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残暑お見舞い申し上げます。

暑い日々が続いていますが
お元気でお過ごしでしょうか。
ただ黙って立っているだけで
くにゃん、と溶けてしまいそう。
氷の音を聴きたい。

楽しみにしていた夏祭りも
今年は中止になってしまいました。
浴衣の出番もなくて。
からころと鳴る下駄の音に、
宵の虫の声が絡んでくるのが
耳に心地よいのに。
それすらもない諦めを
いなすかわりはないものかと
思案しています。

先日はお墓の掃除をしてくれたそうで
どうもありがとう。
毎年、幼馴染のあなたが来てくれて、
兄も喜んでいると思います。
あれからもう五年も経つのですね。
自粛だなんだと言ったって、
迎え火を焚いたなら
兄はきっと今年も
この家に帰ってくるのでしょう。
だからお盆には
兄の好物のどら焼きを作って
お供えするつもりです。
これは内緒ですが、
どら焼きの皮に
味醂を少々入れて焼くのが私流なのです。
あなたにも食べてほしかった。
けれど今年は
三密を避けなければならないので、
こちらの家には立ち寄れないとのこと。
仕方のないことです。

夏を嗅いで、夏に触れて、夏を見て。
夏を味わっていますか。
あなたの中に夏をたくさん
ため込んでいますか。

冬になって寒くなった時
心の中にためておいた夏を
そっと取り出して
マッチで火を灯すのです。
そうすると
夏の入道雲や花火や西瓜の種なんかが、
幻燈機の光みたいに
ぱあっと辺りを包んで、
あなたの寒さを
やわらげてくれることでしょう。
冬の寒い日は何度でもやって来ます。
だから夏を
小分けにして
たくさんたくさん
ためておいてくださるといいのだけれど。
一年を通して
あなたが穏やかに暮らせることそれが
私の願いです。

暑い暑いと言うのが口癖の夏。
それでもお盆を過ぎたら
夏の果てが少し見えてくるようです。

お墓掃除の時の
忘れ物の麦わら帽子を
探しにいったりしないで。
麦わら帽子は
夏の中にしか、いられないもの。
永遠の夏の旅に出たのですから。


あなたの分のお線香、
今年は私が
代わりにあげさせてもらいます。

どうかお体をたいせつに。
そして来年こそは
またお会い出来ますように。



文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。