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香花を懐かしみ、紫を邀める

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投稿中のファンタジー小説まとめ。 <あらすじ>  蠱業使いのアコラスは死期を恐れて生業から手を引こうとするも、その代わりに非天の王を殺せと言われてしまう。罪を償うためにも承諾する…
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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第1話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第1話

あらすじ

・蠱業使いのアコラスは死期を恐れて生業から手を引こうとするも、その代わりに非天の王を殺せと言われてしまう。罪を償うためにも承諾するが、法師はアコラスを手放す気はなく、彼の持つ宝珠を我が物にしようと企んでいた。
 また、アコラスに近づく公子カウリスも、果たしたい目的があるらしい。

序章

 万壑は透き通った翠に沈み、千山を連ねる霊峰は天を貫くほど堆くそびえていた。

 松脂の匂いが満ち

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第2話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第2話

《 第1話

 腐った水の匂いが肌をうつ。

 夥しい緑陰の気配に草木は鬱蒼とゆれ、猛然と匂い立つ草叢は咲きこぼれたライラックの花の色に濡れていた。

 村墟である。

 生暖かな風の淀む川辺に、その水車小屋はあった。

 花みどろの屋根は夜露が沁み出し、冴えた笛の音を響かせるような風の音が、葛の絡まる部屋の中を巡っていく。

 びっしりとこびりつく蜘蛛の死骸に、窓ガラスさえもが黒ずむような陰気な

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第3話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第3話

 第1話
《 第2話

「閻魔には、まだ、言うな……」

 噛みしめた奥歯の間から押し出されるような低い唸り声である。

 アコラスは床から瓶を一つ取り上げると、不安げな雀をつめ込んだ。

 わっ、と騒ぎ出す雀を尻目に痛み止めを探して棚の中をまさぐる。

 薬草を煮出して注いだ記憶はしばらくない。引っ張りだした容器の中は、僅かに残った汁がこびりつくのみ。舌打ちを飲み込み、徐に、瓶口に舌を巡らせた。

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第4話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第4話

 第1話
《 第3話

 醜い男とは噂にすぎない。まさか、こんな玉を秘めていたとは――。
 ペチュンは思わず唾を飲み、笑いを零す。
 月玉のような汗を指にからませ、細い顎を掴みあげた。伏せた瞼を押し開けようとした指に、アコラスが噛みついた。
「触んな」
 鋭く睨み上げる目つきに、ペチュンは彼の頬を打ち叩く。
「虫を売るだけで生活ができるか? 生きていくには金が必要だろう。蠱業に飽きたのならもっとい

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第5話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第5話

 第1話
《 第4話

 ちゃぷ……、
 と、水際をうつ波の音であった。
 そよぎの緩みに耳をそばだてて、ようやく聞こえてくるほどのせせらぎの音である。
 岸に垂れ込める下草が、ゆったりと膨らむ水面にさらわれて大きく躍っていた。
 水面は黒く、泥臭い。
 その黒い渦の最中に、アコラスはいた。波間を掻き分けながら川底をさらっている。ペチュンによって投げ込まれた瓶を探しているものらしい。
 春も暮れに

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第6話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第6話

 第1話
《 第5話

 「誰だ」
 扉の隙間から柔らかな光りが差し込む。アコラスの鋭い投げかけに、革靴が答えるように扉を押し開けた。
 低く垂れ込めた霞を踏みしめる、若い男である。
 身に纏う僧衣は、霧の花、仙の枯骨、龍の血を水錆で煮て、夜の闇に浸した海蘭寺のもの。
 星空を思わせる深い藍色の頭髪は爽やかに整えられて、研ぎ澄まされた菫の瞳は月の影を宿す。
 洗練として精悍な青年。
 涼しげな眼差

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第7話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第7話

 第1話
《 第6話

 あとどれほどもない距離に獣の前脚が迫っていた。
 身軽に飛び上がる脚が木々の頭を越えて高く跳躍すると、幹の裂ける音とともに、重い身体が地響きを轟かせて降り立ち、行く手を遮った。木々が倒れるほどの激しい風に煽られながら、ビオラは咄嗟に踵を返す。
 その後ろで、アコラスは地に這いつくばったまま立ち上がろうとしなかった。
「なにをしている!」
 怒号を放ち、引き返す。有無を言わ

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「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第8話

「香花を懐かしみ、紫を邀める 」第8話

 第1話
《 第7話

「水が濁れば、魚は住処を奪われたも同然。防ぐには、濁りの元を取り除かなければならない。だからこそ災いを防ぎ、国主は潔白でいられる」

 訥々と語る男の声は低い。

 角にくくられたカンテラが、軽妙な音を立てて揺れていた。

 牛の歩みはどっしりとしているが、大きく踏み出す度に、背に乗るアコラスの身体は大きく揺さぶられた。

 アコラスは必死にしがみつきながら男を睨む。

 

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