鮨カレンダー ~鮨みずかみの1年~ 水無月(6月)
本連載は、鮨歴10年超の鮨ブロガーが1年を通して毎月同じお店に通い、鮨の魅力をお伝えする企画です。鮨種(=すしネタ)の変遷から、旬を味わう喜びをお届けします。
1年を通して読んで頂ければ、鮨と魚に詳しくなり、鮨を食べるのが格段に面白くなるはずです。そして、誰かと一緒に鮨を食べに行くときも、鮨のトリビアを説明できる立場になれます。
皐月(5月)の記事
本記事は連載第6号です。
お伺いするお店は、半蔵門の「鮨みずかみ」さん。親方の水上行宣(みちのぶ)さんは、名店「すきやばし次郎」で16年間も修業された方です(他のお店での修行を加えると、修行歴はトータル23年)。
今回は、水無月(6月)に伺った際の内容をお届けします。
6月については、率直に表現して、5月からの「劇的な変化」は感じませんでした。もしかすると、この半年の間で月による変化を最も感じにくかったかもしれません。しかし、両月のタネを列挙して比較してみると、全く同じわけではありません。変化を感じにくかった理由は何だろうか…と考えたところ、ある結論に至りました。
こちらが5月と6月のタネの対比です(5月:6月)。
真子鰈(マコガレイ):真子鰈(マコガレイ)
赤イカ:白甘鯛(シラカワ)
金目鯛(キンメダイ):白イカ
鮪赤身:鱚(キス)
鮪中トロ:鮪赤身
鮪大トロ:鮪中トロ
小鰭(コハダ):鮪大トロ
鮑(アワビ):小鰭(コハダ)
鯵(アジ):鮑(アワビ)
北寄貝(ホッキガイ):鯵(アジ)
車海老(クルマエビ):北寄貝(ホッキガイ)
トリ貝:車海老(クルマエビ)
蝦蛄(シャコ):トリ貝
伊佐木(イサキ):鰯(イワシ)
バフンウニ軍艦:蝦蛄(シャコ)
蛤(ハマグリ):バフンウニ軍艦
小柱軍艦:蛤(ハマグリ)
穴子(アナゴ):伊佐木(イサキ)
-----:穴子(アナゴ)
重複するタネ数は15なので、80%弱が同じタネとなります。また、鮪赤身、鮪中トロ、鮪大トロ、小鰭(コハダ)、鮑(アワビ)、鯵(アジ)、北寄貝(ホッキガイ)、車海老(クルマエビ)、トリ貝の流れは同じです。上記リストのタネの名前と訪問時期を考慮して、季節の変化に気づく方がいらっしゃったなら、相当の魚通だと思います。
ただ、「劇的な変化」は無くとも、バッチリ満足させてくださるのが水上親方の粋です。少々弱いタネが入っていても、自身の仕事と酢飯で魅せてくれます。「劇的な変化」とは「分かりやすい変化」にすぎません。しかし、「変化が少ない」と思考停止するのではなく、細部に味覚と考えを巡らせてみると、確かな季節の変化を感じ取れます。これぞ和食の醍醐味です。
今回、特に印象深かったのが、鮑(アワビ)です。5月から旬に入るアワビは鮨店の格式を示すようなアイコンであり、強い旨味と複雑な味わい、そして馥郁たる香りは、他の貝類には無い魅力があります。正に江戸前鮨における「貝類の王者」と言った貫禄があり、かたや「貝類の女王」と表現したくなる赤貝と並んで鮨好きの舌を喜ばせてくれます。
今回「鮨みずかみ」さんで頂いたアワビは、5月よりも香りが強く感じられ、酸味の利いた米酢のシャリと競争し合って味を高めるような趣がありました。アワビについては、漁獲量のさらなる減少が懸念されているため、頂けること自体がありがたいことです。
一流の鮨店が使うクオリティのアワビは、千葉県産の大型のアワビであり、「すきやばし次郎」の小野二郎氏は特に大原産のメスのマダカアワビ(通称ビワッ貝)を好んで使用されてきました。しかし、漁獲量低下に伴い値段が高騰しており、大型のものは1個1万円以上にもなっています。1個、1万円です。水上親方も「今年は厳しいですね…」との談でした。しかし、だからこそ、それでも仕入れる職人の意地に惚れる次第です。意地を失ってしまっては、職人ではありません。意地と矜持を持つ鮨職人のもとに通いたいものです。
それでは、お楽しみください!
水無月(6月)の「鮨みずかみ」さんの魅力
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