個人的に印象に残ったベスト5は。。 〜 大塚国際美術館(日本・鳴門) 中編
実は、大塚国際美術館の本当のすごさは、地下3階の古代・中世の展示場からはじまる。
もう一度、同美術館の公式サイトより以下の部分を引用させていただく(*1)。
館内には、6名の選定委員によって厳選された古代壁画から、世界26ヶ国、190余の美術館が所蔵する現代絵画まで至宝の西洋名画1,000余点を大塚オーミ陶業株式会社の特殊技術によってオリジナル作品と同じ大きさに複製しています。それらは美術書や教科書と違い、原画が持つ本来の美術的価値を真に味わうことができ、日本に居ながらにして世界の美術館が体験できます。
ポイントは、ミュンヘンの博物館同様「オリジナル作品と同じ大きさに複製」し展示することにより、その結果「原画が持つ本来の美術的価値を真に味わうことができ、日本に居ながらにして世界の美術館が体験できます」ということだ。これらの点は、ドイツ・ミュンヘンの古典彫刻模型博物館で私が感心した点と同じだ。
これ加えて、大塚国際美術館のすごいところは、「至宝の西洋名画1,000余点」を陶板画に複製する際に、オリジナル作品の所有者(美術館、教会、施設、個人等)の許可及び検品を受けていることだ(*2)。基本、美術館は、著作権に関係なく画像の権利にこだわる。つまり、大塚国際美術館は、「世界26ヶ国、190余」の美術館から「1000余」の許可を得たことになる。
特に贋作に厳しいピカソの関係者(ピカソの子息含む)にOKを出してもらうのは、さぞ大変だったろうなあと思う。もちろん模型の場合も許可が必要となるが、前述のミュンヘン文化研究所の所属美術館と、大塚国際美術館とでは、展示数と規模が違う(展示品が模型と絵画という点でも異なるが)。
そして、私が注目したのが、大塚国際美術館の展示内容だ。同美術館の作品の選定が、プロ級以上であることは、地下3階からはじまる「古代〜中世」の展示内容から十分に理解出来た(*2)。
なぜなら、日本の美術館で、ここまでやるの?という内容だったのだ。つまり、見学者を一切素人扱いしていないことがひしひしと伝わる。全作品ではないが、作品解説の内容も素晴らしい(アート思考に反するかもしれないけれども)。冗談では無く、大塚国際美術館の全ての展示品だけで、専門レベルの美術史の通史くらい、楽にカバーしてしまうだろう。
実際、想定外に見学コースの前半だけで時間がかかってしまったのは、前述のように同美術館の古代〜中世の内容が、あまりにも素晴らしかったからだ。その後に続くルネサンス〜バロック〜近代〜現代の展示も想像以上の充実度だったが、最後は駆け足になった(よくある話らしい)。
というわけで、今回見学出来た作品の中で、個人的に印象に残ったベスト5を厳選して紹介する(順不同)。
1.《鳥占い師の墓》
まずは、同美術館地下3階にある「イタリア、タルクィニアにあるモンテロッツィ墓地内の《鳥占い師の墓》(紀元前520年頃)の実寸大に復元した空間」だ。
ローマ建国以前よりずっと前から栄えていたエトルリア人の墓の中に、日本の鳴門市で入れると思わなかった。イタリアの地下墓地や神殿やら、いろいろな遺跡を訪れているけれども、あの時の「体感」とほとんど変わらなかった。そろそろ中へ進む、あの感じだ。
前回も述べたように、大塚国際美術館の陶板に複製する技術が壁画で生きている。その完成度は、ここ鳴門にある《鳥占い師の墓》に全く「偽物」感を感じさせないほどだ。そして《鳥占い師の墓》の壁画を机上の上でなく、実際に墓地という空間の中で存在する状態で見ることに重要な意味がある(上記の画像は、墓地の一部)。
例えば、我々が、壁画(絵画や彫刻等も含む)を分析する時には、それらが存在する「場所」が非常に重要になる。建物内の入り口なのか、出口の近くなのか、正面なのか。制作者の意図を「作品の場所」から考察する。
壁画の流れも重要だ。上記の《鳥占い師の墓》をもう一度添付しよう。
左右の壁奥に描かれている人物像の方向から、正面の壁へ我々の視線が向かうように描かれていることがわかる。この空間の全体像がわかるからこそ、正面の壁で左右対称に立っている男性達の間にある「戸」が、この空間の最重要な場所(フォーカル・ポイント)と理解出来る。そして、壁に描かれている人物の仕草、儀式を分析して、それらの正体を推測する。そして、この空間からエトルリア人の埋葬美術や死生観を分析する。なんてことが出来る。
現地へ行かなくても、大塚国際美術館の展示作品と学術系資料で、短い論文一本なんて書けちゃうよねというレベルの高さだ。
続く。
NOTE:
*1. 大塚国際美術館公式サイト。
*2.Ibid.
*3.Ibid., 上記の「6名の選定委員」は、青柳正規氏、小池寿子氏 、 小佐野重利氏、 大髙保二郎氏 、千足伸行氏、木島俊介氏 (2017年8月現在)。
(画像は、著者が撮影した大塚国際美術館《鳥占い師の墓》)
この記事の前編は、こちらをどうぞ。
追記(2020/09/03):タイトルを変更致しました。