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♬とらねこ村の共同マガジン~歌詞のパティシエ~

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歌詞パティシエの武炭宏(Hiro)さんととらねこが共同運営する、音楽記事を専門的に扱うマガジンです。 歌詞、音楽動画、所感、ミュージックボックスなどを専門に載録します。 専門マガ…
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#音楽レビュー

コラボ企画<歌詞のパティシエ>

武炭宏(Hiro)さんとの共同企画です。 音楽ジャンルの記事を専門的に取り扱う共同マガジンです。 🎼歌詞のパティシエ コンセプト 音楽に関する記事を広める 管理人 武炭宏(Hiro) とらねこ 専門分野 ・歌詞 ・音楽動画 ・所感 ・ミュージックボックス ・その他それに準じるもの 活動頻度 ・月1回からの投稿 ・ときどき書いている音楽記事の投稿 参加方法 この記事にコメント下さい。 歌詞のパティシエで一緒に活動したい人は、気軽に声をかけてみて下さい。 ***

都市の輝くノイズ -ソニック・ユースの音楽の美しさ

【金曜日は音楽の日】 ノイズとは、その全てが邪魔なものではなく、時には美しい響きで以って、自分を包んでくれます。 そのことを私に感じさせてくれたのが、90年代に活躍したロックバンド、ソニック・ユースでした。今では正直あまり顧みられることの少ないこのバンドについて、今日は語りたいと思います。 ソニック・ユースは、1981年に結成。1970年代後半からニューヨークのアートシーンで活動していた、サーストン・ムーア、キム・ゴードン(後に二人は結婚)が中心となり、

おとぎの国で歌う詩人 -ドノヴァンの音楽の魅惑

【金曜日は音楽の日】 御伽噺というのは、単に幻想的なだけではできません。そこには、ある種の善良さと、倫理も必要になる。 ロック音楽の中で、御伽噺を創りあげることができたアーティストの一人で、私の好きなのはドノヴァンです。60年代に彼が残したアルバムは、今でも驚くほど斬新なおとぎの国の音楽になっています。 ドノヴァン・リーチは1946年、スコットランドのグラスゴー生まれ。学校をドロップアウトして、各地を放浪すると、やがてロンドンのフォーク・クラブでギター1

風に溶ける幻想 -シベリウス『交響曲第五番』の美しさ

【金曜日は音楽の日】 面白い作品、傑作というのは、必ずしも安定した状況で創れるから生まれるとは、限りません。 フィンランドの作曲家、ジャン・シベリウスの交響曲第五番は、様々な意味で不安定な状況で創られたにもかかわらず、美しい清涼感と斬新さが同居する傑作です。 シベリウスですと、交響曲第二番や交響詩『フィンランディア』が人気で、私も大好きですが、私はこの第五番を偏愛しています。 第一楽章は、雄大なホルンの旋律に木管が鳥の啼き声のように絡んで始まりま

黄昏のまばゆい光 -オペラの演出を巡る随想

私は、若い時映画を沢山見ていたせいもあり、舞台や演劇を観に行く楽しみを、正直そこまで味わっていない人間です。 とはいえ、演劇の中でもオペラは、ジャンルとして自分が大好きだというのと、昔の貴重な演出が結構映像ソフトとして残っており、今でも色々と見る楽しみがあります。 今日はこのオペラの舞台における印象深い演出について、少し語りたいと思います。 私が好きな演出家の一人に、1997年に亡くなったジョルジョ・ストレーレルがいます。 彼の代表的なオペラ演出と言えば

燃える夜の残り香 -キップ・ハンラハンの音楽の魅惑

【金曜日は音楽の日】 夜には火が似合います。 野の焚き火、いにしえのかがり火、祭壇のロウソク。そして、夜の繁華街の灯。 普段生物が活動する太陽の光がないからこそ、火の光と熱が、異界に連れていく導きのような存在になる。 そんな夜の炎のような音楽で私が思い浮かぶのは、キップ・ハンラハンの音楽です。 それは、ダークな夜の熱のトーンに貫かれ、都会の夜の欲望と愛が、クールに燃え上がる音楽です。 キップ・ハンラハンは、ミュージシャンで、同時に、プロデューサ

太古の森のきらめく夢 -オペラ『魔弾の射手』の魅力

【金曜日は音楽の日】 オペラには、主に二つの軸があると思っています。一つは、お涙頂戴のメロドラマ。もう一つは、どこか懐かしい御伽噺。 前者が、近代的な感覚だとすれば、後者は、オペラが生まれたバロック時代の匂いを濃厚に残したアルカイックな感覚です。 勿論、多くのオペラはこの二つが様々な割合で交じり合っているのですが、ウェーバーの『魔弾の射手』は、後者に振り切った、森の御伽噺のような美しいオペラです。 カール・マリア・フォン・ウェーバーは、1786年、当

日々を彩る花々の音楽 -デューク・エリントンの魅力

【金曜日は音楽の日】 特定の場所、特定の時代の音楽だけど、独特過ぎて、時代を超えてしまっている音楽が時折存在します。 例えば、バッハの音楽は、「バロック音楽」と分類されつつ、他と比べてかなり変わった音楽です(バロック時代の音楽とは、ヴィヴァルティやヘンデルのように華やかなものであり、通奏低音とフーガで重たいバッハの音楽は、当時から「時代遅れ」と云われていました)。 デューク・エリントンの音楽も、ジャンルとしてはスイング・ジャズ、ビックバンドジャズに

世界を広げる青春の音楽 -ベルリオーズ『幻想交響曲』の面白さ

【金曜日は音楽の日】 フランスの作曲家、ベルリオーズの『幻想交響曲』は、クラシックの中でも人気曲であり、一風変わった曲でもあります。 なかなかに派手で、滋味深いとはちょっと言い難い曲なのですが、色々と聞き込むと、面白い面が見えてくる曲だと思えます。 エクトル・ベルリオーズは、1803年フランス南部生まれ。医者の息子として生まれるも、音楽に興味を持ち、独学で音楽理論を身に付けます。 パリに出て医科大学に入学するも、医者への道を断念(解剖が苦手だったよ

光と水が奏でる旋律 -ドビュッシーのソナタの美しさ

【金曜日は音楽の日】 音楽は、その自由に流れていく姿が水を思わせます。 私にとって、そんな水の自由さをもっとも連想させる音楽が、ドビュッシーの『フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ』を聞いたことでした。 はじめて聞いた時、これ程自由で、しなやかな美しさに満ちた音楽が、この世に存在するのか、と衝撃を受けました。 風にそよぐようなハープとフルートの絡みから第一楽章は始まります。「牧歌」と名付けられたその始まりの、夢見るような美しさ。 ヴィオラ

甘酸っぱい歌の追憶 -ブリットポップ周辺を巡る随想

【金曜日は音楽の日】 音楽を聴く喜びの一つにメロディの良さがあります。 1990年代のイギリスを中心に起きた、通称ブリットポップの音楽は、素晴らしいメロディの楽曲の宝庫です。 今日はこの「ブリットポップ」について、思うことをいくつか書きます。といっても、私は実のところ、ブリットポップ全盛期でなく、後追いで好きになった面があります。 そこまでコアな作品を掘れるわけではないけど、あの総体の雰囲気が、何か今でも好きなのです。 ブリットポップの起源は、諸説あると思

晴れやかな喜びの試み -ベートーヴェン『田園交響曲』の魅力

【金曜日は音楽の日】 ベートーヴェンの交響曲の中でも第六番『田園』は、不思議な魅力に溢れています。 第五番『運命』や、第九交響曲ほどポピュラーではないけど、滋味と喜びに満ち、そして彼の交響曲中の、異色作でもある。それゆえに美しい作品です。 『運命』は、ベートーヴェンが名付けた題名ではない通称ですが、第六番はベートーヴェン自らが『田園交響曲』と名付けています。それだけではなく、各楽章に、サブタイトルもつけています。 第一楽章は、『田舎に着いて、朗らかな気分が

デュオの魅力 -音楽で対話することの良さ

【金曜日は音楽の日】 以前、私が面白く読んだ漫画に、新川直司の『四月は君の嘘』があります。 クラシック音楽を題材にして、アニメ化もしたこの作品。トラウマを抱えて弾けなくなった、元天才ピアニストの少年と、天真爛漫な凄腕ヴァイオリニストの少女の物語です。 興味深いのは、この作品がオーケストラでなく、ソリストでもなく、デュオを題材にしていることです。 オーケストラであれば、集団の中でいかに自分の色を出すか、いかにそれを統率するかという、個と全体との葛藤に

熱狂の魔術師 -天才指揮者カルロス・クライバーの魅惑

【金曜日は音楽の日】 指揮者というのは不思議な存在です。自分で楽器を演奏するわけでもないし、歌う訳でもない。 実のところ、ある程度実力のあるオーケストラなら、ベートーヴェンやブラームスの交響曲レベルは、指揮者がいなくても、破綻無しに演奏は出来ます。 指揮者の役割とは、その「演奏」に、プラスアルファを付け、真の「音楽」を創りあげることだとも言えます。 カルロス・クライバーは、強烈で熱狂的な「プラスアルファ」を創造することができた、最高の指揮者の一人でした