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DX視点で読み解く: 現代版フランス革命?!米国ゲームストップ株事件

アマチュア投資家がヘッジファンドをやっつけた! 
SNSで仲間を集めて、ヘッジファンドをやっつけた!
手数料無料のオンライン証券を使って、こてんぱんにやっつけた!
堪りかねたヘッジファンドが、もう二度としませんと詫びを入れた。
ゲームストップ砦とAMC砦は死守したぞ! 次は・・・だ!
みんな立ち上がれ! ウォール街貴族を懲らしめろ!

これだけ聞くと痛快活劇。
現代版の桃太郎、猿と雉と犬を引き連れ鬼退治。
はたまた、権力を独占する貴族に立ち向かったフランス革命、市民革命ともいえるかもしれません。

デジタル業界に身をおきデジタルマーケティングやDXを推進する私達にとっても、なかなか示唆に富む事件です。金融の難しい点が多く含まれているのをできるだけわかりやすく解説してみます。


●起の章: 集団を形成し道具を手に入れたアマチュア投資家

世界中にアマチュア投資家はいます。そんな彼らがSNS上で情報交換をするのは当然の行為。なかでもテーマ設定できるスレッドを持つSNSにはファンが集いやすいですね。
レッディト(Reddit)もそんなSNSのひとつ。金融投資のテーマを掲げる wallstreetbets(WSB)というスレッドには登録者数500万人超。

一方、海外では手数料無料で金融商品の売買ができることを特長にしたオンライン証券が勃興しています。なかでも、自由のために戦う英雄の名を冠するオンライン証券、ロビンフッドが有名。洗練されたデザインは、2015年にはAppleデザインアワードも受賞。一見、退屈にみえる投資活動も、ロビンフッドは簡単に楽しめて習慣性のあるものに変えることに成功したDX事例としてたびたび登場するオンライン証券です。コロナ禍を契機に投資を始めた若い世代は「ロビンフッダー(ロビンフッド族)」とも呼ばれ、2019年末には1000万人に到達するほど大人気。

レッディト(Reddit)https://www.reddit.com/
・米国の掲示板型ソーシャルメディア
・テーマ性があるスレッドでファンが情報交換できる
・話題になったのが wallstreetbets(WSB)というスレッド。登録者数500万人超 https://www.reddit.com/r/wallstreetbets/
・WSBは投資に対して「何でもあり」の姿勢を奨励。常識を避け、ユーザーや投資判断、勝敗を失礼な言い回しで表現する。画像ネタを多用し、大きく賭けて負けた投資をからかい半分に祝福するパリピ的な場所として発展
ロビンフッド https://robinhood.com/
・アメリカのオンライン証券
・特徴は手数料無料で金融商品の売買ができること 無料!
・「ロビンフッダー(ロビンフッド族)」とも呼ばれ、2019年末には1000万人に到達


●承の章: ゲームストップを守れ!ヘッジファンドとの戦い

テキサスに本社を置き、テレビゲームの機器やソフトを売る実店舗を北米中心に世界中に展開するゲームストップ(GameStop NYSE:GME)という企業がニューヨーク証券取引所に上場しています。そうですね・・・日本の企業で例えるならGeoとかですね。
業務形態から想像がつく通り、若者(特に米国オタク族)での知名度が高い企業です。

ゲームストップ(GameStop NYSE: GME)
・テレビゲームの機器やソフトを売る実店舗「ゲームストップ」を北米中心に世界中に展開する小売企業。テキサスに本社を置き、ニューヨーク証券取引所に上場
・日本の企業で例えるならGeoの世界版
 (補足説明:つまり(特に米国の)オタクで知らない人はいない)

そもそもオンラインゲーム普及のあおりから業績は右肩下がり。ここにきてコロナショックによるさらなる大苦戦を見越したシトロエン・リサーチ他複数のヘッジファンドが、空売りをゲームストップに仕掛けていきます。
ヘッジファンドが、株券を借りてそれを売り(空売り)、それを買った人からまた株券を借りて空売りを仕掛けることで、ゲームストップの市場流通量(浮動株)以上の空売りが積み上がっていきます。

それに気づいたアマチュア投資家が声をあげます。

ゲームストップが異常なまでの空売りで荒らされている情報がレッディト/WSB上で話題となります。 みんなが大好きなゲームストップ、ヘッジファンドの喰い物にされてなるものか! ふざけるな!ヘッジファンドめ!っと、レッディト/WSBで盛り上がりはじめました。

よし!じゃあみんなでゲームストップを買い支えようじゃないか!ヘッジファンドにひと泡吹かせようじゃないか!ってことになり、我も我もと買い支えがはじまります。

塵も積もれば山となる。米国では1株からも買える。お小遣い程度でヘッジファンドに戦いを挑めるぞー。心意気だ!みんな進めー、ヘッジファンドをぶっ倒せ!ってまるで市民革命の様相になってきたのです。小型銘柄で浮動株少なく日中出来高も少ないことを背景に、年明け時点で18.84ドルだった株価が100ドルを超えていきます。

・ヘッジファンドは、シトロエン・リサーチ他、複数社存在。
・過去52週間(≒過去1年)の最安値(2.57ドル)だったものが、1月28日に一時483ドルを記録するまで暴騰。


●転の章: 裏切りのロビンフッド? 

焦ったのはヘッジファンド。
業績悪化を想定し、先回りした空売りを仕掛け、値下がりで利益とろうとしてたのがまったく逆の動きになったのです。浮動株も少なく(空売り、つまり株を借りる)貸株料も大きくアップ。ヘッジファンドも目論見が崩れると自主運用ルールに従い撤退せざるを得ません。ショート・スクイーズ(空売り勢の損失覚悟の買い戻し)が発生し、不本意な買いに回り始めます。

さらに、テスラのイーロン・マスクCEOが26日に「ゲームストック!」というコメントとともにWallStreetBetsのリンクをツイートしたことで、ゲームストップの株価はさらに上昇! 

結果、1月28日に一時483ドルを記録するまで暴騰したのです。レッディト/WSBで盛り上がります。 みたかー、ヘッジファンドの連中め!

と、ここに来てまさかの事態発生。

自由のために戦う英雄の名を冠するオンライン証券、手数料無料でアマチュア投資家の投資活動を支えてきたロビンフッドが、ゲームストップの”購入”を制限(≒買付禁止)。つまり投資家は株を買えず、ただ株を持ち続けるか売るしか手段がなくなり、ゲームストップの株価は大きく下落していきます。

自由のために戦う英雄と信じていたロビンフッドに裏切られた! レッディト/WSB上で大きく話題となり、アマチュア投資家はロビンフッドらオンライン証券会社に激しい怒りを向けます。

なぜ取引制限したのか?ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、ボラティリティが高まったたため、株取引精算機関からの保証金の積み増しを求められたとされています。けれどもアマチュア投資家はそうは受け取りません。なぜならば・・・

ロビンフッドも企業。収益がないと成り立ちません。ではその収益をどこから得ていたかというと・・・
ロビンフッドは、来た株式注文をヘッジファンドやHFT業者(超高速高頻度取引業者)へ取引を流しその手数料で儲けるのがビジネスの仕組み。つまりキックバックで成り立っているということ。なので”顧客”であるヘッジファンドを攻撃するわけにはいかないとロビンフッドは判断し取引規制したに違いない!なんてこった、義賊に裏切られた!と、レディット/WSB上で大騒ぎになります。

また、レディット/WSBのモデレーターは27日、一時的にフォーラムを非公開にしたり、レディットのチャットサービスのサーバー停止が起きたりと大混乱。真意は全ての投稿とコメントを把握し続けるのは困難だとした判断だったようですが、そんな一連の動きもアマチュア投資家にとっては裏切りだと感じたらしく、他のSNS上でも騒動が広まっていき、それに応援する新たなアマチュア投資家も増えます。

騒動を聞きつけ、米国の政治家やマスメディアも騒ぎ始めます。

「(新型コロナウイルスで)何百万人もが失業して日々の支払いに苦しんでいるにも関わらず、株価が急上昇するとは・・」とか、「ウォールストリートの投資家は長い間、私たちの経済をカジノのように扱って来た」などの避難が殺到。

また一方で公平性の立場から、投資制限をつけるとは何事か!っという声もあがります。機関投資家がやってきたことをアマチュア投資家がやると規制するとは何事か!っと。それが功を奏したか、はたまた保証金の積み増しがなし得たのか定かではないですが制限事態は解除されて株価はまた上昇へ・・・っと不安定な状況が続きます。


●結の章: 戦線離脱を始めるヘッジファンド


ついには、有力ヘッジファンドの一角であるメルビン・キャピタルは37億5000万ドル(約3913億円)を失い、ヘッジファンドであるシトロエン・リサーチも100%の損失を出し白旗をあげ、ゲームストップからの撤退を表明し・・・もう二度と空売り対象の企業探しをしないと宣言する始末。

ヘッジファンドの戦略を根底から覆す事態になったのです。

レディット/WSB上ではアマチュア投資家が歓喜の声をあげています。俺たちの勝利だ!っと。レディット/WSBは、もともと、画像ネタを多用し投資をからかい半分に祝福するパリピ的な場所。面白おかしく発信を繰り返しています。

この事件で大きく損失し運用パフォーマンスが大幅に悪化したシトロエン・リサーチ他有力ヘッジファンドが、その損失手当のために主要銘柄の株式を換金売りする、とも囁かれています。これが、米国株式市場全体を大きく揺るがす事態に発展しなければいいのですが・・・



●DX視点で読み解くこの事件の示唆

事件の概要はこんな感じです。さて、前置きが長くなりました。
この事件をデジタルマーケッターとして、あるいはDXプランナーとして、あなたはどのように見ますか?

ヘッジファンドは、法令遵守のもと、いつもどおり活動していました。
ロビンフッドは手数料無料で投資チャンスを提供してきました。
レッディトはたんなる掲示板ソーシャルメディアです。
なぜこのような事件が突然起き、一歩間違えば金融危機につながるような事態に発展したのでしょうか?

アマチュア投資家は・・・
馴染みのあるゲームストップを汚された!と感じました。
ヘッジファンドに抵抗する声をSNS上であげたのです。
手数料無料のロビンフッドになだれ込む注文。
彼らの思いは、株価操作ではなく、一矢報いることが目的。
それが、まさかのロビンフッドの裏切り・・・

ヘッジファンドや機関投資家がやるのは”是”、アマチュア投資家がやると”非”。そりゃあ激怒するでしょうね。

ヘッジファンドは、ブランドを大きく毀損し、今後のビジネスモデルの大転換も突きつけられることになりました。なぜでしょうか?

倫理観。そう倫理観が問われたのです。

2000年代にアラブの春という事件がありましたが、あれは政治に対して民衆がSNSを通じて起こった政治革命。今回のゲームストップ事件は、ヘッジファンドを金持ちとみなし民衆が起こしたデジタル時代の金融革命と後の歴史家は評価するかもしれません。

SNSという発信力を民衆は手にいれました。
昨日まで普通とされていたことに疑問を感じ、反論し、声をあげ、行動に移す。まさに市民革命ともいえるムーブメントを超短期に起こすことができたのです。頼もしさと同時に怖さを感じますね。

もしあなたが、ヘッジファンド側やロビンフッド側、レディット側にいたら・・
このムーブメントを一刻も早くキャッチできる環境は整備できてますか?
このムーブメント下でどのように振る舞うべきか想定されていますか?
このムーブメント下でどのような着地点を目指すべきですか?

そして・・・
このようなムーブメントが起きそうな潜在的リスクが貴社にはないといえますか?

倫理観。
デジタル化やDX化は、貴社のビジネスが今より効率効果的になるだけではないのです。デジタル化やDX化は、ビジネスモデルの倫理的な再構築も求められているのかもしれません。そんなことを考えさせられるゲームストップ事件ですね。


*参考情報:
https://jp.wsj.com/articles/SB11035720615581634282004587256180043587506
https://www.youtube.com/watch?v=r0pLHQvspi0

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0201


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