【小説】そんなにごはん食えんっての!(1094文字)
「育ち盛りだからね! ご飯をどんどんお食べ!」
「うっ、はい…」
炊飯器2つ分ぐらいのご飯を出された。そんなに食べられないのは明白だった。でもここで断ったらおばちゃんが悲しむと思ったら、食べないなんていう選択肢はなかった。
「おりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」
「あらまぁ、いい食べっぷりねぇ!」
おばちゃんが嬉しそうに笑っている。ちょっと食べるのが苦しいけど、これでなんとかおばちゃんの笑顔というのが守られた。
さすがに食べすぎて呼吸をするのも若干苦しかった。だがしかし本当の地獄はこれからだった。
「おばちゃんったら、あなたが食べるのが嬉しくてどんどんご飯作っちゃった」
「え、嘘でしょ…」
思わず素の声が出てしまった。
「あら、もしかして迷惑だったかしら?」
「いやいやとんでもないです! ものすごく嬉しいですよ! あはは!」
今の自分はかなり無理をしていた。正直に言うともう食べるのが限界だ。
「じゃあ早速だけど、まずは鍋いっぱいに入った味噌汁よ! たーんとお食べ!」
「は、はい…」
自分はものすごい吸引力で味噌汁を無理やりに流し込んでいく。多分だけど今の自分は泣きながら味噌汁を飲んでいた。
気を抜いたら味噌汁が胃から口へと逆流してしまう。
「あらまぁ、本当によく食べるわね! おばちゃんとっても嬉しいわ! ご飯をたくさん食べてくれる人って素敵よ 」
「うっ…。そ、そうですか! ありがとうございますね! 」
体の色んな部分がおかしくなったような感覚がした。ものすごい量の食べ物が胃の中に入ったせいに違いないぞ。
お腹が痛い。別の部分もなんか痛い。
「安心してね。おばちゃん、育ち盛りのあなたのためにまだまだ作ったからね!」
「え………」
「山盛りのサラダよ! おばちゃん特製のドレッシングをたくさんかけて召し上がれ!」
「うっ…。はい…」
いかにもカロリーの高そうなドレッシングがサラダにたくさんかけられた。
「いただきます! ひぎぃ! ひぎぃ! むむむ!」
「あらまぁ! 泣くほどお腹がすいてたのねぇ! 焦んないでゆっくり食べなさい! 」
これは嬉しくて泣いているのではなく、苦しくて泣いているのだ。でもこれを食べ終わったらきっと終わりだ。そうに違いない。
「まだまだあるのよ! デザートのバケツプリンよ! たくさんあるからね!」
「うぐっ…」
完全に終わったなと悟りを開いた。もうこれはおばちゃんの笑顔がどうのと言っている場合じゃない。自分の命の危機だ。
「あの…すびまぜん…」
「あらっどうしたの?」
「ギ…ギブアップでぷ…」
この時の自分は無理なものは無理だと時には断ることも大事だということを学んだのであった。
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