人間は無意識にサボってしまい、それに気づかない 「置換バイアス」

問題です

次の問題にあまり深く考えずに答えてください。

バットとボールを合わせると1.10ドルです。バットの方がボールより1ドル高い。ボールはいくらですか?

いくらと答えましたか? わたしはボールは10セントと答えてしまいました。みなさんもそうだったら嬉しい(笑)。これは間違いです。ちょっと「ちゃんと」計算してみましょう。

ボールをxとします。
バット=ボール(x)+1ドル
合計=バット(x + 1ドル)+ ボール(x)
  =2x + 1ドル=1.1ドル
x=5セント
答え:ボールは5セント

この計算をせずに、わたしたちは、直感的に1.1ドルから1ドルを引いてボールを10セントという答えをだしがちです。この「ざっと計算したことにしてしまう」という行為を置換バイアスといいます。

置換バイアス

置換バイアス(substitution bias)[№7]とは

計算が複雑な属性を判断しなければならないときに、より計算しやすいヒューリスティックな属性で代用してしまうこと

属性置換(Attribute substitution)とも呼ばれています。多くの認知バイアスや知覚的錯覚の背景にあると考えられている心理的プロセスです。人は、難しい質問に答えようとすると、置換が行われたことに気づかずに、関連するが異なる質問に答えてしまうことがあります。これは、個人が自分のバイアスに気づかない理由です。

人は一生懸命考えることに慣れていない

ノーベル経済学生受賞者のダニエル・カーネマン曰く

“人は一生懸命考えることに慣れておらず、頭に浮かんだもっともらしい判断を信じることに満足していることが多い”

とのこと。専門用語になってしまいますが、カーネマンが説く利用可能性ヒューリスティックス(後述)代表性ヒューリスティックス(後述)によって、この属性置換が説明できるとのこと。

ダニエル・カーネマン(Daniel KahnemanSource: TED「ダニエル・カーネマン:経験と記憶の謎」

どちらの保険に多く払いますか?

ヨーロッパ旅行中にテロで死亡した場合の保険」と「旅行中のあらゆる種類の死亡をカバーする保険」を提案された場合とどちらにどのくらいの保険料を支払いますか

この質問に「ヨーロッパ旅行中にテロで死亡した場合の保険」を提案されたほうのグループのほうが、「あらゆる種類の死亡をカバーする保険」より多くの金額を支払うという回答が多くありました。恐怖が旅行の総合的なリスクの計算に置き換えられているため置換バイアスが発生しているためです。あらゆる種類の死亡には、もちろんテロによる死亡も含まれるのにも関わらず。

対策・応用

直感を信じない

このバイアスは、カーネマンらが言うところの「システム1」と呼ばれる素早い思考(直感)が起こすものです。これを避けるには、「システム2(遅い思考)」が頑張る必要があります。すべての置換バイアスを避ける必要はないでしょう。避けたほうが良い置換バイアスを発見したら、以降その置換バイアスを避けるために習慣を形成するのが、置換バイアスへの対策となります。この姿勢や学習を(上向きの)反事実的思考とも言います。

認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、わたしの「認知バイアス一覧」にまとめていきます。



関連した認知バイアス

•最小努力の法則
ある目標を達成するのに複数の方法が存在する場合、人間は最終的に最も少ない努力で済む方法を選択するというもの


•利用可能性ヒューリスティック(Availability heuristic)

認識、理解、決定の際に、思い出しやすい情報だけに基づいて判断する傾向。


•代表性ヒューリスティック(Representativeness heuristic)
あるものの代表的な特徴と合致しているならば、それに近いだろうと直感的に判断すること


参照

※1:Attribute substitution

※2:認知バイアス一覧で社会心理学入門


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