松本零士先生


偉大なる先生。
自分の心象世界は松本ワールドだった。

現実の世界は余白が無い。荒野も宇宙も無かった。
他人の干渉と想念にひたすら振り回されて、逃げ場が無かった。

それでも松本作品のキャラクター達はいつも夜空を見上げていた。
人の世から自由な世界を見上げ、夢見ていた。
他人ではなく、宇宙の星々を眺めていた。

目先の誰かから奪うのではなく自分で開拓したいというヴィジョン。
古代からDNAに刻まれた、本来の人の情緒、憧憬。

九州の田舎からSLに乗って上京する原体験を共有した。
汽車の窓枠に肘をかけ、風にあたりながら流れる風景を観ていた。

四畳半に仰向けに寝そべって、裸電球と天井の木目を見つめた。

タマゴをふたつ乗せた美味そうな醤油ラーメンに憧れた。

まつ毛の長い目を伏せた隣の美女は何も言わず微笑んでいた。
何も要求せず、ただ寄り添っていた。

こうしてクラシック音楽の様に松本作品は永遠に生きるのだ。
墓標すらも必要ない。
最初から宇宙が終わるまで、ずっとここに存在し続ける。

そういう話。


おしまい


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