データはあるか

最後に、その話題に関して、明らかとなっている事実はあるか。
情報源はとても大切であり、自分で1次情報を解釈し、話題に客観性を持たせなければならない。

自分だけの勝手な思い込みや、SNSから拝借してきた出処不明の2次、3次情報を根拠としている場合、そのトピックは語るに足りない。

トピックの背景や論拠となる事実を示すこと、これはビジネスの世界だけでなく、どんな場面でも大切だ。


②問いを立てる

問いを立てるときに思い出してほしい図式

さて、3つの要点をクリアしたトピックが設定できたら、次に問いを立ててみる。
問いとは、そのトピックについて、自分がどの角度から何を見ようとしているか。そして、おぼろげながら掴み取れたものを、どのように解釈し、どんな言葉で定義するかである。

問いとは注意であり、洞察すること

アメリカの数学者ジョージ・ポリアは、著書「いかにして問題をとくか」の中で、この問いというものについて論じている。彼の言葉を借りると「問いとは注意」そのものである。

手当たり次第に物事を進める前に、トピックに対して、自分が問いたいものが何であるか注意深く見極めなければならない。
(※いかにして問題をとくかについては、上記のnoteを参照ください。)

アイデアを練る

問いが設定できたら、それを解決する or 改善へと導くアイデアを練る。
デザイン思考の言葉を借りると、アイディエーションが該当する。
ここでは、できるだけ多くのアイデアを生成できるように努め、多少逸脱した考えであっても捨ててはならない。

幅広く、あらゆる方向から、その可能性を探索するのが定石であり、問いに対しては繰り返しのアプローチが必要不可欠だ。

アイデアの生成については、多くのフレームワークが作られている。その代表的なものについて、ニューロマジックさんが紹介しているのでリンクを張っておく。


③主張をもとに何を達成するか

主張から何を達成するか?のときに思い出してほしい図式

最後に、これまで組み立ててきた情報に基づいて主張(テーゼ)を形成する。
上の図に示すように、①と②の設定が確かなものであれば、その主張は次の前提を含んだものになっている。

・そのトピックは相手の関心が深い
・誰よりも熱意を持って語れる内容である
・論拠となる得る1次情報で後押しされている
・オリジナルの問いが設定されている
・絞り込まれたアイデアが生成されている

トピックと問いが確かな状態

主張は、以降の工程で精錬していく中心となるものだ。

この主張を使って、自分は何を達成したいのか?
受け手を説得したいのか。
自分を売り込みたいのか。
まずは情報提供だけでよいのか。

受け手に対し、自分が求めるもの=目的を見定めることが大切だ。

ここまで進めると、①、②、③の3つの流れで、トピック、問い、主張が設定できているはずだ。可視化してきたスライドを順番に振り返ってみる。

この工程で大切なこと

トピックを選定する
問いを設定し、アイデアを練る
主張から何を達成するか明確にする

次のnoteでは、レトリック・カノン第2段階として、配置(文章構成)についてまとめようと思う。

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