見出し画像

クリスマス前のものがたり。

雑貨屋が何やら華やかだ。
ガラスメイドのクリスマスツリー。
毛糸のトナカイに、
木製のサンタがゆらゆら揺れる。
さあどうぞ中をご覧くださいと、
そっと背中を押すように
スウィートなジャズが流れてくる。
クリスマスまであとひと月と少し。
忘れていたな。

店内には
赤や緑、あたたかいものが
たくさん並んでいた。
ストール、手ぶくろ、膝掛けにボアの靴下。
眺めているだけで気持ちも
やわやわとしてくる。


これからの季節は寒い。
視線を落として歩いてしまいそうになるけれど、
目に入るものが物語を作りだす楽しさがあれば
辛くはない。


光が満ちる店内から外を見やると、
窓に映ったオーナメントの金色の星が
曇り空を飾っていた。
雲の向こうで
今もきっとほんとうの星は輝いている。

♠︎


クリスマスなんて嫌いだ。
そう言って拗ねる
リトル・スクルージ少年が、
店先の階段に座り
頬を膨らませていた。

かたわらの
小さな妹が乗るベビーカーを、
きみの手はしっかり掴んでいる。
買い物ではいつでも
待たされることになっているのだろう。
きみの瞳に
タイクツの文字が浮かんでいる。


扉を開けて出てきたママは、
きみの頭をなでて

「おまたせ。」

と言う。

そして、
くまのかたちの缶入りチョコレートを
きみに手渡しながら

「少しだけだからね。」

と、イタズラっぽく笑った。
はしゃいだきみの機嫌がすっかりよくなって、
気づいていなかったと思うけれど。
ママは後ろ手にもうひとつ、
リボンのかかった包みを隠し持っていたのだ。

きみにもこの先
何かよいことがあるのじゃないかしら。
ママが買い物を済ませるまでの間、
きみは妹を守る騎士《ナイト》でいてくれた。
神様はそんなきみを
ちゃんと見ていてくれたのだからね。

スキップするきみから
チョコレートの香りがする。
それは曇り空いっぱいに広がって、
そばで見ていた私の心も甘くしていった。




文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。