P2P:Presentation to Paper writing;学会発表と論文執筆をつなぐ
学会発表(Presentation)は、華やかなイメージだ。
気軽な投稿、緩めな査読、スーツ姿、peerとの交流・・・、想像するだけでも胸躍る🌸
一方、論文執筆(Paper witing)は、無機質で重い、そんなイメージだ。
投稿に至るまでの労苦、タコ殴りにされる査読、部屋着での孤独な作業・・・🧊
どうやら、PresentationとPaper writingの間には、とっても大きな川が流れている。
このnoteでは、その川を知り、川を渡るための架け橋『P2P(Presentation to Paper)』を構築することを目的とする。
P2Pは、「学習する医療システム(Learning Health System: LHS)」のうち、D2E(Data to Evidence)を構成する一要素である。
LHSをご存知ない方は、以下noteでザッとイメージを掴んでから、P2Pに着手して欲しい。
今回のnoteでもっとも力を入れて、もっとも共有したいことは『P2Pの介入案』でり、2つの効果的な案を紹介している。ただし、この『P2P』は、発展的・漸進的noteである。介入案は、新たなエビデンスに出会う度、増やしてゆくことを想定している。
▶︎P2Pの疫学:学会発表された演題はどのくらい論文化されている?
✅ ミニレビュー:各学会で発表された演題のうち何パーセントが論文化したか(P2P率)?
(1) カナダ理学医学・リハビリテーション学会:35.8%(187/524)>>> doi.
(2) 欧州物理・リハビリテーション医学会:21.2%(169/779)>>> pubmed.
(3) フランス理学療法士学会:21.2%(49/231)>>> doi.
(4) 米国整形外科足関節学会:口述演題73.7%、ポスター演題55.8% >>> doi.
ミニレビューの結果、21.2〜73.7%と幅広いP2P率となっていた。
日本ではどうだろう?
おそらく、この数値より極端に低いと思う。
自分の周りを見てみると、10人に1人、もっと少ない?、というくらいの印象だ。
▶︎なぜ論文化する必要があるのか?
論文化する必要性、利得については以前noteでまとめたので、そちらを参照されたい。
📗 Note summary
- 生きた証を刻むことだから!:論文化とは、個人の気づきや発見を、共有可能な形でまとめ、公表するもの。その営みによって、「あなたが、いま、生きた、生きていた」、ということが記録され、風化しない歴史の石板に刻み込まれることになる。
- 巨人の肩を建築することだから!:論文化することは、次のNew Normalをつくる営み。論文化という仕事が、強固な巨人の肩を築くことに該当する。
- それが研究者としての仕事だから!:研究者にとって、実績という言葉は基本的には掲載論文のこと。論文実績のない研究者は、仕事をしていない。
- キャリアアップにつながるから!:論文は、自分にとっても、所属する集団にとっても、未知の世界への扉を開く鍵となりうる。
- 書けば、書けるようになるから!:-本は、読めば読むほど豊かになる-文章は、書けば書くほど確かになる-話は、話すほど機敏になる(ジャーナリスト堤未果)
▶︎論文を書き上げる4つの心構え
こちらも過去noteを参照されたい。
📗 Note summary
- 「お前には書く実力がない」ことを大前提にせよ
- 完璧主義は創作の邪魔だ、まずはヘタクソな第一稿を書き上げ、そこから洗練せよ
- モチベーションは書くことがあげてくれると心得よ
- 論文を書くことを習慣にせよ
▶︎P2Pの介入案①:『保護されたブロック研究時間』の確保
📕 研究①:カナダの整形外科研修医を対象とした質的研究
- カナダの整形外科研修プログラムの研修医を対象に、量的および質的質問を含む27項目の横断的調査を実施した
- 約 41%(35/85 人)が、時間が研究にとって最大の障害であると回答した
- 研究のために『保護されたブロック研究時間』は、獲得したグラント数(r = 0.28, p = 0.011)および論文数(r = 0.23, p = 0.031)と正相関があった
- 56%(48/85)が少なくとも3年間の研修期間に1ヶ月(平均5ヶ月)のブロック研究時間をとっていた
● Chan, et al. Canadian Journal of Surgery 52.3 (2009): 187. >>> PMC.
📕 研究②:週1回3時間の必須キャリキュラム
- Boston Combined Residency Programは、3ヶ月間のキャリア開発ブロック(CDB)ローテーションを導入した
- CDBローテーションの重要な要素として、週1回3時間の必須カリキュラムがある。カリキュラムには、研究方法論や、質の向上、患者の安全、医療政策などに関する約25時間のセミナーが含まれていた。
- 実施したプロジェクトの種類を報告した122名のうち、15人(11%)の研修医が出版用に原稿を受理され、さらに22人(16%)が出版用に原稿を提出した(研修医はCDBローテーション前より強化された)。
- 保護された時間、上級教員の指導、プログラム資金を含む専用の学術ローテーションは、小児科研修医による生産的な研究成果につながる可能性がある
● Vinci, et al. Pediatrics 124.4 (2009): 1126-1134. >>> doi.
😊 Super Human's Voice
- 臨床で働きながら研究を志す者にとって、『時間』が最大の障壁であることは明らかだ
- それに対して、『保護されたブロック研究時間』というアイデアは大変有用だと思う
- あとは、『保護されたブロック研究時間』を捻出するための資金的背景や運営者側の判断というところが、実運用に向けた最大の障壁となるだろう
- 医療保険という主に「国」を顧客とした資源だけでは、昨今、臨床業務だけで埋め尽くされる(PTは特に)
- もう1つの歯車が、エンジンが、必要だ。それは、いつも考えている。
▶︎P2Pの介入案②:専門的な教育カリキュラムの構築
📕 研究①:研修医専用の研究プログラムが大きな成果を挙げた
- 構造化された整形外科研修医研究プログラムを確立することによって、査読付き論文の量と質を徹底的に評価した報告はない
- 2006年に新しい研究方針と、その方針をより正式に指示・監視する研究委員会で構成される、専門の研修医研究プログラムを立ち上げた
【研修医研究プログラムの概要】
(1)研修医一人当たりのオリジナル研究プロジェクトの数が2つ
(2)各プロジェクトには少なくとも1人の教員の指導が必要である
(3)プロジェクト提案書は新しく設けられた科内の研究委員会の審査を受け、必要に応じて修正しなければならないこと
(4) 研修医は、正式なプロジェクトとして承認される前に、全教授にプロジェクト案を提示し、過半数の承認を得ること
(5)プロジェクト承認後は、研究委員会がプロジェクトの進捗を監視すること
(6)プロジェクトの完了は、査読付き出版物のための原稿提出によって達成されること。
- 研修医専用研究プログラム実施後に研修を受けた研修医は、プログラム実施前に研修を受けた研修医よりも研修期間中に多くの論文を発表し(研修医一人当たり1.15本対0.79本、95%CI [0.05,0.93]、p = 0.047)、研究プログラムを行ったグループの方が雑誌のインパクトファクターは大きかった(一人当たり1.25本対0.55本、95%CI [0.2,1.18]、p = 0.005).
- 専用の研修医研究プログラムの実施により、整形外科研修医の研究発表の量とある程度の質が向上することを示唆した
● Torres, et al. Clinical Orthopaedics and Related Research® 473.4 (2015): 1515-1521. >>> doi.
📕 研究②:4つの柱を持つ研修プログラムの成果
- 研修医の研究の成功を促進するために、正式なプログラムが開発された
【研修医研究プログラムの概要】
(1)明確な目標の設定:1)レジデント・リサーチ・デイへの80%の参加、2)研究の質の向上、3)カナダ一般外科学会カナダ外科フォーラムへの演題登録率50%(最低でも30%の採用率)、4)出版用に提出される論文数の増加
(2)メンター制度:年に2回、各研修医と面談し、進捗状況を確認し、成功への障害を特定し、その障害を克服するための支援を提供する。また、研修医は必要に応じて指導医と面談し、特定の研究プロジェクトの進捗状況を話し合う。
(3)学習の場の提供:研修医には半日学術セミナーが提供される。これらのセッションへの出席は必須であり、方法論の批判的評価に焦点を当てた隔月のジャーナルクラブへの出席も必須である。
(4)保護されたブロック研究時間の提供:研修医には、研修医3年目のオプションとして研究ブロックを利用することが推奨されている。
- 全体として、研究生産性(抄録、論文、RRD発表)は研修医研究プログラムの前後で増加し、平均発表抄録数は統計的に有意に増加した。
- 明確で変更可能、かつ達成可能な目標を設定し、研究成功のためのツールを提供したことが、このプログラムの成功に寄与した。
● Allen, et al. Canadian Medical Education Journal 8.3 (2017): e13. >>> PMC.
😊 Super Human's Voice
- 明確な目標設定、メンター制度、強制された学習の場、保護されたブロック研究時間は、中でも重要そうな印象を受けた
- そして教育プログラムの出口を『査読付き出版物のための原稿提出によって達成されること』にしていることはかなり厳しい条件だが、P2Pのためには愛の鞭になるだろう
- これらのプログラムは主に「研修医」を対象としているため、臨床に従事している理学療法士バージョンのプログラムを作ってゆく必要性があるだろう
▶︎P2Pに関連する名言
とにかく大胆に走り書きし、間違いを犯しても前に進んでいくしかない
紙をじゃんじゃん使おう
完璧主義はいじわるで冷血な理想主義そのものだけれど、
混沌は芸術家の真の友だちなのだ
アン・ラモット
必要なだけ机の前に座っていれば、
きっと何かが起こる
アン・ラモット
文芸作品がどれほどの高みを極めるかは、苦しみが作家の心をどれほど深く削ったかによる
それは井戸を深く掘れば掘るほど、水面が上昇するのと同じだ
プルースト
作品は作者を離れ、作品だけで残る
そういう物が書ければ書きたいものだ
志賀直哉
紙は、人間より辛抱強い
アンネ・フランク
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