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定年の高校教師「第2の人生」は「寿司を握れるフランス語の先生」を楽しみたい

2016年にDiploma日曜4月生コース(現在の週末特訓コース)を卒業された池ヶ谷さん。高校教諭を務め上げ、定年後は地元の外国語学校でフランス語を教えていました。

日本を紹介できる知識・技術の習得を目指し東京すしアカデミーを受講する。卒業から1年。フランス語を教えながら、土日祝は地元のグルメ系回転すし店で腕を振るっている。

そんな池ヶ谷さんにお話を伺いました。

私は2016年度江戸前寿司Diploma日曜4月生コースを終了して1年になります。私はその前年まで高校の教諭をして定年を迎えました。定年後は松本市と岡谷市に教室を持つ、外国語学校エー・トゥー・ゼットで、元々専門だったフランス語の講座を担当しています。

高校で英語を教えていましたが、残念ながら日本の高校の英語学習は受験が最優先で、現実の人とコミュニケーションをするものとは結び付かないことが多く、生徒だけでなく、私自身も苦痛を感じることが多かったです。今はしがらみから解放されているところです。

私が東京すしアカデミーを知り、講習に参加したのは、外国語や国際交流をライフテーマとしていく上で、日本文化や日本料理を知っておきたい、身につけたいという思いからでした。

40数年前、学生時代にフランスに滞在し、現地の若者たちと交流した時、何と自分は日本の事を知らない、日本料理を説明したり作ったりできない、ということを思い知った経験が根底にありました。

その後フランスには20回以上訪れていますが、定年後にはぜひ日本を紹介できる知識・技術・情報を持ってフランスに行く~または日本を訪れるフランス人に提供したいと思っていました。

1年間長野県から高速バスで日曜コースに通い、色々なことを教えて頂き、無事終了しました。そのまま放っておくのはもったいない、という思いで松本市にある「氷見きときと寿司」のアルバイト募集に申し込み、5月から土日祝日バイトをさせてもらっています。

この店は日本海の魚と、手握りが売りの回転すし店です。本マグロの大トロやノドグロなどはなんと一皿700円という「グルメ系回転すし店」です。

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私は何十匹ものイワシやアジ、トビウオやサンマの頭落とし・はらわた取りをしたり、アオリイカ、ホタテの切込みなど、(アカデミーとは異なり)現場で、数と速度を求められる魚処理を体験しています。

また裏の調理場から流し皿に使う玉子やいなり、青魚やエビなど廉価ネタを握らせてもらったり、カウンターに入り、お客さんの注文に応えて握りを提供する経験もさせてもらいました。

しかし秋に店長や若手、炊事場専門の方が辞めて、人手が足りない状況になり、私はシャリの仕込みを任されました。1つのお釜で6kgの米を6本とか8本準備します。

それをやりながらタイマーを持って魚の処理をしたりします。洗い場にも入り食器を整えます。洗い場やシャリの仕込みは一番基本の大切な仕事です。土日祝だけなので店は忙しく、作業がたくさんあり、まだまだ慣れずに指導を受けますが、充実感を覚えます。

私は社会人としての義務は果たした「第2の人生」のステージなので、今から店を持って頑張ろうとか、休みも惜しんで働きたいという気持ちはありません。

余生の人生を謳歌することにウエイトを置いて、「寿司を握れるフランス語の先生」を楽しんでいます。活動のすべては社会に対してこれまでの恩返しと捉えています。

地方でもあり、シニアであり、働く時間も短く、自宅から遠く交通費がかかり、報酬としては決して合理的ではありませんが、高級な魚を求めて来店されるお客様に人気の寿司店で働いている自分を誇らしく思っています。

現場で実践的なことを教えて頂けることも本当にありがたいと思っています。「食べ物業界」で働くのは結構厳しいものです。働ける人ほどトラバーユしていきます。

昔と違って、そこの抜けた穴を埋めるような人材がすぐには入ってきません。残った者にその仕事が降りかかってきます。待遇の面でまだまだ他業界・他業種ほど守られていないことも現実です。

それは修行の期間であり、自主独立が前提とされた業界でもあるからではないかと思います。公務員を望む人には向かない職業です。

しかし働き甲斐は最も実感できる仕事だと、ぶれない信念を持って着座すれば、長い人生を貫ける確たる匠の職になるものと思われます。若い人には選択肢としてよく考えてほしいと願います。

また私のように、リタイアした後、新しいことに挑戦したいとすしアカデミーの門を叩いた人もいると思います。「1年前にはできなかったことが今出来る自分がいる」と実感することは、オリンピックの金メダルとは異なるとしても、自分の中で見事な金メダルなんだと実感できる人生の宝物=経験になると思います。

私の場合は、静岡生まれ静岡育ちなのに魚を触ったりさばいた事がなかったのに、今はそれができる自分がいるわけです。

定年後の老人は小銭程度しか稼げないものです。ならば少しでも実感を持てる小銭稼ぎのための知識・技術・情報を持っていることはとても豊かな第2の人生の過ごし方でしょう。

編集後記

巷では、人生100年時代、ライフシフトといった言葉が多く聞かれる今日この頃。東京すしアカデミーに興味をもたれる方に「第二の人生でお寿司を活かしていきたい」という方が増えている。

池ヶ谷さんはその先駆者のお一人。『人生を謳歌することにウエイトを置いて「寿司を握れるフランス語の先生」を楽しんでます』と語る池ヶ谷さんのレポートは、まだ現役世代の私には羨ましく思うくらいの充実感が満ち溢れている。

ひとつの仕事を成し遂げ、そして更なる自分磨きを続け人生を愉しむ。その内側には、緻密な計画と一本芯の通った意志があるのだろう。

池ヶ谷さん、貴重な体験をご共有頂きありがとうございます!

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