芸術や文化が少しでもスキであれば、今知ってほしいこと
追記(2020/06/14):国立西洋美術館は、2020年6月18日(木)より全館開館となることが決定。上記の「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」も日時指定制を導入し同日より10月18日(日)まで開催されることになった(国立西洋美術館公式サイト2020年6月12日更新現在)。
今、国立西洋美術館の中に、英国・ロンドンにあるナショナルギャラリーより計61点、全て初来日の作品が展示されている。
今回も、保険も含め、莫大な費用をかけて、英国から61点の作品が、大事に大事に日本へ運ばれてきた。
前も少し話したけれども、大型の海外美術館に関連した展覧会は、その企画は、5年前からはじまる。
どの作品を出品するか。それは、出品する側(英国)から鑑賞者(日本)たちへの敬意のようにも思える。
なぜなら、ここ数年の海外がらみの大型展覧会は、日本の鑑賞者を馬鹿にしているなあと思う展覧会が少なくなかった(もちろん、個人的な見解だ)。複数の展覧会で使い回しているなと思う出品作品もあった。全部が全部悪いわけじゃないけど。。。それ以上は、ノーコメントだ。
ただ、今回のナショナル・ギャラリー展は、英国側が本気だと思えるような出品作品が多く、久々に期待出来る内容だった。私の予想では、2020年度展覧会入場者数TOP5に楽に入ると思っていた。
しかし、全国の博物館や美術館が2月半ばから今も臨時休館している。ナショナルギャラリー展の開催場の国立西洋美術館もその一つだ。
ここまで国内の状況が深刻化してくると、東京での同展覧会は、吹っ飛ぶかもしれないと思いはじめた(同展覧会は、2020年7月7日から大阪の国立国際美術館へ巡回する予定)。
昨日、web版美術手帖の記事「展覧会の開幕延期で現場は『打つ手なし』」で、興味深い数字が出た。以下、引用させていただく。
例えば、展覧会の入場料(当日券)を1600円だと仮定する。2019年入館者数ベスト10を参照すると、1日の入館者数は平均して約6000人。その7割に当たる4200人が有料入館者(残り3割は招待券など)であれば、1ヶ月(26営業日)臨時休館するとその損失は約1億7472万円にのぼる。加えて、図録やグッズの売上がひとり当たり800円だとすると、単純に1億2480万円のマイナスが加算されることになる。損失の合計は約3億円だ(*)。
ナショナル・ギャラリー展をはじめ、日本で開催される展覧会の主催は、新聞社かテレビ局、つまりマスコミだ(ナショナル・ギャラリー展の主催は、読売新聞と日本テレビ)。
実際、大型展覧会を主催する某マスコミ側の関係者から直接話を聞いたことがあるのだけれども、大型展覧会の収入は、だいたいが、ほぼ赤字、トントンで御の字ということだった。マスコミだから出来る、大型の文化事業だ。
これも出品側の某美術館関係者から聞いた話だけれども、国内での権限は、ほぼ主催側のマスコミにある(日本の美術館の不思議な構造については、話が長くなりそうなので、また後日)。
そして、上記の美術手帖の記事によれば、今回のように展覧会中止による損失は、保険はなく主催マスコミが経費を負担する。そして、その損失は、1ヶ月の臨時休館だけで約3億円だ。
ちなみにナショナルギャラリー展の開催予定は、 2020年3月3日~2020年6 月14日。つまり、昨日(4月3日)の時点で、あるはずの1ヶ月の収入(約3億円)がない。
しかも、美術館の中には、英国から初来日した作品達が、完璧な姿で見てくれる人たちを待っている。
日本政府の文化(文系の研究も含め)対する予算は、異常に少ない。国立大学で文系の学部を減らそうなんて話も出るくらいだ。今回の自粛要請の嵐の中、演劇、音楽、美術、をはじめ文化に携わる人々への援助の声は、政府から全く聞こえてこない。
今の状況で、企業や、もちろん、文化の中でも、出版や、教育や、リモートワークで仕事が今まで通りに出来る業界もあるけれども、美術館や博物館は、入場者がいなければ未収入だ。
話は、元に戻るけれども、今回のナショナル・ギャラリー展のように、海外の美術館から名品を運んでくるような大規模展覧会は、今後開催されるのだろうか。
もちろん、企画展は、来年まで決まっているだろうけれども、今の状況では、海外がらみの展覧会は、中止になる可能性が高い。前述の通り、作品を運ぶ際の保険と輸送費の額だって、半端じゃない。もちろん、展覧会に協賛しているエアラインや企業は、他にもあるけれども。
今後も、こんなリスクを背負ってまで、日本のマスコミは、西洋美術の大型展覧会を企画してくれるのだろうか。
正直、解決策は、見いだせない。でも、この現実を多くの人に知って欲しい。
最後に、下の画像は、今回のナショナル・ギャラリー展で、出品予定のイタリア・ルネサンス美術の鬼才パオロ・ウッチェロ 《聖ゲオルギウスと竜》(1470年頃)だ(個人的に大好き)。はっきり言って、ウッチェロを日本で見れる機会は、滅多にない。そして、この作品も、今、上野の国立西洋美術館の中で見てくれる人達を待っている。
(画像は、著者が英国・ロンドンで撮影した、ナショナル・ギャラリー、パオロ・ウッチェロ 《聖ゲオルギウスと竜》)
*参考文献
「展覧会の開幕延期で現場は『打つ手なし』」美術手帖(2020.4.3)
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/21600
追伸:よろしければ、以下のnoteもご参考までに。