「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第7話
第1話
《 第6話
あとどれほどもない距離に獣の前脚が迫っていた。
身軽に飛び上がる脚が木々の頭を越えて高く跳躍すると、幹の裂ける音とともに、重い身体が地響きを轟かせて降り立ち、行く手を遮った。木々が倒れるほどの激しい風に煽られながら、ビオラは咄嗟に踵を返す。
その後ろで、アコラスは地に這いつくばったまま立ち上がろうとしなかった。
「なにをしている!」
怒号を放ち、引き返す。有無を言わさず乱暴に担ぎ上げ、ビオラは生い茂る草叢の中へと飛び込んだ。
陰の気が満ちる雲