感謝しなよ!
『感謝しなよ!』唐突に言われた。
『なにあの人、やだ〜』と言う相手のいない1人の職場で。
雨の日。雨が降ると暇になる。
なにかやっておくべきことはないかしら〜と狭い箱の中を見回していると、おじいちゃんが来店。
老人特有の震える手で、申し込みカードとお金を放り込んできた。
そして、唐突に、一言だけそう言ったのだ。
(なにに?あなたに?暇な時に来てくれたお客様に感謝しろってことかしら?
あれまっ、眉間にシワなんか立てちゃって。やめてよ〜笑っちゃう)
不機嫌な人を見ると、なぜか可笑しくなってしまう。
この仕事を始めてからかもしれない。
仕事を始めてしばらくは、な〜んで世の中にはこんな人間がいるのよ!!と腹立たしい経験を何度も何度もした。
接客業が大好き!というわけではないので、嫌な人に接するたびに、辞めよう、もう辞める!とおもったけど、その反面、楽しいこともたくさんあるから今も続いている。
ピンチなときもたまにあって、そんなときは慌てふためいて、とんちんかんな受け答えをして、冷や汗をかくようなこともある。
けど、なんといっても、1人で働ける仕事ってそうあるものではないし、座り仕事だし、何より、煩わしい人間関係がない!
室内の温度も自分の好きな温度に設定できて快適。
ものすご〜く気持ち的にお気楽でいられるのです。
閉所恐怖の方には向かないかもしれない。
いつの間にか、不機嫌なお客さん、感じの悪いお客さんに対して、腹立たしくおもうこともなくなってきた。
気にしなくなってきたのか、怒りの限界を越えてしまったからか、いろんな人がいるからね!と悟ったのかは自分でも分からないのだけど、慣れというのは、恐ろしいことかもしれない。
理不尽なお客さんに対して、我慢できずに言い返したところ、本社に苦情が届き、呼び出されて注意を受けた人がいると聞いたことがある。
似たようなことが私にもあった。
祖父は、時代劇や任侠ものをよく観ていた。
飲みの席などでケンカになり『やるのか?表へ出ろ!』と凄む昭和のTHE男達!
ヒーロー然としている姿、単純に、悪は負けるのだなと、勧善懲悪を素直にかっこいいと思えた子ども時代の記憶。
その影響なのか、嫌なお客さんを接客しているとき、なぜか私の頭の中には、必殺仕事人の曲が流れ、そして、悪漢たちに凄む男達のように『やるのか?表へ出ろ!』のセリフが浮かぶ。(笑)
この場合、表に出るのは私の方なのだけど。
そんなごちゃ混ぜの想像で憂さ晴らしをして、フフフッとマスクの中で笑っている。
マスクの中と言えば、ここには書けないくらいの毒を吐いてストレス発散することもあった(笑)
嫌なお客さんへの対処法としては、見聞きしたものに、独自に編み出した考え方をブレンドした私なりの対処法がある。
それを繰り返していくうちに、平気になってきたのかもしれない。
なので『感謝しなよ!』と言って、カードとお金を放り込んできたおじいちゃんに、『お足元の悪い中ありがとうございます!気をつけて下さいね!』なんて心にもないことを言ってのける図々しさが身についてしまったのかもしれない。