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身体のバネの測り方:Stretch-Shortening Cycle機能を計測する『The Reactive Strength Index(RSI)』

📖 文献情報 と 抄録和訳

反応性筋力指数とその身体的・スポーツ的パフォーマンスの尺度との関連性:メタ分析を伴う系統的レビュー

Jarvis, Paul, et al. "Reactive strength index and its associations with measures of physical and sports performance: a systematic review with meta-analysis." Sports Medicine (2021): 1-30.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:反応強度指数(The Reactive Strength Index; RSI)とは?
- RSIは、個人のストレッチ・ショートニング・サイクル(stretch-shortening cycle; SSC)を効果的に活用する能力を調べるために使用される指標
- SSCとは、「主動作前に逆方向に素早く予備伸長(反動)を加えることで、主動作のパフォーマンスが向上する」というもの
- RSIは、ジャンプの高さまたは飛行時間のいずれかをそれぞれの接地時間で割ることによって算出される(🌍下図 >>> site.)

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🔑 Key points
- 身体的およびスポーツ的パフォーマンスの測定は、反応性筋力指数(RSI)と中程度(筋力、スピード、持久力)および概ね(方向転換スピード)関連している。
- RSIの検査方法には大きな相違があり、ジャンプの種類、ボックスドロップの高さ、RSIの計算に使用する式、測定単位について様々な報告があり、RSIの測定方法には一貫性が必要であることが示されている。
- 現在のところ、水平方向に獲得されるRSIの有効かつ信頼できる測定法は存在せず、スピードなどのタスクと比較して、よりスポーツに特化した測定法を提供することができるかもしれない。

[背景・目的] 反応性筋力指数(RSI)は、アスリートのテストやモニタリングに頻繁に使用されている。スポーツパフォーマンス指標との関連性はタスクによって異なる可能性があるが、文献の統合は行われていない。このメタ分析の目的は、リバウンドジャンプ課題で測定したRSIと、筋力、直線速度、方向転換速度、持久力の測定値との関連を検討することである。

[方法] PubMed、SPORTDiscus、Web of Science、Ovidの各データベースを用いて、メタ解析を含む系統的な文献検索を実施した。包含基準は、(1)少なくとも1つの変数について、RSIと身体的またはスポーツ的パフォーマンスの独立した指標との関係を調べること、(2)地面との接触時間を最小限に抑え、ジャンプの変位を最大にするリバウンドテストの指示を提供する研究を要求した。方法論の質は、Downs and Black Quality Indexツールの修正版を用いて評価した。異質性は、Q統計量とI2により検討した。プールの効果量は、ランダム効果モデルを用いて算出し、小規模研究の偏り(出版バイアスを含む)を評価するためにEggerの回帰検定を用いた。

[結果] レビューされた1320件の引用のうち、合計32件の研究がこのメタ分析に含まれた。RSIは筋力(等尺性:r = 0.356 [95% CI 0.209-0.504]; 等張性:r = 0.365 [0.075-0.654]; プール筋力測定:r = 0.339 [0.209-0.469] )および耐久力(r = 0.401 [0.173-0.629] )と有意で中等度の関連があった.加速度(r = - 0.426 [- 0.562~-0.290] )、最高速度(r = - 0.326 [- 0.502~-0.151] )、および方向転換速度(r = - 0.565 [- 0.726~-0.404] )については有意な中程度の負の関連性が示された。異質性は、すべての指標で些細なものから中程度であり(I2=0~66%)、等張力と方向転換速度で有意であった(p<0.1)。加速度と方向転換速度の両方で小規模研究バイアスの証拠が明らかであった(p<0.05)。

[結論] 我々は、RSIと身体的およびスポーツ的パフォーマンスの独立した測定値との間に主に中程度の関連を確認し、これらの関係の強さは、評価されるタスクと身体の質に基づいて変化した。このメタ分析から得られた知見は、実務者がより的を射た検査やモニタリングのプロセスを開発するのに役立つと考えられる。今後の研究では、より特異性の高いタスクにおいて関連性が強いかどうかを検証することが望まれる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

Stretch Shortening Cycle: SSC。身体のバネ。
バレースパイクの踏み切り、走り幅跳びの踏み切り、バスケットのダンクやリバウンドにいくときの踏み切り。
スプリンターの一歩一歩の蹴り出し、サッカーの切り返し。
野球のピッチングにおけるしなり(主に上半身だが)。
『すべての』と言えるほど、スポーツ動作にはSSCが強く関わっている。
最大筋力だけがパフォーマンスにとってものをいうのであれば、すべてのアスリートがボディビルダーになった方がいい。だが、そうではない。
最大筋力とは違ったパフォーマンスの方向性がある。
その1つが、SSC能力、身体のバネ機能だ。

『RSI』という指標によって、SSC機能を計測できることは大変勉強になった。
そこで思ったことがある。
はて、RSIが低値だった場合、理学療法士やトレーナーは、何ができるか。
それを考えるためには、SSC機能が何によって規定されているか、という因子を知ることが重要。ざっくり、いま思いついた要因と対応する介入案を列挙してみる。

✅ SSCを構成する要因と介入案
1. インターナルショートニングをつくり出す能力:SSCのためには、筋腱複合体のうち、収縮要素である筋を固める必要がある。筋が固定されていないと、張力が腱の弾性エネルギーとして蓄積されない。介入案としては、関節肢位を固定した状態でのジャンプ(床反力-腱の張力だけを利用)などが考えられる。
2. 腱の力学的特性:一定の荷重負荷に対して蓄積される弾性エネルギー量は、腱の力学的特性によって異なる。介入案としては、当該腱に対して習慣的な荷重負荷を加えることで腱を鍛えることなどが考えられる(以下関連note)。
3. 多関節の協働;運動連鎖:例えば、投球動作は最終的にボールに力を加えるのだが、下肢からのエネルギーの伝達が非常に重要な課題だ。ジャンプにおいても最終的に地面に力を加え、反力で動くのだが、体幹や股関節、膝関節の力発揮のタイミングや強さが大きく影響することが推察される。介入案としては、その課題における運動連鎖特性を把握した上での動作練習が考えられる。

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卓球の世界には、力の使い方として借力(チェーリー)と発力(ファーリー)という2つがあるらしい。
借力(チェーリー)とは、相手の力を借りて打つことを指す。
他力本願、大いに結構じゃないか。
自分自身が強大な力をゼロから発することはできなくても、この世界にあふれる力を借りること・生かすことは、別の能力だ。
さらに勉強を進め、SSCに対する評価や介入の知識を体系立てていきたい。
まずは、下肢のSSC機能の評価指標『RSI』という武器を手に入れた!

生きているということは、誰かに借りをつくること。
生きていくということは、その借りを返してゆくこと。

永六輔

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