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りんごのはなし。

赤いりんごを両手で包むと
冬の蝋燭みたいに輝いた。
つややかで、するするとしたりんごの肌。
このつやは、
りんご自身がまとう天然のワックス。


赤いりんご、とひとくちにいっても
個性はばらばらだ。
大きくて華やかなジョナゴールド、
女の子のほっぺみたいなふじ。
紅玉や秋映、シナノスイート、つがる、
名前も見た目も様々な赤いりんごたちが
私を迷わせる。
どれにしようか。



子供の頃
冬になると親戚から
箱いっぱいのりんごが送られてきた。
近所にお裾分けしても
まだまだあった。
おがくずの中に埋もれたりんごを取り出して
台所に持っていくと、
母がうさぎの形に皮をむいてくれた。
雪の降る日は
家族みんなでおおきな雪だるまを作り、
りんごを目のかわりにした。
冬のりんごを見ると
子供時代の雪遊びや食卓、暮らしを思い出す。

思い出の中の懐かしい味は
なぜか美味しい記憶になっている。
もしかしたら
酸っぱいりんごだったのかもしれないけれど、
あれが一番美味しかった、なんて
思うのだった。

おふくろの味だとか
子供のころ初めて食べた外食の味だとか
記憶の中で湯気を立てる
あの日くちにしたものは、
みんな美味しかったことになっている。
実際の味に
思い出エッセンスや心情スパイスが入って
最高の逸品になるのだろう。

シャクシャクとりんごを食べながら、
今年の年末の帰省のことを計画する。
そんな秋晴れの午後だ。



ところで上の写真のふたつ並んだりんご、
影もかわいいと思ったのだけれど
そう思うのは私だけかな。



文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。