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葡萄の朝。

潤いから始まる十月の朝。
雨は街を濡らし木を濡らし、
地面に辿り着いて
暮らしを濡らしていく。
それでも厭な気がしないのは、
この雨が実りに繋がるのだと
信じているから。

青空が好きで、
永遠に晴れてくれればと
願う気持ちはある。

けれど、思い返せば
私は雨の日も
窓をそっと細く開けて、
雨の匂いを嗅ぎながら
見るともなく外を眺めていたのだった。
ただただ、
ぼんやりと雨音を聴きながら
雨の斜線、水滴が描く輪を
いつまでも見ていたのだった。

そんな私を
変な人と思うむきもあるだろうけれど、
こういう風にしか生きられないのだから
仕方がない。

自分の中で
何かを実らせて
それを収穫していく時。
晴れも雨も風も
すべてがここに繋がっていたのだと
思えるだろう。


役に立たない。
意味がない。
一見そう思える事の中にも、
自分の内側を熟させるものがあり、
その蓄えが花を開かせ、
甘くみずみずしい果実になるのだとしたら。

この歩みの中には
無駄なことなどひとつもないのだなと思える。
私は
近道しない散歩が好きなのだから。

鉢に盛られた葡萄に手を伸ばす。
ひとつもいで口にすると、
葡萄の甘さと冷たさが
身体に沁みわたる。
指先を紫色に染めながら味わう
秋の始まりの日だ。

文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。