見出し画像

私的トリアージ。

二羽のうさぎが見える。白いうさぎと灰色のうさぎ。耳が短めで黒目がぷりっとしている。
たんぽぽの園の向こうから、並んで体を寄せ合ってこちらの様子を窺っている。

短いなりにも耳を立てて、
私の出方をじっと見ている。

白。いっとこうか。
キミに決めた。

足音を立てないように、
スローモーションで。
ゆっくり、そおっと踏み出す。
一歩。二歩。
うさぎはまだ動かずにいる。
大丈夫だいける。

そこで私は飛ぶように躍り出る。
うさぎめがけてまっしぐら。
しかしうさぎは
脱兎のごとく、という通り、
物凄い速さで走る走る。
右へ行ったかと思うと左へ。
左へ行ったかと思えば今度は斜め前へ。
蛇行して行き先が読めない。
1ミリも体に触れることさえ出来ない。
仕方なく目標をチェンジ。
今度は灰色の仔だ。
この仔の方が
少しボンヤリしているのではないか。
捕まえられるかもしれない。
行け行け。
だが完全にこちらの動きを読まれていた。
灰色は
白とは正反対の方向へ、
砂煙を立てながら
もうもうと駆けてゆく。
白と灰色は、
私を翻弄するかのように
少しだけ近づいたり
交差しては離れたりを繰り返して
走ってゆく。
やがて二羽の姿は
まめつぶのように小さくなって
私の視界から消えた。

あれもこれもやりたい。
どれから手をつけようか。

締め切りが迫るものが優先。
でもそれよりも
こちらの方がやりたくなって
光って見える。

これに取り組むには
今は時間が足りないな。
もっとまとまった時間が取れる時にしよう。

この部屋はうるさいから
場所を移ろう。
あれ、他の場所が空いてないな。

前から気になっていた
あのことのアイデアが降ってきた。
書きとめなきゃ。

こうして
今日という日を無駄づかいして
一日が終わってゆく。
ふと気づけば
夕方の五時。
窓の外の陽は傾いて
時報がわりのカラスが鳴いている。

二兎追うものは一兎をも得ず。

やりたいこと
やるべきことの
トリアージをしなけりゃならない。
残酷なようでも
時間は有限だから。

夕焼けに染まる野原の真ん中で
二羽のうさぎは
鼻をひくひくさせながら
そのつぶらな瞳で
今日も私を
じっと見つめている。


文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。