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心に《Title 》を入力してください。

「あ。」
と車の中で声を上げたら、みんなが振り向いた。
「どうしたの?」
「ちょっと見たいものが見えただけ」
「ふうん」

車の中から私が見たものは、
きっとみんなには伝わらない。
うまく伝えられない。
だから私だけの発見を、
そっと心にしまい込んだ。

《Title》を見たのだ。
それは小さな本屋だ。
しぶい青色の中に浮かんだ
《Title》というアルファベットに
視線が吸い寄せられたのは、
偶然の幸運。
だって車は瞬間的に走り去るもの。
たまたまそちらへ目をやらなければ、
決して気づきはしなかったはずだ。


だいぶ前のことだけれど、
本屋《Title》の店主である
辻山良雄さんのエッセイを読んだ。
綺麗な文章と深い言葉が、
ゆっくりと私の底に沈殿していった。
きちんと考えて、
少しずつちゃんと
成し遂げてきた人の言葉だと思った。
私もこういう文章で伝えられたらいいのに、
と、少し嫉妬した。
何も成し遂げていない私に書けるはずもないと、
わかってはいたけれど。

例えば木下龍也さんなど、
ものを書く方々がイベントをしたりする。
私の街にはない類いの本屋。



街から小さな本屋がなくなってゆく。
更地になってはじめて愕然とする。
申し訳ないような切なさが胸に広がる。

昔近所にあった個人本屋の年老いた店主は、
私がシリーズものの第三巻だけを注文したら、
全巻取り寄せて置いてくれていた。
「その後の巻もあったらいいでしょ?」
と。
本当のことを言うと私は三巻以外は
すでに持っていたのだった。
この「人の良さ」が仇になったのか、
店は程なく時代の波にのまれて消えてしまった。

実際に店に足を運んで、
棚に眠る本たちを起こしてゆくことが
店を生かすのだと思う。
ならば足を運びたくなる本屋とは、
どんなものだろう。
目的の本を探しに行くわけでもないのに、
そこに行けば何かしらの
未知なる出会いがありそうだと
予感させる場所。

《Title》は、
他の店とはちょっと違う雰囲気があるようだ。
あの文章を書く店主がこだわった選書が、
特別たらしめている。
(1階は本屋とカフェ。
2階はギャラリーとなっている)
並ぶ本たちがとにかくすごく面白そうなのだ。
時々開催されるイベントも、
「いいところ」を突いてくる。


あなたの感覚に合いそうなもの、
ここにあるかもよ。


光る本棚に吸い寄せられて、
私もそんな風に本屋に呼ばれたいのだ。


文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。