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握力を標準化する:最も適する分母は?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

成人の握力はどのように標準化されるべきか?アロメトリーによる新たな知見と関連する参照曲線の発見

Nevill AM, Tomkinson GR, Lang JJ, Wutz W, Myers TD. How Should Adult Handgrip Strength Be Normalized? Allometry Reveals New Insights and Associated Reference Curves. Med Sci Sports Exerc. 2022 Jan 1;54(1):162-168. 

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:アロメトリーとは?
- 相対成長とも呼ばれる。
- 動植物の個体サイズが変わることにより、代謝率や身体の部分の長さや大きさ(今回は握力)が変化するのかを比較するスケーリングの法則性のことである。
- 身体の部分のサイズや代謝率などは、個々の身体全体のサイズの変化とは異なる成長率をとる。アロメトリーとは、そのような法則性を調べる研究領域であり、またその結果得られた法則のことである。

[背景・目的] 握力(HGS)は健康状態を表す重要な指標である。HGSは体格と強い相関があるため、ほとんどの研究者は、集団内の強さをより敏感に示す指標として、HGSを体格の何らかの指標で正規化している。我々は、1)成人における体格差を除去(正規化)するための最適な体格寸法を特定すること、2)特定した体格寸法を用いてHGSの標準参照百分位を生成することを目的とした。

[方法] データは、米国の非施設市民人口の代表的なサンプルであるNational Health and Nutrition Examination Surveyから得たものである。除外した結果、20歳以上の成人8690人が最終的なサンプルとなった。HGSはハンドヘルドダイナモメトリーで測定した。体格には、体格、身長、腰回りが含まれる。HGSに関連する最も適切な寸法は、アロメトリーにより同定される。位置、スケール、形状について一般化加法モデルを用いて、正規化したHGSのセンチルカーブを当てはめた。

[結果] その結果、HGSを正規化するためには、体格や体格指数が適切でないことが示唆された。体格、身長、ウエスト周囲径の3つの寸法すべて、または体格と身長の縮小サブセット、あるいは身長のみを組み込むと、HGSに関連する最も適切な正規化(体格)寸法は、個人の体格の断面または表面積測定(すなわちL²、ここでLは体格の線形寸法)であることが示唆された。身長もまた、HGSに関連する最も優れたボディサイズ寸法として同定された。我々はHGSを身長²(すなわち、HGS/HT²)で正規化することを推奨する。さらに、年齢層および性別ごとのHGS/HT²の百分位曲線が提供された。

[結論] 成人のHGSを身長²でスケーリングすることは、集団ベースの研究において強度を正規化するのに役立つと考えられる。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

体重100kg。
この体重をどう思うか?
重い?軽い?
答えは、不明である。
なぜなら、重いとか軽いとかの価値判断は、「身長」とセットになって可能になる(BMI)からだ。
・身長150cm & 体重100kg → 重い(BMI:44.4)
・身長220cm & 体重100kg → 正常(BMI:20.7)

標準化とは、このように非常に親密に関わりあって1つの価値を示しうるものを、「そもそも、ニコイチにしちゃったらいいんじゃん?」という考え方だと思う。

体重、量的なもので意味を見出しにくいデータ。
握力、量的なもので意味を見出しにくいデータ。

だが、どうだろう。
BMI、これは意味・価値を持つ。重い、軽いという。
握力/身長²、これも意味・価値を持つ。強い、弱いという。

標準化のメリットとは何だろう?
それは、一言で量的な情報と価値判断の両方を伝えられること。
BMI30と言われれば、大体の体格のシルエットと「重いなぁ」という価値判断が共有される。
また、ミクロな話でいえば、統計解析における多変量解析に突っ込む独立変数の数を減らせる。本来であれば従属変数である握力の独立変数に身長を入れ込む必要があるが、標準化された指標を用いていれば突っ込む必要がなくなるというわけだ。
1つ変数を減らすことができれば、サンプルサイズを10減らせる、これは大きい。
標準化のメリットとは、スマート化だ。

また、標準化されたデータの大きな特徴は、上でも述べたように、そのデータが意味をもち、分析者側の意思を反映していること、分析者がつくった価値であるということ
たとえば、BMIは「重さ」という意味をもち、分析者は「重さをみたい」という意思をもったことが反映され、分析者が「重さ」という価値をつくっている。
その意味で標準化は、それ自体作品だ、絵画だ、芸術だ。
Nevill先生は「握力の強さ」という価値をつくった、描いた!

今日は、元旦。
2022年。
現実にどんな意思を持つ?
どんな意味を見出す?
どんな価値をつくる?
全然、わからない。だからこそ、楽しみだ。

労苦を厭わない
芸術的な臨床研究者になれ
たとえばマリーキュリーのような

本年も宜しくお願い致します。

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