国家間から恋人まで破局に導く 「ナイーブ・シニシズム」
ナイーブ・シニシズム(Naive cynicism)
ナイーブ・シニシズム(Naive cynicism)とは、
自分より相手の方が自己中心的だと考える傾向
です。「ナイーブ」とは、日本語で使われる「神経質な」というニュアンスの意味ではなく、元来持っていると「バカ正直な」という意味の言葉です。「批判せずにそのままそう考えてしまう」という意味で使われれています。この言葉は、ジャスティン・クルーガー(Justin Kruger)とトーマス・ギロヴィッチ(Thomas Gilovich)によって提案されました。交渉、グループ、結婚、経済、政策などの文脈でに見られる認知バイアスです。
ナイーブ・シニシズムのフローチャート
By Andj00 - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=45455837
このフローチャートが、「ナイーブ・シニシズム」を説明しています。まず
(1)わたしには偏見がない。
と人は考えます。これは「バイアスの盲点 (Bias blind spot)」でもあります。
↓
(2)わたしと意見が合わないということは、あなたには偏見がある。
と考えます。人は辻褄を合わせようとします。これは認知的不協和理論によりますが、認知的不協和を解消したくなるためです。
↓
(3)あなたの行動・思考は、自己中心さを反映している
アメリカはロシアを自己中心的だと考えていた
冷戦時代のロシアのSALT条約に対するアメリカの反応は、歴史上のナイーブ・シニシズムの有名な例の一つ。アメリカを代表して交渉していた政治家たちは、ロシア側から提案されたという理由だけで、その申し出を信用しませんでした。元米国下院議員のフロイド・スペンスは、次のように述べています。
「ロシア人は、自分たちの利益にならないSALT条約は受け入れないだろうし、もし彼らの利益になるなら、我々の利益になるはずがないと思える」
恋人たちを破局に導く?
「基本的に私の方がいつも相手に合わせている」
「彼氏(彼女)は、いつもわたしより自由にしている」
「ケンカになったときも仲直りのための努力しているのは、わたしのほうだ」
思い当たる考えですが、これはもしかしたら、あなたのナイーブ・シニシズムの現れかもしれません。ナイーブ・シニシズムは、相手への正当な評価をする機会を失い、その結果、信頼感をうまく形成できなくなる弊害を持っています。仲良くやっていける可能性をこうして自ら減らしてしまうことがあるようです。
相手のナイーブ・シニシズムの見つけ方
過去の恋愛について質問すると相手のナイーブ・シニシズムが見極められます(※3)。どんな恋愛をしていたかを尋ねて、別れた相手についてこんな表現をするなら、その人は、ナイーブ・シニシズムの傾向が強いでしょう。
「相手のわがままに付き合いきれなくなってさ、我慢しきれずに別れちゃった」
「わたしは、頑張って耐えていたんだけど……」
対策・応用
相手の横に立つ
相手を対立する存在ではなく、ともにゴールを目指す協力者だと捉えると、このナイーブ・シニシズムが減ることがわかっています。夫婦の場合、ゴールを共有することでナイーブ・シニシズムおよび破局の可能性が減ることでしょう。交渉の場面でも同じ効果が期待できます。
関連した認知バイアス
•バイアスの盲点(Bias blind spot)
自分にはバイアスが少ないと考えるバイアス。
•ナイーブ・リアリズム(Naive realism)
自分は、周りの世界を客観的に見ているが、自分と意見が合わない人は情報が少なく、非合理的で、偏っているに違いないと考える傾向
認知バイアス
認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。
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参照
※2:Ross, Lee; Stillinger, Constance (1991). "Barriers to Conflict Resolution"
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