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ティンベル王国に忍び寄る悪魔の手先 第3話<イアンの動機>

生まれつき強力な魔力を持って生まれる。
大魔法使いイアン。
人は俺のことをそう呼ぶ。

魔力が強いという理由で、国防の長として任命されるが、俺はそんなこと望んではいなかった。
ただ平穏に、好きな楽器でも奏でながら過ごせたら、それだけでよかったのだ。
とある魔法使いに出会うまでは。

わたしの父は国の剣士、母は魔法使い。
一人息子のわたしを、国に捧げるつもりは毛頭なかったらしい。
父は、男なら剣士として育てたい。
母は、一緒に料理でもして過ごしたい。
そんなのんびりとした家庭だった。

わたしが魔法を覚えたのは、若干三歳のとき。
水を操る魔法、ウォーターボールを無意識に生み出してしまったのだ。
何が起こったのか分からず、驚いているわたしを母が見つける。

小さな水たまりが一つ、二つ。
最初はお遊び程度だったが、五歳になる頃には、樹木を押し倒すほどの威力を身につけていた。
魔法使いである母は、息子の才能を嬉しく思い、家庭教師を雇うことにした。
父親はひどく反対したが、母親には勝てなかったようだ。

家庭教師といえばどんなイメージがあるだろう。
年老いた熟練の魔法使い。
そんなイメージがないだろうか。
わたしは、どんな怖い先生がくるんだろうとビクビクしていた。

町はずれの村に住んでいた私は、先生がくるまでの間、村の魔法学校に通うことにした。
先生がくるまで一か月かかるらしい。
村の長老が教える寺子屋のような場所。

寺子屋では、わたしより一回りも二回りも年上の人が、先生に指導をしてもらっている。
「そこの小さいの、今日から一緒に魔法の勉強するか。」
オリバー先生が手招きをしている。
「お母さんから魔法が使えると聞いているが、どんな魔法が使えるのかな?」

「水を出す魔法が少し。」
「そうか。じゃぁ、このコップの中にこぼれないように水を注いでもらえるかな。」
そういうと、イアンの前にコップを差し出した。

イアンが念じると、水は湯水のように出てしまい、コップからみるみる溢れてしまった。
「この歳でこれだけの水が出せるやつは、これまでに見たことがない。」
「だが、魔力のコントロールはまだまだじゃな。」
そういうと、オリバーはコップの中にぴったりと水を入れてみせた。

「魔力というのは、多ければいいという訳ではない。それをコントロールできなければ、必ず災いをもたらしてしまう。」
「肝に銘じておきなさい。」
先生は、わたしの頭を撫でながら優しくいった。

それから一か月、国から先生がやってきた。
「国から派遣されましたエマといいます。よろしくお願いします。」
これが、ティンベル王国の次期王女との最初の出会いである。


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「イアンくんは魔法が好きかな?」
まだあどけなさが残る少女に戸惑う。
両親も、思いがけない家庭教師に驚きを隠せないようだ。

「あの、家庭教師というのは...。あなたですか…?」
母が不安気に尋ねる。
「はい。そうですよ。これでも国選の魔法使いです。安心して任せて下さい。」

「魔法は好きでも嫌いでもないかな。何となくできるだけっていう感じがする。」
「そっか。じゃぁ、お姉さんと同じだね。」
「実はわたしも、イアン君と同じように子どもの頃から魔力があったんです。」
「でも、なかなかコントロールできなくって、人を傷つけちゃったり、迷惑かけてばっかりで...。そんな子どもたちのお世話をしてるんです。」

「そうだったんですね。これは失礼しました。」
両親は深々と頭を下げる。
「長旅疲れたでしょう。一緒に食事をとりましょう。ここにいる間は、エマさんは私たちの娘として接しますからね。」
両親のいないエマにとって、この上ない歓迎だった。

人当たりがいいエマが、家族の中に打ち解けるのに時間はかからなかった。

五年後。俺は十歳、エマは十九歳。
エマに思いを寄せる俺に、残念な知らせが舞い込んでくる。
エマは国王ガウディアの后になるというのだ。
家庭教師は中断し、王国に戻らなければならなかった。

「みなさんお世話になりました。この御恩は一生忘れません。両親を早くに失った私にとって、みなさんはかけがえのない存在でした。」
「何か困ったことがあれば、わたしを頼って下さい。いつでもお待ちしていますので。」

「きっと、エマの期待に応えられるような魔法使いになって、この国を守ってみせる!」
本当は、もっとそばにいてほしい。
そう言いたかったが、本音を伝えることはできなかった。

その言葉を最後に、エマは王国に戻る。

「僕、国防の魔法使い試験を受けてみるよ。もし合格したら、エマの近くにいれるよね。」
「本当にエマのことが好きなのね。」
母が茶化す。
照れるイアン。

「理由はどうあれ、わたしと同じ道を歩んでくれることが嬉しい。」
「でも、あなたはまだ十歳。子どもでしょ?」
「あなたがエマのそばにいたいのと同じように、私たちもあなたにもっとそばにいてほしいの。」
「だから、お願い。もう少しだけ側にいてね。」

「うん。わかった。」
母のどこか切ない表情を捉えながら、ひとつ返事をした。

「お父さんに剣技を教えてもらっておきなさい。」
「魔法使いって、魔法を封じられたとき、どう対処するかが大切なの。」
「剣技を教わっていれば、必ずあなたの身を守る術になるから。」

「国防の魔法試験は厳しいわよ。」
「毎年合格者は一握りの狭き門だからね。」

エマとの約束を守るため、イアンは一人前の魔法使いになることを強く心に刻んだ。
そして、エマの心を手に入れるため、身体が独りでに動き出す。


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